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白馬は馬にあらず

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 ある男が、姫騎士に問うた。
「姫騎士は諸国を護る存在ゆえ関所で通行税がかからぬと言うが、姫騎士の乗る白馬はどうか」と。
 姫騎士、これに答えて曰く。
「白馬にもまた通行税はかからぬ。我が騎乗する白馬は馬にあらず」
 男は怪訝な面持ちでさらに問うた。
「白馬は馬ではないとはどういうことか」と。
 姫騎士は面倒くさげに答えた。
「馬はその形によって人が名づけたもの。白は色に名づけたもの。形に名づけたものと、色に名づけたものは相容れない。形に色は含ず、色に形は含まれない。白馬とは形と色の組み合わせであるから、『白馬』はすでに『馬』として呼べるものとは別の存在なのだ」
 男は姫騎士の言葉に納得がゆかず、さらに続けた。
「しかし、白馬も馬の一種だ。白馬は馬ではないとはおかしいではないか。」
 それを聞いた姫騎士は真顔になった。
「あなたは勘違いをしておられる。白馬は馬の一種ではない。証拠を見せよう」
 言うと姫騎士は背中の大太刀を抜いて振り上げ、自分が乗ってきた白馬の真正面から稲妻の速さで振り下ろした。
 白馬は真っ二つになり倒れる。その断面は金属の光沢を持っていた。しばらくすると、傷口から銀色の液体が溢れ、全体が水銀じみた液体金属となり蠢きはじめる。そして再び馬の形になり、白い色に変わった。
「かように、白馬は馬ではないのだ。目立たぬよう馬に似せて作ってあるが、馬とは別ものだ。野生の白馬でさえ、いつでも姫騎士が使えるように繁殖させておるものだ」
「なぜ、みんなそれを知らぬのか」
 男は驚いて言った。
「宣伝はしておらぬからな」
 姫騎士はニヤリと笑って言った。
 男は狼狽して尋ねる。
「白馬が馬ではないというなら、それに乗る者も人ではないのではないか」と。
「それを知りたければ私を真っ二つに斬ってみるがいい。ただし、ただでは斬られはせぬがな」
 それを聞くと男は黙り込んだ。
 姫騎士は白馬に乗って去っていった。
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