〜幽霊の記憶〜

古波蔵くう

文字の大きさ
上 下
4 / 7

4.美咲の家族との再会:『特別な約束』

しおりを挟む
 桜井家。
 ーーピンポーン♪
 インターホンがなる。
「どちら様ですか?」
 女性の声が聞こえてきた。美咲の母親だろうか。俺は美咲に身体を委ねた。
「お母さん……この声に聞き覚えある?」
 美咲がそう語りかけると、すぐに扉が開いた。俺は今、姿も美咲になっている。
「美咲! 今までどこにいたの!」
 美咲の母親は、身体が俺だと知らずに抱き締める。
「おかえりなさい……美咲、入って」
 美咲に身体を貸している俺は、家に上がった。
「お父さん! 美咲が帰ってきたよ!」
 美咲の母親が、父親を呼ぶ。
「美咲! いつぶりだ? 数年ぶりか?」
 父親も俺だと知らずに抱きしめる。
 桜井家、リビング。
「美咲……交通事故に遭って亡くなったって知ってショックだったわー」
 母親は、目から鱗みたいに涙が出ている。
「うん……でも亡くなったのは、ホントだよ」
 美咲がそう言うと、母親も父親も目を丸くした。
「え? どういうことだい?」
 美咲の父親が聞く。
「実は、私が今こうして姿見えているのも仮の人格に憑依しているから……今は、健太さんの身体を借りて話しているの」
 美咲は父親と母親に、説明した。
「じゃあ、ちょっと健太さんとお話ししたいから身体を返してもらえる?」
 母親が提案する。
「分かった……」
 美咲は俺に身体を返す。俺は目を覚ます。
「え? ここは……」
 俺が美咲だった頃の記憶はない。
「初めまして、健太さん……私は美咲の母親です」
 美咲の母親が俺に挨拶する。
「同じく、美咲の父親です」
 父親も挨拶する。
「あ、はい! 本日はお話があって足を運びにきました」
 俺は父親と母親に会釈する。
「お話しとは?」
 母親が尋ねる。
「実は、美咲さん? が、成仏できなくて困っていましてね……そして話したところ、家族の約束を果たさないと成仏できないということで隣町からわざわざ訪れてきました」
 俺は事の経緯を説明した。
「確かに、この約束はその日……行う予定だった」
 父親の表情が険しくなる。
「だが、それは他所の人が参加させるわけには行かない」
 父親が言う。確かに、赤の他人である俺に憑依しても。となる。
「では、俺は目隠しと耳栓をして沈黙しときます……そして身体を美咲にお貸しします……それでよろしいですか?」
俺は提案した。
「美咲と身体から離すことはできないのですか?」
母親が問いかける。
「可能ですけど、ぬいぐるみとか手足のあるものだったら憑依させることは可能だと思いますけど」
俺が答えを出すが、難しいところだ。ちゃんと人間の形をしたものじゃないといけない気がする。
「人形もぬいぐるみも無いし、仕方がない……では、健太さん目隠しと耳栓と沈黙をお願いします」
父親がアイマスクと耳栓を用意してくれた。
「ありがとうございます」
俺はアイマスクで目を覆い、耳栓で音が聞こえなくした。そして口を閉ざす。そして、身体を美咲に貸した。
「じゃあ、始めるか」
美咲の父親と母親はリビングを後にする。美咲も部屋を出る。
 古びた時計台。
「この時計台には、ある指定の時間になるとベルがなる……そのベルと同時にここに集まって、家族の絆を再認識することが美咲との約束だ」
美咲の父親は、俺に説明しているのだが俺にはその声は到底聞こえない。
「お父さん……健太さんに説明しても今、耳栓しているから聞こえないと思うよ?」
美咲が指摘してくれた。いい娘に育ったなと親が思うだろう。
「もうそろそろ、指定の時間だな……みんな自室に行こう」
どうやら、自室からこの時計台の前まで走るっぽい。
 指定の時間。
ーーゴーン、ゴーン、ゴーン
とても低いベルの音だ。すると、ダダダッ!と言う走る音が微かに聞こえた。
「みんな同じ時間に到着! 家族の絆を再認識できた!」
父親が母親と身体を貸した美咲を抱き上げる。俺は思ってしまう。
《この約束は、必要か?》
と。まあ、赤の他人である俺が口出しする権利なんてないと思う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~

蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。 なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?! アイドル顔負けのルックス 庶務課 蜂谷あすか(24) × 社内人気NO.1のイケメンエリート 企画部エース 天野翔(31) 「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」 女子社員から妬まれるのは面倒。 イケメンには関わりたくないのに。 「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」 イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって 人を思いやれる優しい人。 そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。 「私、…役に立ちました?」 それなら…もっと……。 「褒めて下さい」 もっともっと、彼に認められたい。 「もっと、褒めて下さ…っん!」 首の後ろを掬いあげられるように掴まれて 重ねた唇は煙草の匂いがした。 「なぁ。褒めて欲しい?」 それは甘いキスの誘惑…。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

処理中です...