72 / 123
ケモノはシーツの上で啼く Ⅰ
16.視線の先
しおりを挟む
想いを告げたので、斎賀を見つめることについて斎賀自身に隠す必要がなくなった。
とはいえ、あまり見つめすぎていても変に思われてしまうので、一応周りの目は気にしている。
ただ、斎賀と目が合っても慌てて逸らして誤魔化す必要はなくなった。
それは少しだけ、斎賀の方が躊躇するくらいだった。きっと視線を感じすぎて、見つめすぎだと呆れられているに違いない。
けれど、柴尾はただ見つめるしかできなかった。
志狼のおかげで、自分が最初から諦めるつもりの恋をしていたことに気付けた。
努力することで何か変わるのか。
けれど、ただでさえ迷惑に思われているかもしれないと思うと、少し勇気が出ない。
たまに顔を合わせる程度なら良いが、斎賀は毎日顔を合わす相手なのだ。下手な行動はできない。
そう考えると、やはりいつもの恋愛とは違ってどう行動すべきかに迷いが生じ、結果、斎賀を大人しく見つめるしかできずにいた。
事例がないだけに、同性に恋をするのは難しい。
そんなことを考える日々が、続いていた。
そんなある日のことだった。
休みの日、屋敷に残っていた者たちと昼食を終え、柴尾は皆と一緒に食堂で歓談していた。
台所で食器洗いの手伝いをしてきた子供らが戻ってきて、一緒に斎賀を連れていた。
「この子の服を作りに、仕立屋へ行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
皆が頷くと、志狼がイスに座ったまま手を上げた。
「斎賀様、俺も一緒に行っていいですか?」
斎賀が外出する時に志狼が付いて行きたがるのは、いつものことだ。
「志狼兄ちゃんは、ホント斎賀様にべったりだなー」
「いい加減、親離れしたら?」
年下にまで揶揄われ始めた志狼が、むぅと頬を膨らませる。
「別に、俺も何か服を見ようと思っただけだからなっ」
言い訳にしか聞こえない志狼の言葉に、周りは笑うだけだ。
「では、一緒に行くとしよう」
斎賀が笑むと、志狼は嬉しそうに立ち上がった。
本当に、自分に正直な志狼が羨ましいと思う。
斎賀のことが大好きだと、一緒にいたいと、志狼のように堂々と言えたらいいのに。
しかし、ただ敬愛している志狼と違い、邪まな感情を抱いている柴尾にはそんな勇気はない。
志狼は斎賀の傍へと近付き、一緒に出掛ける子と何やら話をして笑い合う。隣の斎賀に話しかけ、嬉しそうに笑う。
それを、柴尾は羨ましそうに見つめるしかない。
行ってくるというように志狼が手をひらひらと振ったので、柴尾は手を振り返した。
「では、行ってくる。留守を頼んだ」
「お気をつけて」
羨ましく感じながらも、三人を見送る。
志狼と目が合った。
何故かじっと見つめられ、どうかしたのかと不思議に思う。
志狼は斎賀の方を向き直った。
「斎賀様。柴尾も行きたいって!」
「え?」
少し驚いた顔で、斎賀が柴尾に視線を送った。
驚くのは、柴尾の方だ。
「えっ?」
唐突にそんなことを言われ困惑しながら志狼を見ると、にこにこと笑っているだけだ。
「か、構わないが」
斎賀にしては珍しく、一瞬戸惑ったような返事だった。
そして、柴尾も含めた四人で出掛けることとなった。
どうして志狼には、柴尾の気持ちが分かったのか。
どちらかといえば、志狼は鈍感だ。もしかして、そんな志狼にすら気付かれるほど、羨ましそうな顔で見ていたとでもいうのか。
「何でいきなりそうなるんだ?」
仕立屋に向かいながら訊ねると、志狼から何でもない様子で答えが返ってきた。
「だって、こないだ腰紐が欲しいって言ってただろ。一緒に行けばいいと思って」
「……」
そんなこと、柴尾ですら忘れていた。そういえば、紐が擦れてしまっていたものがあったのだった。
「なんだ……」
安堵の息を吐く。
志狼に気取られるほどの、露骨な態度をしていたのだと思ったが、そうではなかったようだ。
柴尾は志狼を揶揄って遊ぶのが好きだが、最近はどうも柴尾の方が志狼に振り回されているように感じる。
志狼のくせに、と小さく笑みを零しながら呟く。
何だか少し悔しい気持ちになった。
とはいえ、あまり見つめすぎていても変に思われてしまうので、一応周りの目は気にしている。
ただ、斎賀と目が合っても慌てて逸らして誤魔化す必要はなくなった。
それは少しだけ、斎賀の方が躊躇するくらいだった。きっと視線を感じすぎて、見つめすぎだと呆れられているに違いない。
けれど、柴尾はただ見つめるしかできなかった。
志狼のおかげで、自分が最初から諦めるつもりの恋をしていたことに気付けた。
努力することで何か変わるのか。
けれど、ただでさえ迷惑に思われているかもしれないと思うと、少し勇気が出ない。
たまに顔を合わせる程度なら良いが、斎賀は毎日顔を合わす相手なのだ。下手な行動はできない。
そう考えると、やはりいつもの恋愛とは違ってどう行動すべきかに迷いが生じ、結果、斎賀を大人しく見つめるしかできずにいた。
事例がないだけに、同性に恋をするのは難しい。
そんなことを考える日々が、続いていた。
そんなある日のことだった。
休みの日、屋敷に残っていた者たちと昼食を終え、柴尾は皆と一緒に食堂で歓談していた。
台所で食器洗いの手伝いをしてきた子供らが戻ってきて、一緒に斎賀を連れていた。
「この子の服を作りに、仕立屋へ行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
皆が頷くと、志狼がイスに座ったまま手を上げた。
「斎賀様、俺も一緒に行っていいですか?」
斎賀が外出する時に志狼が付いて行きたがるのは、いつものことだ。
「志狼兄ちゃんは、ホント斎賀様にべったりだなー」
「いい加減、親離れしたら?」
年下にまで揶揄われ始めた志狼が、むぅと頬を膨らませる。
「別に、俺も何か服を見ようと思っただけだからなっ」
言い訳にしか聞こえない志狼の言葉に、周りは笑うだけだ。
「では、一緒に行くとしよう」
斎賀が笑むと、志狼は嬉しそうに立ち上がった。
本当に、自分に正直な志狼が羨ましいと思う。
斎賀のことが大好きだと、一緒にいたいと、志狼のように堂々と言えたらいいのに。
しかし、ただ敬愛している志狼と違い、邪まな感情を抱いている柴尾にはそんな勇気はない。
志狼は斎賀の傍へと近付き、一緒に出掛ける子と何やら話をして笑い合う。隣の斎賀に話しかけ、嬉しそうに笑う。
それを、柴尾は羨ましそうに見つめるしかない。
行ってくるというように志狼が手をひらひらと振ったので、柴尾は手を振り返した。
「では、行ってくる。留守を頼んだ」
「お気をつけて」
羨ましく感じながらも、三人を見送る。
志狼と目が合った。
何故かじっと見つめられ、どうかしたのかと不思議に思う。
志狼は斎賀の方を向き直った。
「斎賀様。柴尾も行きたいって!」
「え?」
少し驚いた顔で、斎賀が柴尾に視線を送った。
驚くのは、柴尾の方だ。
「えっ?」
唐突にそんなことを言われ困惑しながら志狼を見ると、にこにこと笑っているだけだ。
「か、構わないが」
斎賀にしては珍しく、一瞬戸惑ったような返事だった。
そして、柴尾も含めた四人で出掛けることとなった。
どうして志狼には、柴尾の気持ちが分かったのか。
どちらかといえば、志狼は鈍感だ。もしかして、そんな志狼にすら気付かれるほど、羨ましそうな顔で見ていたとでもいうのか。
「何でいきなりそうなるんだ?」
仕立屋に向かいながら訊ねると、志狼から何でもない様子で答えが返ってきた。
「だって、こないだ腰紐が欲しいって言ってただろ。一緒に行けばいいと思って」
「……」
そんなこと、柴尾ですら忘れていた。そういえば、紐が擦れてしまっていたものがあったのだった。
「なんだ……」
安堵の息を吐く。
志狼に気取られるほどの、露骨な態度をしていたのだと思ったが、そうではなかったようだ。
柴尾は志狼を揶揄って遊ぶのが好きだが、最近はどうも柴尾の方が志狼に振り回されているように感じる。
志狼のくせに、と小さく笑みを零しながら呟く。
何だか少し悔しい気持ちになった。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
お人好しは無愛想ポメガを拾う
蔵持ひろ
BL
弟である夏樹の営むトリミングサロンを手伝う斎藤雪隆は、体格が人より大きい以外は平凡なサラリーマンだった。
ある日、黒毛のポメラニアンを拾って自宅に迎え入れた雪隆。そのポメラニアンはなんとポメガバース(疲労が限界に達すると人型からポメラニアンになってしまう)だったのだ。
拾われた彼は少しふてくされて、人間に戻った後もたびたび雪隆のもとを訪れる。不遜で遠慮の無いようにみえる態度に振り回される雪隆。
だけど、その生活も心地よく感じ始めて……
(無愛想なポメガ×体格大きめリーマンのお話です)
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる