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ケモノはシーツの上で啼く Ⅰ

16.視線の先

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 想いを告げたので、斎賀を見つめることについて斎賀自身に隠す必要がなくなった。

 とはいえ、あまり見つめすぎていても変に思われてしまうので、一応周りの目は気にしている。
 ただ、斎賀と目が合っても慌てて逸らして誤魔化す必要はなくなった。

 それは少しだけ、斎賀の方が躊躇するくらいだった。きっと視線を感じすぎて、見つめすぎだと呆れられているに違いない。

 けれど、柴尾はただ見つめるしかできなかった。

 志狼のおかげで、自分が最初から諦めるつもりの恋をしていたことに気付けた。
 努力することで何か変わるのか。
 けれど、ただでさえ迷惑に思われているかもしれないと思うと、少し勇気が出ない。

 たまに顔を合わせる程度なら良いが、斎賀は毎日顔を合わす相手なのだ。下手な行動はできない。
 そう考えると、やはりいつもの恋愛とは違ってどう行動すべきかに迷いが生じ、結果、斎賀を大人しく見つめるしかできずにいた。

 事例がないだけに、同性に恋をするのは難しい。
 そんなことを考える日々が、続いていた。



 そんなある日のことだった。
 休みの日、屋敷に残っていた者たちと昼食を終え、柴尾は皆と一緒に食堂で歓談していた。
 台所で食器洗いの手伝いをしてきた子供らが戻ってきて、一緒に斎賀を連れていた。

「この子の服を作りに、仕立屋へ行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
 皆が頷くと、志狼がイスに座ったまま手を上げた。

「斎賀様、俺も一緒に行っていいですか?」
 斎賀が外出する時に志狼が付いて行きたがるのは、いつものことだ。

「志狼兄ちゃんは、ホント斎賀様にべったりだなー」
「いい加減、親離れしたら?」
 年下にまで揶揄われ始めた志狼が、むぅと頬を膨らませる。

「別に、俺も何か服を見ようと思っただけだからなっ」
 言い訳にしか聞こえない志狼の言葉に、周りは笑うだけだ。

「では、一緒に行くとしよう」
 斎賀が笑むと、志狼は嬉しそうに立ち上がった。

 本当に、自分に正直な志狼が羨ましいと思う。

 斎賀のことが大好きだと、一緒にいたいと、志狼のように堂々と言えたらいいのに。
 しかし、ただ敬愛している志狼と違い、邪まな感情を抱いている柴尾にはそんな勇気はない。

 志狼は斎賀の傍へと近付き、一緒に出掛ける子と何やら話をして笑い合う。隣の斎賀に話しかけ、嬉しそうに笑う。
 それを、柴尾は羨ましそうに見つめるしかない。

 行ってくるというように志狼が手をひらひらと振ったので、柴尾は手を振り返した。
「では、行ってくる。留守を頼んだ」
「お気をつけて」
 
 羨ましく感じながらも、三人を見送る。
 志狼と目が合った。

 何故かじっと見つめられ、どうかしたのかと不思議に思う。

 志狼は斎賀の方を向き直った。
「斎賀様。柴尾も行きたいって!」

「え?」
 少し驚いた顔で、斎賀が柴尾に視線を送った。
 驚くのは、柴尾の方だ。
「えっ?」

 唐突にそんなことを言われ困惑しながら志狼を見ると、にこにこと笑っているだけだ。

「か、構わないが」
 斎賀にしては珍しく、一瞬戸惑ったような返事だった。

 そして、柴尾も含めた四人で出掛けることとなった。

 どうして志狼には、柴尾の気持ちが分かったのか。
 どちらかといえば、志狼は鈍感だ。もしかして、そんな志狼にすら気付かれるほど、羨ましそうな顔で見ていたとでもいうのか。

「何でいきなりそうなるんだ?」
 仕立屋に向かいながら訊ねると、志狼から何でもない様子で答えが返ってきた。

「だって、こないだ腰紐が欲しいって言ってただろ。一緒に行けばいいと思って」
「……」

 そんなこと、柴尾ですら忘れていた。そういえば、紐が擦れてしまっていたものがあったのだった。

「なんだ……」
 安堵の息を吐く。

 志狼に気取られるほどの、露骨な態度をしていたのだと思ったが、そうではなかったようだ。

 柴尾は志狼を揶揄って遊ぶのが好きだが、最近はどうも柴尾の方が志狼に振り回されているように感じる。

 志狼のくせに、と小さく笑みを零しながら呟く。
 何だか少し悔しい気持ちになった。
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