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ケモノはシーツの上で啼く Ⅰ

6.隣町へ

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 ファミリー内での風邪が収まって十日ほどして、柴尾は志狼と一緒に隣町へと来ていた。
 隣町といっても、柴尾たちが住んでいる町から、川沿いを歩き小さな森を抜け北へ一時間ほどの場所にある。

 フリーのハンターから、隣町に腕のいい靴職人がいるという話を志狼が聞いてきた。
 狩りには、やはり自分の足にぴったりと合い、それでいて軽くて頑丈な靴が求められる。新しい靴を買うか、使っている靴を修理するか、一度店に行ってみようという話になり、二人で訪れたのだった。

 そして、靴屋に置かれていた靴を試着して、二人とも新しい靴が欲しくなった。今履いている靴は、予備として修理して使うこともできる。

 足の採寸などを終え、納期はひと月ほどかかるということを靴職人から説明を受けた。
「悪いな。他にも依頼を受けてるもんでな」
「いえ。問題ありません。よろしくお願いします」

 腕が良ければ人気があり、順番待ちしなければならないのは当然のことだ。
 前金を払うと、柴尾と志狼は靴屋を出た。

「せっかくだし、色々見て行こうよ」
 普段来ることのない町に、志狼は興味津々といった様子で柴尾を誘った。

 町の造りはだいたいどこも同じだが、住んでいる町の方が大きい分、道路の広さが少し違う。そんな違いや、町の雰囲気を見ながら、二人は大通りへと出た。

 この町にしか売っていないようなものを土産に買って帰ろうと、二人は市場に寄ることにした。

「その前に、腹ごしらえ! この町は何が美味いんだろ」
 志狼はきょろきょろと周囲を見回す。

 大通りには飲食店も多く、昼には早い時間だが周りには美味しそうな匂いが漂っていた。
 途中、立ち話をしていた婦人たちに市場の場所を訊ね、ついでにお勧めの飲食店を訊く。魚料理の美味しい店があると聞き、二人はそこへ行くことにした。

 昼前の大通りは、多くの人が歩き賑わっていた。教えてもらった緑色の看板を目印に、通りの両側を探し見ながら歩いた。

 右を向いていた時、ふと視界に入ったものに柴尾は足を止めた。
「え……?」

 いや、まさか、見間違いだ。
 そんなこと、あるはずがない。
 そう思い歩き出すが、確かに目にしたはずだと気になって仕方がない。

 柴尾は前を歩く志狼を呼び止めた。
「何?」
「さっき通り過ぎた、路地の……見た?」

 何のことかと、志狼は首を傾げた。
 あんなものを見たら、志狼なら柴尾以上に驚くはずだ。志狼は見ていないのだと分かる。

「何かあった?」
「………」

 こんなことを言えば、ありえないと笑われるに違いない。柴尾ですら自分の目を疑ってるのだから。

 もやもやとしたものが心を占める。
 きっと見間違いだと思っているくせに、そうではないと分かってもいる。それを確認せずにはいられない。

「悪い。先に店に行ってて。すぐ行くから」
「えっ。柴尾!?」

 柴尾は踵を返すと、志狼を置いて歩いてきた道を戻った。

 通りを歩く人々の間を縫いながら、先ほどの路地へと近づく。建物の陰に、木箱と樽が並べられていた。
 そこには、やはり二人の若い人間の男がいた。

 緊張で、思わず唾を飲み込む。柴尾はゆっくりと、路地に足を踏み入れた。

 立っている男が柴尾に気付くと、樽の上に座っていた男も振り向いた。
「何? 何か用?」
 樽に座っている、赤い髪の青年が訊ねた。

 立っている男は二十歳くらいのようだが、赤い髪の青年はそれより若いようだ。

「あ、あの……」
 彼らなら、柴尾のもやもやとした気持ちを導いてくれるような気がした。

 柴尾はゆっくりと近づく。

「不躾なことを訊いて、申し訳ない。君たち、今……キス……していましたよね?」
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