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そしてケモノは愛される

32.違和感

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 ふと最近、志狼が病院へ顔を出す頻度が以前よりも増えたことに気付いた。

 今までは週に一回納品があればいい方だったが、最近は納品が一つでも訪れるし、ちょっとした擦り傷でも立ち寄るようにしているようで、よく顔を出す。

 むしろ、また予定のルート以外にシャクリョウを探しに行ってくれているんじゃないかと、心配してしまうほどだ。わざわざ仲間と別行動をしているのであれば、その分帰りも遅くなっているはずだ。

 そして、今日も志狼は納品に訪れた。

「志狼。毎回遅いと、お前の保護者が心配するんじゃないか?」
 恋人とは言わずに、斎賀のことを訊ねた。

 斎賀は決して狭量ではないが、その溺愛ぶりを考えれば、志狼に気がある穂積のもとを頻繁に訪れているのはいい気はしないはずだ。

 だが志狼は、斎賀のことを保護者と言われたことで、また子供扱いされたと思ったらしい。
「だから、俺は大人だってば。多少帰りが遅かろうと平気だ」

 志狼の隣で祖母が、心配性だねぇと穂積を見る。
 穂積は小さく溜め息をついた。
「それ食ったら帰るんだぞ」

 祖母からもらったパンにかじりつく志狼を横目に、二人を待合室に残し穂積は診察室へと戻ることにした。

 今日は週に一度の医療用品の在庫確認の日だ。いつまでも二人と一緒に喋っていたら、終わるものも終わらない。穂積は仕事の続きをすることにした。

 今日一日の患者のカルテを確認し直し、棚に片付ける。
 机の上を片付けると、在庫確認に取り掛かることにした。

 まずは診察室の薬棚から在庫を確認していく。
「湿布を少し多めに買っとくか……。そういや、解毒剤があと少しだったっけ」
 穂積は補充する医薬品などを、紙に書きだしていった。

 独り言のようにぶつぶつと呟くことを繰り返し、薬棚をチェックし終える。
 診察室の次は、備品置き場の在庫確認だ。
 方向転換し備品置き場の方へ行こうとした時、診察室の入り口にひょっこりと顔を出している志狼に気付いた。

「まだいたのか? ばあさんは?」
「帰った」
 待合室の明かりは消されていた。いったい、いつからそこに突っ立っていたのか。

「邪魔しないから、もう少し居てもいい? 手伝えることがあれば手伝うけど」

 早く帰れと言っているのに、志狼はまだいるつもりらしい。
 穂積は怪訝な顔をした。

 てっきりこの前の相談だけかと思っていたが、病院に来る頻度といい、まだ他にも相談事があるのではないかと思えた。

「……何かあったのか?」
 志狼が言うまでは訊ねるつもりはなかったのに、つい訊いてしまった。
 訊ねられた意味が分からず、志狼が首を傾げた。

「斎賀と何かあったか? 内容によっては相談に乗ってやらないでもないが……」
 驚きの表情をした後、志狼は慌てて首を横に振った。
「何もないよっ。凄く順調」

 穂積の気にしすぎだったようだ。そうか、とだけ返す。

「……。俺、何か変だった?」
 心配そうに志狼が訊ねた。

 ここ最近、いつもと様子がおかしかったことを、志狼自身は気付いていないようだ。
 もしかしたら、穂積が志狼を好きだから、些細なことも気になってしまっているだけなのかもしれない。

「何もないならいい」

 穂積は志狼の頭に手を乗せた。僅かにぴくりと反応した茶色の耳と髪を、一緒に撫でる。
「でも何か困ってるならいつでも言え。斎賀の愛が重すぎてうざったい、とかな」

 志狼がふふっと笑う。
「何だよ、それ」
「お前が遠慮して言えないことも、俺なら遠慮なく言ってやれる。斎賀に文句を言いたい時は頼れ」
「ははっ」
 笑う志狼を見ていると、穂積の杞憂だったのだと思えた。

「斎賀様には、凄く大事にしてもらってるよ」
「そうか。それならいい」

 穂積は志狼の頭から手を離した。
 だが、離した手が志狼の顔をよぎると、すっとその表情が翳った。

 思わず注視する。
 こんな表情をする志狼を見ることがない。
 穂積は違和感に気付いた。

「俺が……おかしいんだ」

「え?」
 小さく呟かれた言葉に訊き返す。

 志狼は少し口をつぐんだ。
 躊躇いの後、ぽつりと呟く。

「斎賀様は全然悪くないんだ……」

 下ろそうとした穂積の手を、志狼の両手が捕らえた。
 まるで縋るような触れ方が、どこか不安そうに見えた。

「……どうかしたのか?」
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