セマイセカイ

藤沢ひろみ

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18.五回目④

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 大樹は時間をかけ丁寧に、伊沢の入口を解した。指は二本目になっていた。
 前立腺を刺激してやると、それまで恐怖で震えていた伊沢の体は、違うもので震え始めた。

「あ…ぁ……っ」
 時折甘い声を漏らし、伊沢がそのしなやかな肢体を震わせる。

 これなら大丈夫かもしれないと、大樹は伊沢自身に左手を伸ばした。
 突然前に触れられ、伊沢が驚く。
 後ろを弄りながら上下に擦ってやると、大樹の右指を締め付けてくる。

「あっ、や……ぁ」

 最初は行為に対し怯えて嫌だと言っていたのが、次第に気持ちいいのが嫌だと言うのに変化する。
 男に無理矢理されて感じたくはないのだろうが、初めて味わう前立腺での快感に伊沢は耐性がない。

「も……っ、あ……あっ」
 大樹の左手が伊沢のもので濡れ、後ろと同時にいやらしい音を立てる。

 艶めかしい伊沢の姿と声に煽られ、もう大樹も限界だった。

 伊沢の様子を見ながらそろそろいいだろうと、途中から下着とズボンを膝上まで下ろしていた。
 指を抜き、足をさらに開かせ、ゴムをつけた自身を伊沢の入り口に宛がう。

 体が痺れぼうっとしている伊沢は、そこに大樹自身が触れたことにすぐには気付かず、次に訪れた圧迫感に悲鳴を上げた。
「う、ああっ」

 大樹が挿入したことが分かったようだ。伊沢は結合部を確認するように、視線を向けた。

「う……や…っ、嫌だっ」
 快感に震えていた伊沢は、男に犯された事実を確認し、首を左右に振った。

「あっ、い……やっ、だ。あ、あっ」
 腰を動かすと、伊沢は拒絶と甘い声を交互に繰り返す。

 今までしたセックスの中で一番気持ちが良かった。

 伊沢が初めてなせいかもしれないが、ぎゅうぎゅうと大樹を締め付けてくる。
 中はたまらなく熱く、大樹はすぐにイカないようにするのが大変だった。

 こんな好みの顔を見ながらしないなんて勿体ないと、正常位で抱いたのは正解だった。
 快感に震える伊沢は今まで以上にいやらしく淫らで、大樹は忘れないように目に焼き付けようとした。

「あっ、イ……クっ、ああ……っ」
 大樹を締め付け、伊沢はビクビクと腰を震わせた。

 締め付けられたのがとどめとなって、大樹も伊沢の中で果てた。伊沢の腹がひくひくと震えている。

 ゴムは二個あった。伊沢には悪いが、大樹はもう一回伊沢を抱くつもりでいた。
 伊沢はやっと終わったと思ったのか、ぼぉっと天井を見上げ荒い呼吸を繰り返している。

 大樹は伊沢の中から自身を出すと、素早くゴムを装着する。興奮して、まだまだ衰える気配はない。

 息つく間もなく再び侵入してきた大樹に、伊沢が驚きの目を向ける。
「え、嘘……っ。まだ…、あっ」

「ごめん、もう一回」
 大樹は力の抜けた伊沢の足を掴み開き直すと、腰を押し進めた。伊沢から、軽い抵抗と甘い声が返ってくる。

 これで最後だから、と大樹は心の中で伊沢に謝った。

 顔だけ好みの男だったのに、今はそのすべてが欲しくなった。
 恋愛なんて、しかもゲイでもないのに男となんて、現実的じゃないからありえないと思っていたのに。

 どうしてこんなにも愛しさが込み上げてくるのか。この少し情けない男を、大事に扱ってやりたくなる。
 完璧なところもダメなところも、全部欲しい。
 自分の中に、そんな想いが湧き上がってくるなんて不思議だった。

 今日の出来事は、完璧な伊沢の唯一の黒歴史として残るだろう。
 それでも、伊沢の記憶の中に自分が残るということに、大樹は満足だった。



 まさか自分が第三者の前でセックスをすることがあるとは、夢にも思わなかった。

 ソファの上で仰向けでぐったりと力尽きている伊沢を横目に、大樹は身支度を整える。伊沢には腰の上にバスタオルを掛けた。

 夢中なあまり、みどりを見ることがなかったが絵を描いたのだろうか。
 大樹がみどりに近づくと、いつものようにみどりは金の入った封筒を渡した。受け取ることに気が引けたが、逆にそう割り切る方が良いかもしれないと、迷いながらも大樹は受け取った。

 今日のセックスで、みどりの最終目的は果たされたのだと何となく思えた。

 きっと今日がここへ来る最後だと。だから、伊沢に悪いと思いながらも途中から本気で抱いた。

「ありがとう、イツキくん。来週も来てくれるかしら」
 いつもと何ら変わらないみどりの言葉に大樹は耳を疑った。

 今日が最後のつもりでいたからだ。
 また来れるという嬉しさよりも、伊沢のことが心配になる。

 だが大樹が断れば、みどりはきっと他の男を呼ぶ。そうなれば、どんな男を相手にさせられるのか分からない。ただのヤリモクであれば、伊沢の気持ちなどお構いなしで犯すに違いない。

 可哀想なほど怯えていた伊沢を思うと、断ることもできなかった。

 大樹は言葉を濁す。
「体に負担がかかるので、来週休ませてあげた方がいいですよ。それに俺も予定入ってて……」

 みどりにはそれが嘘だとは分からない。みどりは残念そうに、仕方ないわねと呟いた。

 二週間後の同じ時間に、いつものように来る約束をした。
 初めて大樹から断りを入れたので、それでもう来なくていいと言われたらと心配したが、みどりは引き続き大樹に依頼してくれるようだった。

「あお、お見送りして差し上げて」
 みどりがソファに横たわる伊沢を振り返る。

 みどりの言葉に、反射的に伊沢がのろのろと身を起こそうとしたのを、大樹は慌てて止めた。
「い、いいですって! 体が辛くてしばらく動けないと思うので、そのままにしてあげて下さい」
 それじゃあ、と大樹は部屋を出た。



 伊沢の家を出て数歩歩き、大樹は振り返る。

 みどりは何も分かっていない。男に抱かれ、伊沢の体がどれほど辛いか、どんなに精神的に辛いかを。どうして伊沢に無理ばかりさせようとするのか。

 恐らく以前はこんな関係ではなかったであろう頃に、この歪んだ姉弟を戻してあげたい。こんな方法以外で、何か大樹は協力できないものか。
 出会い系サイトで知り合い雇われている分際で、おこがましくもそんなことを考えてしまう。

 途中からは伊沢が感じてくれたので気持ちは救われたが、体が気持ち良くなったからといって心も同じというわけではない。

 みどりと大樹が強姦したようなものだ。
 伊沢のことを思うと、もうあんなことはしたくない。


 そう思いながらも三日後には伊沢との行為を思い出し、大樹は一人夜の自室で体を熱くしたのだった。
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