セマイセカイ

藤沢ひろみ

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7.二回目①

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 週末の土曜日、大樹は二度目の伊沢家のインターホンを押した。

 前回と同じように伊沢が応答するが、イツキだと名乗ると、入ってくれと一言言いインターホンを切られてしまう。
 前回は大樹のことを客として迎えてくれたが、今回はさすがに歓迎されていない。

 玄関に入ると、腕を組んだ伊沢が待ち構えていた。
 今日は淡いブルーの七分袖のニットに白いスリムパンツという格好だ。伊沢は普段、こういうシンプルな服装を好むのだと思った。


 前回来た時は、玄関に置かれている大きな板を見て雑然としていることを不思議に思ったが、今はそれがみどりの車椅子の出し入れの為に置かれているものだと分かる。

「……なんて名前だ?」

 大樹が座ってスニーカーの靴紐を解いていると、後ろから伊沢が問いかけた。
「イツキというのは偽名だろう」

 思っていた通り、伊沢は大樹のことを名簿で探したようだ。

 大樹は片方のスニーカーを脱ぎながら答える。
「ネットで本名名乗る馬鹿がいるわけないでしょう。会長のお姉さんだって、弟の名前を騙ってるみたいだけど」

 名前の一部とはいえ、勝手に自分の名前を使われているのも気分が良いものではない。
 愛称なだけだし、伊沢が気にしないならそれで良いとは思うが、みどりが意図して弟の愛称を名乗ったのは明らかだ。

「俺だけ名前を知られているのは、不公平じゃないか?」

 大樹はスニーカーを両足とも脱ぎ、後ろに立つ伊沢を見上げた。
 そんな子供みたいなことを言う伊沢が、大樹の中での大人な伊沢のイメージと違っていて意外だった。

「別に訊き出したわけじゃないです。生徒会長なうえ有名人なんだから、仕方ないですよ」

 自分の名前を明かすつもりはないとばかりに、大樹は立ち上がると伊沢を残し、みどりの待つ部屋へと入った。


「イツキくん、こんばんは。今日もよろしくね」
 車椅子に座ったみどりが笑顔で迎える。

 二回目で流れは分かっているのですぐ始めても良いのだが、どうやら今日も客人のように接してくれるらしい。
 ダイニングテーブルに案内され、伊沢がお茶を入れるためにキッチンへと向かう。

 部屋を見渡し、今更ながら大樹は気になった。

「ご両親は今日もお出かけですか?」
 大樹が問うと、みどりは首を横に振った。

「両親は海外よ。父の海外赴任に、母もついて行っちゃったの」
 それで、自宅で堂々とこんなことができるわけかと、納得する。

「昼間一人だと大変じゃないですか。お母さんこっちに居てもらわなくていいんですか?」
 プライベートに踏み込みすぎかとも思ったが、気になって訊いてしまう。

「昼間は福祉の方が助けてくれるの。私がこうなったのは親が行った後だったから……。向こうも大変みたいで、戻れるのは夏になりそうなんですって。デキる弟がいるからって、安心して任せっぱなしなの。ちょっと酷くない?」
「確かに、会長がいれば心強いですね」
 心の底からそう思い大樹が頷くと、テーブルにお茶が置かれた。

 伊沢は黙ったままソファへと移動する。この後のことを憂い、少し項垂れている。学校ではきちんと背筋を伸ばした姿しか見ていないので、新鮮だ。

 少しみどりと雑談をした後、本来の目的のため大樹とみどりはソファへと向かった。
「あお、お待たせ」

 みどりの言葉に、待ってなんかいないと言いたげな目を伊沢は大樹に向ける。そのわりには、きちんとソファにバスタオルを敷いて準備をしていた。


「ポーズは変えるけど、今日も前回と同じでお願いするわ。あおは、右を向いてソファに横向きに両足を乗せて座ってちょうだい。左足は曲げて右足は伸ばす感じで。右手はお尻の横に置いて、左手は背凭れに乗せて、顔を少しそちらに傾けて物憂げな表情で」

 全裸になった伊沢に、みどりが事細かに指示を出す。モデルも大変だ。
 伊沢のポーズが完成すると、伊沢の太腿の横に大樹は座る。
「右足、少し広げてもいいです?」

 足を伸ばしているので、少し最初が咥えにくい。
 勃っていれば問題ないのだが、前回と同じく伊沢のものは萎えた状態で股間部に収まっているため、顔を埋めにくい。

「イツキくんがやりやすいように変えてくれていいわ」
 みどりが了承したので、大樹はソファの上に伸ばされた伊沢の右足を掴み、膝から下をソファの外に出した。動かしにくかったのは、伊沢が小さな抵抗を見せたせいだ。

 今日も、伊沢からは石鹸の香りがした。
 前回と違い、今日はこの為に風呂に入るのだと分かったはずだ。どんな気持ちで体を洗っていたのか。

 伊沢のきれいな体を、大樹が今から汚すような感覚になる。

 右手で伊沢自身を軽く摘まみ持ち上げると、大樹は舌を這わした。伊沢の太腿がぴくりと震える。

 前回と同様、時間をかけるように緩く大樹が行為を続けると、意外なことに伊沢自身は形を変えていった。

 初めての時は怯えが勝っていたのだろうが、一度経験したせいでその問題はクリアでき、口でされる快感が少しは伝わるようになったようだ。
 どうせするのであれば、気持ちよくなった方がいいに決まっている。いい傾向だ。

「さすが会長。適応能力が高い」
「……どういう意味だ」
 大樹は誉め言葉のつもりだったが、伊沢は不機嫌な顔で返す。

「こんなことして何が楽しいんだ。いくら金の為でもこんなものを咥えて……」
 姉の邪魔にならないようにか、小さめの声で伊沢が喋る。

「そういうタイプの人間なんで、フェラくらいしますよ。さすがに、こんなに長い時間はしたことないですけど」

 そういえばそうだったな、と呟き伊沢は黙った。


 伊沢の目には、大樹はどう映っているのだろう。
 ただの同じ高校の生徒か、ただのゲイか、金の為に何でもする男か。

 できれば、普通の高校生と思っていてほしい。

 大樹は何故だかそんなことを考えてしまった。
 経緯はどうであれ、伊沢にとって大樹は無理矢理に行為をするだけの男なのに。
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