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6.学校
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刺激的なゴールデンウイーク最終日が明け、学校が始まった。
大樹の頭からは生徒会長姉弟のことが離れず、早く次の週末が来ないかとそわそわして過ごしていた。
その間、大樹は学校で伊沢と会わないように気を付けて過ごすようにした。
とは言っても、生徒会長選で見るまで、伊沢の顔も知らなかったくらいだ。学年が違うので、今まで通り会わない確率が高い。だが念のために、生徒会室や職員室のある棟へは近づかないようにした。
伊沢は大樹のことを探しているような気がした。もちろん、口止めか、もう来るなと言う為に。
生徒会長ならば、全校生徒の名簿も調べられるはずだ。
しかし、伊沢が知っているのは、大樹が同じ学校の生徒だということと、イツキと名乗った名前だけだ。その情報から見つかることは、ほぼないと思っていいだろう。
後は校内を自分の目で探すしかないが、生徒会長の伊沢にそんな時間はないはずだ。
伊沢ほどカッコ良ければ目を惹くが、大樹は普通の部類だ。身長も並みならば成績も並み、素行も普通だ。目立つ要素がない、どこにでもいる生徒の一人だ。目立った行動をしなければ、目に止まらない。
だから、九十五パーセントは見つからない自信がある。残り五パーセントは、伊沢の優秀さと執念によるものだ。
昼休みも残り十五分という時間、大樹は友達三人と廊下を歩いていた。自動販売機にジュースを買いに行く途中だった。
「あれ、副会長じゃない?」
一緒にいた佐藤が、中庭の方を指差す。全員が自然な流れでそちらの方を向き、大樹もつられて見た。
生徒会副会長はインテリ系美人で、一部男子に人気がある。佐藤は副会長のようなタイプが好みらしい。
「会長と一緒だ。やっぱ美男美女でお似合いだよな」
青木の言葉に、佐藤が頷く。
言葉の通り、伊沢が隣を歩いていた。大樹たちとは違い、ネクタイもブレザーも着崩すことなくぴしりと着ている。
「あの二人って付き合ってるの?」
「お似合いだけど、違うっしょ」
「付き合ってたら、話題になるなる。女子の告白も止まるだろ」
まるで芸能人の話題をするように三人が話し始める。
この高校では伊沢のファンであろうとなかろうと、皆こんな感覚だ。それほど、伊沢は他者より抜きんでた存在なのだ。
伊沢と副会長は手にしたファイルを見ながら真面目な顔で話していて、少しも男女の楽しい雰囲気ではない。付き合ってはいないだろう。
それに、伊沢には彼女はいないという確信が大樹にはあった。
彼女がいれば、自宅であんなことはしていないはずだ。
学校行事くらいでしか見かけることがないくせに、会うと困る時に限って遭遇してしまうものだ。
しかし、伊沢は大樹に気付くことなく副会長と話をしながら校舎へと入って行った。
「蒼一郎だから、あお…か」
大樹はぽつりと呟いた。
名前は知っていたが、どんな漢字なのかまでは覚えていなかった。
蒼一郎、ともう一度心の中で繰り返す。名前まで、カッコいい見た目に似合っている。
そして四人は再び自動販売機に向かって歩きながら、話題はゴールデンウイークの話題へと戻った。
大樹がイケメン好きなバイになったのは、大樹の姉が影響しているかもしれない。
四歳年上の姉は昔から少女漫画が好きで、大樹はよく姉から漫画を借りて読んでいた。
少年漫画とは違い、イケメンばかりが出てくる少女漫画を読んでいるうちに、次第に主人公の少女に感情移入するかのように、同じようにイケメンキャラにときめくようになった。
いつも好きになるのは、可愛いヒロインよりもカッコいい男の方だ。
読者がドキドキするようカッコよく描かれているのだから、大樹がときめいたって仕方がない。
おかげで今や、ヒロインの相手が好みのイケメンかどうかを基準にして、少女漫画を読むまでになってしまった。
それが、大樹がカッコいい男に惹かれるようになったキッカケだ。
そして、王道かもしれないが、運動部キャプテンや生徒会長という設定に弱い。これも姉の少女漫画に影響されている。
だが、残念ながら、現実はそう理想通りにはいかない。
大樹が一年生の時の生徒会長は冴えない男で、まったく惹かれるものがなかった。
だから、初めて生徒会長選で伊沢の姿を見た時、じつは自分は乙女の資質があったんじゃないかというほどに胸が高鳴り興奮した。
恐らく、その肩書がなければ、伊沢にこれほどの興味を持つこともなかったかもしれない。
現実でこれほど理想の男に出会うとは、思いもしなかった。
最初は伊沢のことを、顔で選ばれた生徒会長だと思っていた。
しかし、伊沢の情報はすぐに女子が運んでくれる。生徒会長候補になるくらいだから成績も優秀、しかもスポーツもできるという噂だ。優しいというのも聞いたことがある。
大樹が女子なら、きっと速攻で惚れている。
伊沢は、誰の口からも誉め言葉しか出てこない男だった。
噂は勝手に一人歩きし、本人の意図しないところで伊沢を偶像としてしまう。
大樹も、伊沢の清潔感のある見た目や完璧だと噂される人柄から、心身ともに汚れのない男だと思っていた。
伊沢に対する気持ちはアイドルに対するようなもので、当然恋ではない。
大樹は、男とセックスはしても恋をしようとは思わない。女と付き合うことと違い、現実的ではないからだ。それに、やっぱり男に生まれたからには付き合うなら女の方がいいと思う。
たまに好みの顔の男がいれば、やらしい顔が見てみたいという欲求が生じることもあるが、体の関係以外のものを求めようとは思わない。顔が好みなら男でもいいなんて、そのあたりの自分の緩さには後から驚いた。
大樹にとっては、あくまでイケメンは目の保養として鑑賞するものだ。
いくら顔が好みだろうと、眺めているだけでいい。
距離が遠いからこそ、高嶺の花は存在が際立つ。
それなのに憧れの生徒会長は、案外普通の男で、一気に身近に感じる存在になった。
大樹の頭からは生徒会長姉弟のことが離れず、早く次の週末が来ないかとそわそわして過ごしていた。
その間、大樹は学校で伊沢と会わないように気を付けて過ごすようにした。
とは言っても、生徒会長選で見るまで、伊沢の顔も知らなかったくらいだ。学年が違うので、今まで通り会わない確率が高い。だが念のために、生徒会室や職員室のある棟へは近づかないようにした。
伊沢は大樹のことを探しているような気がした。もちろん、口止めか、もう来るなと言う為に。
生徒会長ならば、全校生徒の名簿も調べられるはずだ。
しかし、伊沢が知っているのは、大樹が同じ学校の生徒だということと、イツキと名乗った名前だけだ。その情報から見つかることは、ほぼないと思っていいだろう。
後は校内を自分の目で探すしかないが、生徒会長の伊沢にそんな時間はないはずだ。
伊沢ほどカッコ良ければ目を惹くが、大樹は普通の部類だ。身長も並みならば成績も並み、素行も普通だ。目立つ要素がない、どこにでもいる生徒の一人だ。目立った行動をしなければ、目に止まらない。
だから、九十五パーセントは見つからない自信がある。残り五パーセントは、伊沢の優秀さと執念によるものだ。
昼休みも残り十五分という時間、大樹は友達三人と廊下を歩いていた。自動販売機にジュースを買いに行く途中だった。
「あれ、副会長じゃない?」
一緒にいた佐藤が、中庭の方を指差す。全員が自然な流れでそちらの方を向き、大樹もつられて見た。
生徒会副会長はインテリ系美人で、一部男子に人気がある。佐藤は副会長のようなタイプが好みらしい。
「会長と一緒だ。やっぱ美男美女でお似合いだよな」
青木の言葉に、佐藤が頷く。
言葉の通り、伊沢が隣を歩いていた。大樹たちとは違い、ネクタイもブレザーも着崩すことなくぴしりと着ている。
「あの二人って付き合ってるの?」
「お似合いだけど、違うっしょ」
「付き合ってたら、話題になるなる。女子の告白も止まるだろ」
まるで芸能人の話題をするように三人が話し始める。
この高校では伊沢のファンであろうとなかろうと、皆こんな感覚だ。それほど、伊沢は他者より抜きんでた存在なのだ。
伊沢と副会長は手にしたファイルを見ながら真面目な顔で話していて、少しも男女の楽しい雰囲気ではない。付き合ってはいないだろう。
それに、伊沢には彼女はいないという確信が大樹にはあった。
彼女がいれば、自宅であんなことはしていないはずだ。
学校行事くらいでしか見かけることがないくせに、会うと困る時に限って遭遇してしまうものだ。
しかし、伊沢は大樹に気付くことなく副会長と話をしながら校舎へと入って行った。
「蒼一郎だから、あお…か」
大樹はぽつりと呟いた。
名前は知っていたが、どんな漢字なのかまでは覚えていなかった。
蒼一郎、ともう一度心の中で繰り返す。名前まで、カッコいい見た目に似合っている。
そして四人は再び自動販売機に向かって歩きながら、話題はゴールデンウイークの話題へと戻った。
大樹がイケメン好きなバイになったのは、大樹の姉が影響しているかもしれない。
四歳年上の姉は昔から少女漫画が好きで、大樹はよく姉から漫画を借りて読んでいた。
少年漫画とは違い、イケメンばかりが出てくる少女漫画を読んでいるうちに、次第に主人公の少女に感情移入するかのように、同じようにイケメンキャラにときめくようになった。
いつも好きになるのは、可愛いヒロインよりもカッコいい男の方だ。
読者がドキドキするようカッコよく描かれているのだから、大樹がときめいたって仕方がない。
おかげで今や、ヒロインの相手が好みのイケメンかどうかを基準にして、少女漫画を読むまでになってしまった。
それが、大樹がカッコいい男に惹かれるようになったキッカケだ。
そして、王道かもしれないが、運動部キャプテンや生徒会長という設定に弱い。これも姉の少女漫画に影響されている。
だが、残念ながら、現実はそう理想通りにはいかない。
大樹が一年生の時の生徒会長は冴えない男で、まったく惹かれるものがなかった。
だから、初めて生徒会長選で伊沢の姿を見た時、じつは自分は乙女の資質があったんじゃないかというほどに胸が高鳴り興奮した。
恐らく、その肩書がなければ、伊沢にこれほどの興味を持つこともなかったかもしれない。
現実でこれほど理想の男に出会うとは、思いもしなかった。
最初は伊沢のことを、顔で選ばれた生徒会長だと思っていた。
しかし、伊沢の情報はすぐに女子が運んでくれる。生徒会長候補になるくらいだから成績も優秀、しかもスポーツもできるという噂だ。優しいというのも聞いたことがある。
大樹が女子なら、きっと速攻で惚れている。
伊沢は、誰の口からも誉め言葉しか出てこない男だった。
噂は勝手に一人歩きし、本人の意図しないところで伊沢を偶像としてしまう。
大樹も、伊沢の清潔感のある見た目や完璧だと噂される人柄から、心身ともに汚れのない男だと思っていた。
伊沢に対する気持ちはアイドルに対するようなもので、当然恋ではない。
大樹は、男とセックスはしても恋をしようとは思わない。女と付き合うことと違い、現実的ではないからだ。それに、やっぱり男に生まれたからには付き合うなら女の方がいいと思う。
たまに好みの顔の男がいれば、やらしい顔が見てみたいという欲求が生じることもあるが、体の関係以外のものを求めようとは思わない。顔が好みなら男でもいいなんて、そのあたりの自分の緩さには後から驚いた。
大樹にとっては、あくまでイケメンは目の保養として鑑賞するものだ。
いくら顔が好みだろうと、眺めているだけでいい。
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