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「遥今日めっちゃ顔ブスじゃん」

顔を合わせて開口一番に彼方に言われて、カチンと来る。が、目の前の鏡の自分が冴えない顔をしているのは事実で、チッと大きく舌打ちをする。

「なんか寝た気がしねぇんだよな……」

生えてきていた無精髭を電気シェーバーで剃りながら、遥は眉を寄せた。
茜の変化に気を揉んでいたからか? 考え事しながら寝るとろくなことにならないな。






「お、遥」

金髪女はダイニングでくつろいでいる。
夢の主は遥のはずだが、我が物顔で机の中央に置いてあるココアの粉末をコップに入れて、さらには電気ケトルで湯を沸かしている。

「!! そうか! そうだった! 私たち、入れ替わってる~! ってやつだったよな!」

俺はまだ見慣れることのない金髪の女を見て、昨日の夢の内容を思い出した。

何を隠そう完全に今まで忘れていた。

「なるほど、忘れてたんだ」

「わるい」

遥は、起きてからのもやもやの原因がこれであったことに気づく。なにか忘れている、という気持ちで今日一日中気持ち悪かったのだ。

「いや、無理を頼んでるのは私の方だし……ねぇ、牛乳出してよ、遥の夢だから出せるでしょ」

「牛乳?」

冷蔵庫にあるだろ、とおもったが、目をやった空間には冷蔵庫はなかった。

「出し方がわからん、むり」

立ち上がって湯をカップに注いだ茜は、仕方ないなぁとばかりに湯気の上がるカップをふぅふぅと冷まし始めた。

「ずっとここで待ってたのか?」

まるで実家のようなくつろぎ具合だ。

「いや? 遥と夢が繋がると、わかるんだよ。この身体の……リッチェルはそういう能力があるから……繋がってからくる、っていっても身体は遥と同じでベッドで寝てるんだよ。まぁ、いつ繋がるかわからないから、ずっと気にしてないといけないし、精神的に疲れるけどさ」

「ふぅん……」

遥は、生返事をした。
正直非現実的なことを言われても全く頭に入ってこない。

「色々予定調整して……一週間ぐらい暇にしてる

「いろいろ?」

「うーん、婚約者の相手したり?」

「あいて……!?」

まさか、異世界で大人の階段登ってねぇよな?
あ、でも身体は茜の身体じゃないし
ギリギリセーフか……? いやでもなんか嫌だな……
動揺を隠して、遥は手を口元に持っていく。

「いや、なんか優雅にお茶したりとかだけだよ。空いて年下だし。他人の身体なんだし……おちおち恋愛なんかしてらんないでしょ、ってなにいわせんの」

「いや、勝手に言ったんだろ」

なんだよ、お茶の相手とかそんなんかよ。焦って損したわ。

「まぁねー、雑談ってかグチれるひと周りにいなくてつい」

夢の中で熱いとか冷たいとかあるのかは知らないが、
ようやくココアに口をつけた茜は「うわーなにこれおいしい……久しぶりの味~ーー」とか言ってはしゃぎ、ものの10秒で全てを飲み切った。
やっぱり熱いとかないんだな。

「てか触れていいのかわからなかったからスルーしてたけど、その金髪なに? 大学デビューすんの? それか今更グレてんの? 遅れてきた反抗期にしてはおしゃれ過ぎるくない?」

そういえば髪を染めていたんだった。
周りもすぐに馴染んでしまったため、遥自身も髪を染めたことを忘れてしまっていた。まだこの色に染めてから……5日しか経っていないのに馴染みが早すぎる。

「それを言うなら高校デビューだろ」

「えーだって、いま高校三年でしょ? 高校デビューっていうには遅すぎるからさぁ」

「なに言ってんだ、まだ高校生になって一週間も経ってねぇだろ」

「……え?」

女の目が見開かれ、その茜とは違う色彩の相貌が固まったようにじっと遥を見つめ続ける。

「いや、まったく遥の顔とか記憶と変わらないなと思ってたけど……」

半信半疑というようなうすぼんやりとした問いかけは、常の声の半分ほどの音量だ。

「逆に三年ってなんだよ」

「私はこっちにきて三年経った」

断定的で、硬い声から、あまりそこに深く追求されたくないという響きがある。

「は?」

俺は間抜けな声を出して、茜の言葉を飲み込もうと考える。
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