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「行かねぇ」

津島はにべもなく断った。
もうちょっと母親には優しくしてあげた方がいいんじゃない? と苦言を呈してしまいそうなほど取り付く島もない。

「そう? 残念」

断わられるとわかっていたのか、ルミナちゃんはとくに気にした様子もない。
津島のこの態度がいつものことなのだというのがよくわかる。

「澄也くんは?」

「え、っと今日はちょっとトモダチと予定があるんですよ……」

俺はちらちらと津島を見る。
憮然とした様子で口を引き結んでいる津島は、俺とルミナちゃんが話しているのを尻目に背中を見せて歩いて行ってしまう。

なんだよルミナちゃんの護衛で来たくせに途中放棄するとは見習いとはいえ騎士の風上にも置けないな。

俺は雑談しながらルミナちゃんと一緒に店の前まで歩く。

「おっと、時間が……! また今度!」

店の前までくると、時計を見てからさも約束の時間があるようなふりをする。
「また来てね」と微笑んで手を振ってくれているルミナちゃんを置いて俺は津島が消えた方角へ向かった。

急遽入った【オトモダチ】との予定が、津島とのものだ。
要は「この後お前と話がしたい」というお誘いだ。
津島は俺の視線の意図に気づかなかったわけではないだろう。

わかっていて無視してやろうとしている。

性格が悪いな。

俺はやけに目立つ津島の背中にタックルをかけた。
津島なら絶対に倒れないだろうと思って、全力を出す。

案の定津島は少しばかり驚いて背を揺らしただけだった。
すごい体幹と筋力だ。

広い背中を抱きしめるような形になった俺は、津島に「一緒にご飯でもどう?」と誘いをかける。

さっきも同じようなこと言ったんだけどね。
直接誘えば津島も答えざるを得ない。

「……そうだな、聞きたいこともあるしな」

低い声が地を這って澄也に届いた。低音の津島の声は澄也の心を揺さぶるようできもちいい。

「そ? じゃぁこの近くでいいお店あるからそこに行こう」

澄也は機嫌よく、津島の手を引いた。
津島の手は澄也より大きくてごつごつしている。
乾燥している手のひらはがさがさだ。

澄也も人のことを言えたものではないが、もう少し手入れが必要そうだった。
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