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「嫌っていうか……」

働くこと自体にあまり食指がわかないだけだ。

「自分で断るのが難しいなら、私がきちんと先方に断りをいれる」

眼鏡の奥の父の瞳は生真面目そのものだ。

父は真面目な人だから、普通に心配してくれている。
それに、【トキ】がどういうところなのか、よくわかっている。
自分の父親が商品を納品している会社だ。
そこがどんな仕事をしているのか、どんな役割を持っているのか、……父は身をもって知っている。

普通なら悪魔だ調伏だなどというのは荒唐無稽な与太話で、【トキ】などは得体の知れない怪しい組織にみえることだろう。
そこがどんな組織なのか深く考えずに賛成しているらしい母の警戒心のなさには少し呆れてしまう。
そういえば母はサイリが悪魔を使うことを知らない。
ほんとうに秘書みたいな事務仕事だと思っているのかも知れない。

「まぁ一回だけ試しに……ちょっとだけ働いてみようかな。嫌になったらいつでもやめていいっていう契約にしてもらうから安心して」

「そうか……、気をつけてな」

父は心配を隠せない目でサイリを見ている。

幸いまだ契約は白紙状態だ。
どんな内容にするか自分の利を考えながらサイリはつらつらとままに書き出していく。

きっといい社会勉強になる、と無理やり前向きに考えるしかない。
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