ぬい【完結】

染西 乱

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バイト先のゲームセンターはかなり騒がしい。
全国展開している大手ショッピングセンターの3階にあるこのゲームセンターはそこそこ賑わっている。
広場面積は少し小さめだと思う。
ベビーカーとか、ショッピングセンターのカートとかを入れると通路の狭さはかなりギリギリだ。

定番のコインゲームと、クレーンゲーム、小さな子供向けの乗り物やまなびゲームが主になっている。
並べられた筐体から各々音声が響いている。
休みの日には更に人で溢れかえるが、今は平日の夕方であることから、客の数はまばらだ。
しかし客の数はまばらでもゲームセンターの騒音は対して変わらない。
バイトを始めた頃はあまりに音がうるさいため、すぐにやめてやると思ったのだが、これが不思議なことに一週間もすればその騒音に慣れてしまった。
気づけば一年もこのゲームセンターでバイトしている。
毎日くるコインゲームおばあちゃんも、太鼓ゲームをやり続ける大学生風の男の子も、クレーンゲームでぬいぐるみをごそっと取っていく匠のおばさんたくみも見慣れたものだ。
店長となかなかタイミングが合わずに、辞めたいと思った時に辞めると言えなかったがゆえの、怪我の功名こうみょうってやつだった。

クレーンゲームの景品の補充をしながら、ポジショニングを整える。
赤ちゃんぐらいの大きさのビッグぬいぐるみをバランスよく座らせて透明のガラスに鍵をかける。
子供や大人の女性に人気の癒し系のくりっとした目が印象的なぬいぐるみだ。先日から映画が上映されていて、その映画に出てくるオリジナルキャラクターなんだという。今日はまだ見てないが、匠おばさんが狙いそうな景品だ。
見回りが終わったところで、カウンターに戻ると私よりも1時間遅いシフトの男の子がちょうどタイムカードを押している。耳にピアスが6個もついていて金髪で気だるそうだが、子供には優しいあまりこのバイトの現場で見かけないタイプの子だ。
ちなみによくいるのはオタクタイプの陰気な感じの毛がもさもさわかめみたいになるのを必死にワックスで押さえつけてる感じの子。私もどちらかというと陰気に見えるだろう。長い前髪を左右に流して、鎖骨より下ぐらいの長さの髪は黒い髪ゴムで低い位置で一つに束ねている。
それに加えて顔半分ぐらい隠れるんじゃないか問い合わせゴツめのメガネをしている。
このバイト先は地元なので、うっかり知り合いに声をかけられるのを防止するためにメガネを掛けている。
でかいメガネはいい認識阻害装置だ。
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