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衆人環視の中で婚約破棄された私があなたたちにかける言葉なんて「お幸せに」しかないですね……
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「今この場で婚約を破棄させてもらう」
そう言って元婚約者となった第二王子が隣のピンクゴールドの髪をしたアイラの腰を抱いた。
今日は王城で開かれた年に一度の大々的なパーティーである収穫を祝うよき日である。そんな日に婚約者のエスコートもなく堂々と一人で入場してきた私はすでに第二王子など見限って久しい。
こんな衆人環視の中で言わなくてもいいのに、などと思い、たわわになるようにぎゅっぎゅと締め上げた自分の胸の谷間に視線を落としてため息をつく。きめ細かく色白の丸いしみひとつない綺麗な胸は自らをも癒してくれる。
ふぅーーと戦士さながらの重々しいため息になってしまったのに気づいたのは自分のすぐ隣にいる幼馴染のメアリーぐらいだろう。
感激にか、ちょっと潤んだ瞳のアイラは、自分よりも背の高い第二王子を見上げるようにして見ているが、それが上目遣いだということには気づいてなさそうなそぶりだ。
それもそうだろう。
アイラはこの場にいるどの貴族令嬢よりも身長が高く、骨太で、男らしい。
アイラは私よりも差が高いが、それよりも第二王子は背が高いのだな、と私はこの時初めて気が付いた。
「なんということでしょう」
きっちりと規則に則って着飾った私の口からとっさに淑女としてふさわしくない言葉が出てしまった。
「え、と? 次のお相手は彼、ですか?」
私は困惑を隠せないままで顔の前に扇を持ってきてどうにか口元を隠した。口元はにんまりと口角を上げ、隠せないほどの愉快さを感じている。
そう言われてみれば、異世界からの落とし子とされているアイラに第二王子はつきっきりで、よく二人きりで勉強をしていた。しかし年頃が近い同性だからということで世話役に任命されていたので、それほどおかしいとは感じていなかった。言われてみれば、第二王子はあまり女性を侍らすのが好きでないとのことで、婚約者である私とも一定の距離感を持って接していた。私はそれを、節度を持った距離をとってくれていると思い込んでいたが、蓋を開けてみればなんのことはない、第二王子は男が好きだったのだ。
浮いた話の一つもないただのお堅い王子かと思っていたが、とんだ見当違いだったのね。
女嫌いの男好きと結婚してしまわなくてよかったわ。
そんなもの順風満帆幸せいっぱいの結婚、とは言えないもの。
「え、と、でもあの……次世代に血統を繋がなければいけないのでは……?」
私は今まで我慢して私と結婚しようとしていた王子の急な心変わりに首を傾げた。
平民ならば、俺こいつと一緒になるよ!
で済まされただろうが、第二王子は一応王族だ。腐っても子供を産む女性が必要なのではないだろうか、というのは私のただのお節介である。
すでに私は男色の第二王子を見限っている。
私も人として自分に愛情をささげてくれる人と結婚したいですし。イヤイヤ抱かれるのとか嫌ですし。
「それならば問題ない!、なんとアイラは男性でありながら子供を身籠ることができる体質らしいのだッ!」
ことの成り行きを見守っていた貴族たちが大きくざわめいた。
男でありながら、子を宿す?
私はまじまじとアイラの腹の部分を凝視する。
え、こわ。どんな身体なのかしら。異世界人というのはそういったものなの? 男女ともに子を宿すの?
男性には子を宿す腹はがないのにどこで子供を育むんでしょう?
というか、そんなことを大々的に言ってしまっては今後アイラ様は実験モルモット不可避では?
男でも子供が産めるなんて……そりゃぁ私と婚約するよりもアイラとの婚約を推し進めようとした王の気持ちもわかるというもの。要は逃げ出さないように楔をつけておかなくてはいけない人物と見なされたということでしょう。
王族の血を引いた子供を人体実験に使うわけにはいかないでしょうから……第二王子の子供を産ませた後で適当な男を見繕って、子を産ませるのかしら?
それに子供が生まれても、その体質を受け継ぐかどうか調査対象になるでしょうし……研究に対してずぶの素人の私でも、疑問に思うことは山ほどあるのだから、研究者なら尚更でしょう。
生まれてくる子供がかわいそうに思えてしまうぐらい……
しかしもう口にした言葉は返って来ません。
この場の全員が、アイラの体質のことを知ってしまっています。
子供を何人か産むまでは生かしておくでしょうし、すぐに体を細切れにされるなんてことはないでしょうが……
「お幸せに……」
たぶんアイラはもう幸せにはなれないでしょうが、私はせめてもの祈りをこめて二人に祝福の言葉をかけました。
その笑みに悲しみが宿っていたのは、私の悲しみからではなく、これからアイラに降りかかるであろう哀しみを憂いてのことですよ。
そう言って元婚約者となった第二王子が隣のピンクゴールドの髪をしたアイラの腰を抱いた。
今日は王城で開かれた年に一度の大々的なパーティーである収穫を祝うよき日である。そんな日に婚約者のエスコートもなく堂々と一人で入場してきた私はすでに第二王子など見限って久しい。
こんな衆人環視の中で言わなくてもいいのに、などと思い、たわわになるようにぎゅっぎゅと締め上げた自分の胸の谷間に視線を落としてため息をつく。きめ細かく色白の丸いしみひとつない綺麗な胸は自らをも癒してくれる。
ふぅーーと戦士さながらの重々しいため息になってしまったのに気づいたのは自分のすぐ隣にいる幼馴染のメアリーぐらいだろう。
感激にか、ちょっと潤んだ瞳のアイラは、自分よりも背の高い第二王子を見上げるようにして見ているが、それが上目遣いだということには気づいてなさそうなそぶりだ。
それもそうだろう。
アイラはこの場にいるどの貴族令嬢よりも身長が高く、骨太で、男らしい。
アイラは私よりも差が高いが、それよりも第二王子は背が高いのだな、と私はこの時初めて気が付いた。
「なんということでしょう」
きっちりと規則に則って着飾った私の口からとっさに淑女としてふさわしくない言葉が出てしまった。
「え、と? 次のお相手は彼、ですか?」
私は困惑を隠せないままで顔の前に扇を持ってきてどうにか口元を隠した。口元はにんまりと口角を上げ、隠せないほどの愉快さを感じている。
そう言われてみれば、異世界からの落とし子とされているアイラに第二王子はつきっきりで、よく二人きりで勉強をしていた。しかし年頃が近い同性だからということで世話役に任命されていたので、それほどおかしいとは感じていなかった。言われてみれば、第二王子はあまり女性を侍らすのが好きでないとのことで、婚約者である私とも一定の距離感を持って接していた。私はそれを、節度を持った距離をとってくれていると思い込んでいたが、蓋を開けてみればなんのことはない、第二王子は男が好きだったのだ。
浮いた話の一つもないただのお堅い王子かと思っていたが、とんだ見当違いだったのね。
女嫌いの男好きと結婚してしまわなくてよかったわ。
そんなもの順風満帆幸せいっぱいの結婚、とは言えないもの。
「え、と、でもあの……次世代に血統を繋がなければいけないのでは……?」
私は今まで我慢して私と結婚しようとしていた王子の急な心変わりに首を傾げた。
平民ならば、俺こいつと一緒になるよ!
で済まされただろうが、第二王子は一応王族だ。腐っても子供を産む女性が必要なのではないだろうか、というのは私のただのお節介である。
すでに私は男色の第二王子を見限っている。
私も人として自分に愛情をささげてくれる人と結婚したいですし。イヤイヤ抱かれるのとか嫌ですし。
「それならば問題ない!、なんとアイラは男性でありながら子供を身籠ることができる体質らしいのだッ!」
ことの成り行きを見守っていた貴族たちが大きくざわめいた。
男でありながら、子を宿す?
私はまじまじとアイラの腹の部分を凝視する。
え、こわ。どんな身体なのかしら。異世界人というのはそういったものなの? 男女ともに子を宿すの?
男性には子を宿す腹はがないのにどこで子供を育むんでしょう?
というか、そんなことを大々的に言ってしまっては今後アイラ様は実験モルモット不可避では?
男でも子供が産めるなんて……そりゃぁ私と婚約するよりもアイラとの婚約を推し進めようとした王の気持ちもわかるというもの。要は逃げ出さないように楔をつけておかなくてはいけない人物と見なされたということでしょう。
王族の血を引いた子供を人体実験に使うわけにはいかないでしょうから……第二王子の子供を産ませた後で適当な男を見繕って、子を産ませるのかしら?
それに子供が生まれても、その体質を受け継ぐかどうか調査対象になるでしょうし……研究に対してずぶの素人の私でも、疑問に思うことは山ほどあるのだから、研究者なら尚更でしょう。
生まれてくる子供がかわいそうに思えてしまうぐらい……
しかしもう口にした言葉は返って来ません。
この場の全員が、アイラの体質のことを知ってしまっています。
子供を何人か産むまでは生かしておくでしょうし、すぐに体を細切れにされるなんてことはないでしょうが……
「お幸せに……」
たぶんアイラはもう幸せにはなれないでしょうが、私はせめてもの祈りをこめて二人に祝福の言葉をかけました。
その笑みに悲しみが宿っていたのは、私の悲しみからではなく、これからアイラに降りかかるであろう哀しみを憂いてのことですよ。
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