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 リリアン視点

 とにかく忙しい日々を過ごし、12月にやっとお店をオープンする事ができた。
 希望通り首都の一等地にワインの直販店舗にレストランを併設したものでヴィニョーブル(葡萄畑)と名付けた。
 価格が安いのでまずまずの売れ行き。
 レストランも好評で貴族邸宅の調理人からのレシピ問い合わせも後をたたない。門外不出としたい所だけれどワインを売る為の戦略なのでここは出し惜しみしない。
 夕方になればパーティーに出席して営業活動。
 そんな事をしているうちにもう卒業式になってしまった。
 もちろん今回も婚約破棄も無ければ断罪イベントも無い。ただレイモンド様との約束の期限が来てしまった。
 恋人期間は終わりだ。
 卒業パーティーではレイモンド様がエスコートして下さった。きっとこれが最後になる。
 最初は私の身体目当てだと思ってたのに、キスと時々ボディタッチする程度でそれ以上は求められ無かった。
 紳士らしく約束を守って卒業までは恋人のふりをして下さったけど、私が思うほど私に関する興味は無かったみたい。
 自意識過剰で恥ずかしい。
 レイモンド様からしたら私はまだ子供でイタズラはしたいけど欲情するほどでも無かった。その程度。本当に恥ずかしい。
 ダンスもこれが最後かもしれない。
 本来なら侯爵令息と男爵令嬢など言葉を交わすことすら許されない。
「卒業おめでとう。」
「ありがとうございます。」
 辛いけど話を切り出さないと。
「今までお世話になりました。」
「…これでお別れのような言い方だな。」
 顔は笑っているけれど怒ってる?
 そうかまだ借金を返済していないから、ビジネスでの付き合いは続く。
「これからも仕事上なにかとお世話になります。引き続きよろしくお願いします。」
「ああ、そうだな。」
 少し話をしたいと部屋の隅へ。
「今恋人関係を解消するのは得策ではないと思うのだが?」
 確かに。
 私が表だってクランセンワインを売り込み、直売店を経営していることは知られている。
 商売が安心して出来るのもザカリー小侯爵の恋人だからだ。ザカリーの信用という後ろ楯があるから。
 そしてフリーになればその権利を手に入れたい目的の求婚者は後をたたなくなるだろう。
「ですが、レイモンド様にはご迷惑ではないですか?」
 名門貴族であるレイモンド様に婚約者がいないのはおかしな事。私のせいなのでは?
「いや、私は当分結婚はしない。リリアンが側にいてくれたほうが私としても有難いのだが…。
 もしかしたら好きな者でもいるのか?」
 言葉につまってしまう。
 私が好きなのはレイモンド様だよ。
「…いません。」
 告白してしまいたかった。
 でもきっとご迷惑になる。
 煩わしいとは思われたくない。
 ただでさえ私はあざとく見えてしまうのに。
 レイモンド様の優しさにすがるみっともない女に見られたくない。
 仮に私を哀れに思い側に置くとしても結婚は出来ない。身分差がありすぎる。
 仮に伯爵令嬢を名乗ったところでこの国では孤児や婚外子は平民扱い。
 愛人にしかなれない。
 でも結婚前から愛人がいるというのは外聞が悪い。
 だからどう転んでも私はレイモンド様の邪魔にしかならないのだ。
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