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   レイモンド視点

 アレン殿下の処理はうまくいった。
 あそこに送られたならもう二度と国外どころか城外にも出ることは無いだろう。
 リリアンの養父であるクランセン伯爵が面会を希望してきた。
 シュガー男爵家に養女にする際、おばあ様が高齢の為かわりに後見になった名前だけの養父だという話だが、挨拶はしたほうがよいと考えたか。ザカリー侯爵家と懇意になればなにかしらと優遇される事もあるからな。
「お目通りありがとうございます。」
 北部の人間は色素が薄く、整った顔立ちの者が多い。伯爵も明るい薄茶の髪にエメラルドの瞳、リリアンが好きなタイプ…というよりもしかしたら初恋なのかもと、そんな事が頭をよぎりイラつかせた。
 形式通りの挨拶をすませ、本題に入る。
 思ったとおり融資を頼みにきたか。
 名前だけの義理の娘を利用するとは浅ましい…と思ったが、これは興味深い。
 国産ワインだと?
 現在帝国のワインはほとんどが輸入だ。その為かなりの高額なのだ。
 国産ワインもあるにはあるが、材料の葡萄の栽培が国土に合わないのか葡萄そのものが高額で少量しか生産出来ない。とてもじゃないが流通は出来ない。
 クランセン伯爵領ではもうすでに葡萄の栽培に成功し、ワインも持参していた。
「こちらでございます。」
 と、出されたワインは今年のものだというが…。
「…渋みが少なく、甘い香りでフルーティーだな。女性が好みそうだ。」
「はい、こちはを現在の輸入ワインの半値で販売したいと考えております。」
「半値だと?」
「はい、資金さえあれば量産できます。」
「…いいでしょう。私が支援しましょう。
 ところでこの資料をお書きになったのは伯爵ですか?」
 事業の内容は勿論だが、この資料はなんだ?見やすさを重視し、余白を残し。一見意味もないような図柄や表?というものが書かれている。このような資料は初めて見た。
「いいえ、これを用意した者は名前を出さぬようにと…身分の低い者が作成したとなると目を通してもらえなくなると。」
 それは正しい。
 仮に私が融資したとしても、この先伯爵が仕事上付き合う者すべてが身分を気にしないとは限らない。
「ならば今あえて言う必要はないでしょう?」
「はい、ですが私はその者を共同経営者とするつもりです。いずれザカリー小侯爵にもお目通りいただけるようになるかもしれませんので。」
「事業が安定してからのほうが良いでしょうね。
 とても頭の切れる者のようですね。」
「はい、葡萄の栽培もワインの醸造もすべてその者が教えてくれたものです。身分さえあればと、悔やまれます。」
「まったくですね。私も会える日が楽しみです。
 だが、安値のワインが流通すると私が手掛けている輸入業が痛手をうけそうだ。」
「そう言われると予測していたようです。
 その者が言うには安いワインが流通することにより、ワインブームなる現象が起こると。
 そのため貴族達はこぞって高価なワインを求めるようになるから、小侯爵様にはヴィンテージの良いワインの買い占めをおすすめするようにと。」
 どこまでも抜け目のない者のようだ。
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