上 下
59 / 63

59 サロン

しおりを挟む
 学園生活が始まったわけだが、学園は勉強だけしてればいいって訳じゃない。 
 後の貴族社会へ繋がる人脈を作ったり、人材を集めたり、まあ色々あるわけで。
 そのひとつに学生サロンなるものがある。
 休憩時間や放課後に集まって交流を深める場だ。
 有力貴族のサロンには個室が与えられるのだけど、だいたいは先輩方のサロンに入れていただいて代々引き継いでいくらしい。
 けれど、先輩方より強い権力を持つ方が入学し、個室をあけわたすよう申し付けられた場合は従わなければならない。
 例えば王族とか。
 けれどウィル様が部屋をあけわたせなんて理不尽な事を言うはずもないし、その気になれば理事長室を使ったっていいわけだ。
 そもそもウィル様はサロンにこだわってはいないだろう。
 王様が派閥を作る必要もない。
 けれどグロリア様はウィル様を筆頭とする派閥が欲しい。
 しかし上級生に頭を下げてサロンに入れてもらうなんてしないし、あけわたせと命令するのも反感を買うので出来ない。
 そこでロズウェル侯爵家の財力にものを言わせて学園に温室を寄贈したのだ。校舎の東側にあつらえられたその中には年中快適な温度を保つ豪華なグロリア様専用サロンを特注で作らせた。
 だがしかしだ。
 ここに更に権力と財力に物言わす奴が一人いる。
 そいつは学園になんと新校舎を寄贈した。
 それは旧校舎の西側に建てられた。
 当然新校舎からグロリア様のサロンのある温室まで行くには旧校舎をぐるっと迂回しなければならない。すなわちすっごく遠い。
「なんてこと!あんまりですわ、このような嫌がらせをなさるなんて見損ないましたわ!」
 怒り心頭のグロリア様。
「言いがかりも甚だしい。
 だいたい学園側には、温室とだけ申請されていたではありませんか。」
 そう受け答えたのは理事長。
 うちのハルト君だ。
「サロンの空きはまだ4部屋ありますから抽選に応募なさったらいかがです?」
 ハルトは元々10あったサロン用の部屋を5部屋増やした。
「あのような小部屋で王様がくつろげるとお思いなんですの?
 それに抽選では確実にいただけないではございませんか!」
「王様におくつろぎいただくなら理事長室にお招きいたしますよ。温室より警護は万全ですし。」
 ハルトは新校舎は王様の身辺警護強化の為と寄贈したらしい。
 けど絶対嘘だね。
 このあたしに充てられたサロンの豪華な事。
「抽選とおっしゃいながらも、リノス男爵令嬢は特別扱いですのね。」
「当たり前ではないですか。
 私が後ろ楯になっているお嬢様ですよ?
 私が寄進した校舎のこの一部屋は私個人の所有となっていますから、私の自由なのです。
 ねっ、レティ。」
 こっちに振らないで。
「あーよかったら、王様にこのサロン使っていただいてもいいですよ?」
「なんですって!
 バカになさるおつもり?」
 いや、してないし。
 あんたに使っていいって言ってないよ?ウィル様にだよ?
「え~せっかくレティに喜んでもらおうと思ったのにー。」
 公爵のキャラ作るの忘れてるよ。
 最近あたしといる時間が増えたからかだんだん素のハルトになってきてるみたい。
「まあ夏期休暇が終わる頃には旧校舎は取り壊す予定ですので、そうすれば距離もさほど遠くはなくなるでしょう。それまで多少不便でしょうけど我慢していただくしかございませんね。」
 グロリア様は不満そうだけど諦めるしかない。
「では、王様。まいりましょう。」
「どこへ?」
 ウィル様は皆と一緒に食堂で昼食をとるつもりだった。
 食堂といってもかなり広いホールで、その並びにサロンとして使われる個室もある。
 入学して二日目、あたしはハルトにサロンの存在を教えられた。
 ハルトもそこで一緒に昼食をとるつもりでいたのだけれど、王様が食堂で一般生徒と食事をするのも落ち着かないだろうからと、あたしの為のサロンに招待したのだ。
 まあ、グロリア様は黙っていられないわよね。
 そこで先ほどまでのやり取りが始まってしまった。
「私のサロンに決まっておりますでしょう?」
「…遠いな。」
 うんうん、歩くの面倒だよね。
「あの、よかったらグロリア様もこちらでお召し上がりになりません?」
 気をきかせたつもりで言ってみたが、
「もうけっこうですわ!」
 プリプリと取り巻きを引き連れて行ってしまった。
 しょうがないか。
「さあ、お弁当にしよう。」
 一番嬉しそうなハルト。
 食堂では多彩なメニューがあるが、自分で持ってきてもいい。
 個室を使うような貴族ならば世話をする使用人も出入りさせてよい。中には専属のシェフがいる部屋もあるらしい。
 我が家からはステファンさんとアンネが来ている。ステファンさんは常にハルトと一緒だ。アンネはあたしの専属メイド。
 ステファンさんは空間収納の魔法を使えるので調理した出来立てのものを容易く持ち運びできる。
 けど今日はハルトの希望でお弁当だ。
 サロンにはミーシャと双子を招待した。学園であたしの仲間っていったらこの子達くらいしかいないのに無駄に広い部屋だな。
「ウィル様もお弁当でよろしいですか?」
「ああ、いただこう。」
 お弁当のメニューはあたしが決めた。
 公爵邸のシェフはだいぶ日本食が作れるようになった。
 今日は卵焼きとから揚げとひじきの煮付けにホウレン草のごま和え。ひじきとホウレン草はそれに似た植物の代用だけど。
「これはまた珍しい料理だな。」
 そうね、食材は同じでも和食は馴染みがないでしょう。
「なんだかわからないけど公爵様んとこの食べ物はみんなおいしいねー。」
「ねー。」
 双子も嬉しそう。
「卵焼きはあたしが作ったんだよ。」
 ハルトの好きな甘いだし巻き。
「やっぱりばーちゃんの作った卵焼きが一番おいしい。」
「…。」
 うーん…。
「あ、あー…レティがおばあさんに教えてもらった卵焼きなんだよね。」
「そ、そう。」

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

無名のレベル1高校生、覚醒して最強無双

絢乃
ファンタジー
無類の強さを誇る高校二年生・ヤスヒコ。 彼の日課は、毎週水曜日にレベル1のダンジョンを攻略すること。 そこで手に入れた魔石を売ることで生活費を立てていた。 ある日、彼の学校にTVの企画でアイドルのレイナが来る。 そこでレイナに一目惚れしたヤスヒコは、なんと生放送中に告白。 だが、レイナは最強の男にしか興味がないと言って断る。 彼女の言う最強とは、誰よりもレベルが高いことを意味していた。 レイナと付き合いたいヤスヒコはレベル上げを開始。 多くの女子と仲良くなりながら、着実にレベルを上げていく。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

私のスローライフはどこに消えた??  神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!

魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。 なんか旅のお供が増え・・・。 一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。 どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。 R県R市のR大学病院の個室 ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。 ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声 私:[苦しい・・・息が出来ない・・・] 息子A「おふくろ頑張れ・・・」 息子B「おばあちゃん・・・」 息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」 孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」 ピーーーーー 医師「午後14時23分ご臨終です。」 私:[これでやっと楽になれる・・・。] 私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!! なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、 なぜか攫われて・・・ 色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり 事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!! R15は保険です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

処理中です...