戦鬼は無理なので

あさいゆめ

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「人に見られると困る事になりますよ。」
 押し退けようとすると更に強く抱きしめられる。
「私のせいでまた人を斬ったからか?もう私の側には居たくないか?」
 それもあるが…。
「すまなかった。もう私の為に手を汚す事の無いようにするから。もし不測の事態になったとしても気にせず逃げればよい。」
 それは無理というものだろう。
「私はマティアス殿下の為に人を斬るのはなんともありません。殿下を守る為なら何度でも同じように殺すでしょう。
 ですが今の私では足手まといです。
 前回の襲撃の際も私がお側にいたせいで無意識にフィリップは持ち場を離れてしまったのではないでしょうか。」
 そっと少し身体を離し、
「このような所を口さがの無い者が見たらなんと言うか。
 殿下の親切と幼なじみとしての愛情に他意はないでしょうが、今は大事を控えた大切な時です。
 足元をすくわれませんよう。」
 やっと離してくれた。
「他意とは?」
 それを私の口から言えと?
 まったく、無自覚のたらしは始末が悪いですね。
「ほら、フィリップが探しに来ました。
 困らせてはいけませんよ。」
 その後ろからはテリオス君が。
 皆、職務に忠実なようでなによりだ。
 少し離れた所で止まり、マティアス殿下が向かうのを待っている。
 何度か振り返りながら殿下は帰って行った。
 テリオス君は何か言いたそうだが何も聞かなかった。
「父君とは話せた?」
「ごらんになっていたのですか、暫く顔を見せていないせいで小言をたっぷりいただきました。」
「実家に帰ってもいいのだよ?」
「邪魔なら死ねとおっしゃって下さい。」
 なんでそう極端なの?
 実家から通いでもかまわないのに。
「挨拶も済んだし、帰ろう。」
「はい。」
 月の光にプラチナの髪が照らされ美しい。
 こんなに美しい人なのになぜ私に固執する?
 好きとか愛とは少し違う感じがする。
「あの…。」 
 馬車の中でテリオス君が口を開くが、
「やっぱり何でもないです。」
 言いかけて止めた。
「気になるじゃない?言いなさい。」
「お辛いですか?」
「何が?」
「…。」
 マティアス殿下の婚約の事かな?
 でも親しくしていても特別な気持ちを持っていることは知らないはず。
「殿下の事をお慕いしていらっしゃるかと…。」
 ばれてますか。
「慕っていたとしてどうにかなるものじゃないでしょう。」
 長く沈黙した後、
「僕はずっとお側にいますから。」
 うん。そうみたいだね。
「僕にはあたってもいいんですよ?」
 八つ当たりしろと?
「多少の暴力なら耐えられます。」
「そんな事しないよ?」
「殿下の悪口だって聞きますよ?」
「殿下は悪くないから。」
「どうしてそういい人ぶるのですか?」
 そんなつもりはないけど。
「殿下には幸せになって欲しいと思っているよ。」
「…僕はシオン様が嫌いです。」
 ええーっ?
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