上 下
71 / 71

71

しおりを挟む
  アルテモーゼ侯爵視点

 忌々しいブランシェールめ。
 広大な領地を持つ元は王国であった由緒正しい貴族。
 とはいえ、今はガルシアンに仕える侯爵として我アルテモーゼとは同等のはずだ。
 なのに常に私を見下している。
 陛下は勿論、他の貴族も奴を贔屓にしている。
 私がどれだけ国に貢献し権力を手にしても奴に対する皆の畏敬の念には及ばない。
 私が他の貴族を差し置いて国のトップに君臨出来たのは愛娘ヴァイオレットのおかげだ。
 ヴァイオレットがいなければ私は戦もない平和な今でも武器商人として細々と売れもしない武器を売っていたことだろう。
 ブランシェールは貴族の中でも特に権威や財力がある。その頃の私はブランシェールに取り入るためにヴァイオレットを嫁がせる事にしていたが、娘は8歳になった頃だったかに、
「ブランシェールに媚びを売っても無駄です。
 サミュエルはもうすぐ死にます。婚約は無効になるでしょう。
 それよりブランシェールより上になりたくはないですか?
 お父様はしがない武器商人で終わる器では無いはずです。
 宰相となり、この国を牛耳りましょう。」
 およそ8歳の少女とは思えない口調でそんな事を言ってのけた。
 その時私はまるで天啓を受けたかのように目が覚めた。
 それからもヴァイオレットは私に良きアドバイスを与え続けた。
「貴族は国に多く貢献しているのです。恩恵も多くもらうのは当たり前です。
 そんな貴族と平民が同じ人であるなどあり得ないと思いませんか?」
 まったくそのとおりだ。
「税金を上げるには理由が必要です。
 税金は世の中を良くするために使われるお金でなければなりません。
 公共事業を拡大しましょう。
 景気も良くなります。」
 その通りだった。
 そして金が動けば動くだけ貴族の懐が膨らんだ。
 貴族達も喜んでいたはずだ。
 なのに近頃は何やら世論がおかしな事になってきている。
 平民の味方になる貴族が増えてきている気がする。
 なぜだ?
 皇国からの特使は来るし、ブランシェールは未だに歯向かうし、エドウィン殿下の婚約者であるヴァイオレットにはライバルが現れた。
 あのトスカリナはもういないのに。
 あの時、子供だと情けをかけたのが間違いだったか。
 トスカリナ伯爵の娘がエドウィン殿下に取り入って何やら入れ知恵をしたようだ。
 トスカリナの思想は危険だ。
 愚かな庶民どもがつけあがり貴族に牙をむくようになる予感がする。
 まったく頭が痛い。
「ヴァイオレット、なんとかならんか?」
「私も頭を悩ませているところですわ。」
「やはりあのトスカリナの娘が悪いのか?」
「それだけではありませんわ。」
「だがお前がエドウィン殿下の気持ちを掴んでおけばこのようには、」
「あーっ!もうっ、うるさいわね!」
 なんだと?
 常に知的で粛々としている我が娘が声を荒げるとは。
  

お知らせ
毎日読んで下さっている方々には大変感謝いたしております。
申し訳ございませんが、所用につき連休中は少しお休みさせていただきます。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

おかん
2023.04.06 おかん

主人公とバネッサが入れ替わっただけで、エディは隣国の王配への道を着々と進んでいますね〜。主人公はエディのことを見捨ててゼネス神教皇国に行って幸せに暮らして欲しい。出てくる男達がろくでもない奴ばかりでイライラする。ジュリアスもなんかなーって感じ。

あさいゆめ
2023.04.06 あさいゆめ

感想ありがとうございます。
出てくる男達がなんだかなーというのは同感です。
なんでかなー私の話は何を書いてもそんな感じなんです。
魅力的な男はどうやったら出来上がるのでしょうか。

解除

あなたにおすすめの小説

五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……? ~ハッピーエンドへ走りたい~

四季
恋愛
五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……?

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。

下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。 小説家になろう様でも投稿しています。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

逃げた先で見つけた幸せはずっと一緒に。

しゃーりん
恋愛
侯爵家の跡継ぎにも関わらず幼いころから虐げられてきたローレンス。 父の望む相手と結婚したものの妻は義弟の恋人で、妻に子供ができればローレンスは用済みになると知り、家出をする。 旅先で出会ったメロディーナ。嫁ぎ先に向かっているという彼女と一晩を過ごした。 陰からメロディーナを見守ろうと、彼女の嫁ぎ先の近くに住むことにする。 やがて夫を亡くした彼女が嫁ぎ先から追い出された。近くに住んでいたことを気持ち悪く思われることを恐れて記憶喪失と偽って彼女と結婚する。 平民として幸せに暮らしていたが貴族の知り合いに見つかり、妻だった義弟の恋人が子供を産んでいたと知る。 その子供は誰の子か。ローレンスの子でなければ乗っ取りなのではないかと言われたが、ローレンスは乗っ取りを承知で家出したため戻る気はない。 しかし、乗っ取りが暴かれて侯爵家に戻るように言われるお話です。

【完結】逆行した聖女

ウミ
恋愛
 1度目の生で、取り巻き達の罪まで着せられ処刑された公爵令嬢が、逆行してやり直す。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書いた作品で、色々矛盾があります。どうか寛大な心でお読みいただけるととても嬉しいですm(_ _)m

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

純白の檻に咲く復讐のバラ

ゆる
恋愛
貴族社会で孤独と屈辱に耐えながらも、自分を見失わずに生き抜こうとするヒロイン・ジュリア。裏切られた過去に縛られ、愛を信じられなくなった彼女の前に現れたのは、幼なじみのレオナルドだった。彼の誠実な想いと温かな支えに触れ、少しずつ心を開いていくジュリア。 屋敷を拠点に新しい活動を始め、支援を必要とする人々に手を差し伸べることで、自分自身の人生を取り戻していく。純白のバラが咲き誇る庭で、ジュリアが見つけたのは過去を乗り越える強さと、共に歩む未来だった――。 裏切り、再生、そして真実の愛。困難な運命を乗り越え、自らの力で未来を切り開くヒロインの物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。