上 下
45 / 71

45

しおりを挟む
   エドウィン視点

 ある日からバネッサに避けられるようになった。
 何か嫌われるような事をしただろうか?
 思いあたらない。
 彼女の兄のアーサーに聞いてみたが、何か知っているようなのに言葉を濁す。
 アーサーは実直で嘘をつく事が出来ない性格だ。
 しつこく問いただすと、
「あー…他の娘に遠慮しているのではないかと。」
 ヴァイオレット?ではないはず。
 婚約者がいることならば最初からわかっていた事だ。
 しかし取り巻き達がよけいな気をまわしたのかもしれない。
「嫌がらせでもされたのか?」
「サラはそんな事しません!」
「サラ?」
 アーサーはしまったという顔をして頭を掻いた。
 確かサミュエルが溺愛している義理の妹。
 サミュエルの妹だからアーサーは庇って言い出せなかったのか。
 かわいらしい娘だと思っていたのに、そんな一面があったとはがっかりだ。
 ヴァイオレットからも聞いた事がある。
 素行の悪さから令嬢の友達は一人も居らず、男を手玉にとりいいように使っているとか。
 そんな噂を信じていた訳ではないが、男の前だけでは猫を被っていたから気がつかなかったのかもしれない。
 生徒会室に呼び出し、問いただすと、
「私…旅行の後からはバネッサには会ってません。」
「嘘をつくな。
 思い出してみると、君の話をしてから避けられているし、アーサーの証言もある。
 ヴァイオレットも君は素行が悪いと言う。」
「私…私は…。」
 やはり目を潤ませて上目遣いをするか。
「そうやって涙を流せばサミュエルや他の男は思い通りに出来たかもしらないが、僕には通用しないよ。」
 黙りこみ、大粒の涙が流れ出す。
 これは皆絆されるのもしかたがないと思う。
 この娘は格段にかわいらしいからな。
 だけど僕は騙されたりしないぞ。
「なんとか言ったらどうなんだ?」 
「うっ…うわあああああん!」
 え?ちょっと待って。
「あああああああああん!」
 ぎゃん泣き?
 床にうずくまり大声で泣き叫びだした。
「あ…あの…。」
「わぁあああああああああん!」
 これは、あまりにもひどい。
 まるで僕が乱暴でも働いたようではないか。どうしたらいいのだ?
「ちょ、ちょっと、落ち着こうか?」
 演技にしてはあまりにみっともなく子供のように泣き叫ぶ。
 その姿に戸惑っていると騒ぎを聞いたサミュエルが慌てた様子で部屋に入ってきた。
 サラに駆け寄り、
「殿下!いったい何をしたのですかっ?」
「僕は何もっ!」
 さてはこの状況を狙っていたのか?
「アーサーから聞いたのだ、お前の妹がバネッサに嫌がらせをしていると。」
 そこに遅れてアーサーが入ってきた。
 サミュエルはアーサーを睨み、聞いた事もない低く冷たい声で、
「アーサー…貴様。」
「誤解だ、サミュエル!
 そんな事は言っていない!」
 サミュエルは僕ら二人を冷めた目で一瞥し、うって変わった優しい声で、
「さあサラ、立って。
 サラがそんな事するはずがない。」
 泣きじゃくるサラを支えて立たせた。
「エドウィン殿下、本日、今を限りに殿下の側近を辞する事をお許し下さい。」
「そんなっ!」
 それは困る。
 サミュエルは父上の信頼も厚い。
 それまで僕を蔑ろにしていた貴族もサミュエルのブランシェール侯爵家の顔を立てるために僕を認めてくれるようになったというのに。 
 兄を盾にするとは、
「…これほど狡猾な女だったとは。」
「はぁ?」
 サミュエルが刺すような視線を向けた。
 アーサーが慌てて、
「殿下!サラは何も悪くありません。
 私がはっきり言わなかったばかりに、誤解が生じたのです。」
 なんだと?
「ならばちゃんと釈明してみせろ。」
 サミュエルを失うわけにはいかない。
 というか、敵に回すととんでもなくやっかいなのではないか?
「もうどうでもいい!
 貴様らの事は許せそうにない。
 特にアーサー!貴様ら兄妹にはがっかりだ!」
「サミュエル!
 だから誤解なんだ!殿下にもちゃんと説明するからっ!」
「はっ!何をどう説明してもサラを傷付けた事実は消えない。」
 僕に向かって貴様だと?
 僕を誰だと…いや、僕はまだ何者でもない。
 ここでサミュエルが僕をみかぎり、ジュリアスに付けばジュリアスを可愛がっている父上はどうするだろう。
 僕は愚かだ。
 そんな事を教えてくれたのもサミュエルだけだったのに。
 サラを抱えるように部屋から出て行ってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

本日をもって、魔術師団長の射精係を退職するになりました。ここでの経験や学んだことを大切にしながら、今後も頑張っていきたいと考えております。

シェルビビ
恋愛
 膨大な魔力の引き換えに、自慰をしてはいけない制約がある宮廷魔術師。他人の手で射精をして貰わないといけないが、彼らの精液を受け入れられる人間は限られていた。  平民であるユニスは、偶然の出来事で射精師として才能が目覚めてしまう。ある日、襲われそうになった同僚を助けるために、制限魔法を解除して右手を酷使した結果、気絶してしまい前世を思い出してしまう。ユニスが触れた性器は、尋常じゃない快楽とおびただしい量の射精をする事が出来る。  前世の記憶を思い出した事で、冷静さを取り戻し、射精させる事が出来なくなった。徐々に射精に対する情熱を失っていくユニス。  突然仕事を辞める事を責める魔術師団長のイースは、普通の恋愛をしたいと話すユニスを説得するために行動をする。 「ユニス、本気で射精師辞めるのか? 心の髄まで射精が好きだっただろう。俺を射精させるまで辞めさせない」  射精させる情熱を思い出し愛を知った時、ユニスが選ぶ運命は――。

【完結】魅了が解けたあと。

恋愛
国を魔物から救った英雄。 元平民だった彼は、聖女の王女とその仲間と共に国を、民を守った。 その後、苦楽を共にした英雄と聖女は共に惹かれあい真実の愛を紡ぐ。 あれから何十年___。 仲睦まじくおしどり夫婦と言われていたが、 とうとう聖女が病で倒れてしまう。 そんな彼女をいつまも隣で支え最後まで手を握り続けた英雄。 彼女が永遠の眠りへとついた時、彼は叫声と共に表情を無くした。 それは彼女を亡くした虚しさからだったのか、それとも・・・・・ ※すべての物語が都合よく魅了が暴かれるとは限らない。そんなお話。 ______________________ 少し回りくどいかも。 でも私には必要な回りくどさなので最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

処理中です...