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ジュリアス第二王子視点
父上はサラに感謝を示し、
「何かお礼をしなければならないね。」
「いいえ、臣下として当然の事をしたまでです。
お礼を言いたいのは私のほうです。陛下が私を信じて治療を受けて下さっただけで、私は嬉しく思っているのですから。」
なんと奥ゆかしいのだろう。
実のところ僕はサラを少し誤解していた。
母親が侯爵に取り入り結婚して成り上がった令嬢だと、聞いた噂を鵜呑みにしていた。
こっそりと兄上を覗き見る姿もミーハーで、あわよくば自分も母親のように身分違いでも側室くらいはと狙っているのだろうと。
クラスでいつも孤立しているのは粗野で他の令嬢と馴染めないからしかたのない事。
そして男子生徒がいつも回りにいるふしだらな令嬢だと。
男子生徒が回りにいるのは彼女のせいではない。勝手に寄ってくるのだ。
その証拠に休憩時間はいつも一人になろうと教室を出ていく。
結果として兄上達を覗き見しに行くのだ。
そして声もかけられずただ見ている。
そんな彼女を僕が見ている。
孤立しているのはヴァイオレットの取り巻きがヴァイオレットに余計な気をまわして話しかけないのだ。
ヴァイオレットの家は貴族意識が高い。
それは決して悪い事ではない。
貴族としての誇りを持ち、その責務を果たす。
だが見方を誤ると差別や平民への人権侵害へと繋がる。
ヴァイオレット自身はそれを理解し、わきまえている。だが回りはヴァイオレットの機嫌を取るためだけに行動するから誤った結果になるのだ。
僕はヴァイオレットが好きだった。
貴族女性としての家柄、容姿、立ち居振舞い、合理的な思想。全てが完璧な彼女が僕の婚約者ならば良かったのにと、思わずにはいられなかった。
兄上には皇太子というだけで全てが与えられた。
僕はどんなに努力しても、所詮は兄上の為に働く駒にしかなれないのだ。
ヴァイオレットの事も兄上のものだから欲しいと思っただけなのかもしれない。
いつかのパーティーでサラに言われた事を思い出す。貴族としての釣り合いや完璧さを求めて女性を選ぶなんてつまらない奴だと。
まったくだ。
こんなに心を掻き乱されるなんて。
好きじゃないと否定しても、好きが溢れてきてしまう。
ああ、もう認めるしかない。
目の前にサラがいるだけでこんなにも胸が熱い。
父上はソファーに橫になりサラに治療してもらっている。
今度は倒れたりしないように無理はしないで慎重に少しだけ。
「まだまだ完全には取り除けません。
定期的にお会いする事が出来ればよいのですが。」
父上としてもなるべく治療はこまめに受けたいところだろう。
「ならば私が気に入ったからという理由で話し相手として茶会に呼ぶのはどうだ?」
「父上、それではまわりから誤解を受けかねません。父上が少女趣味だと。」
まさか本気で側妃にと望んだりはしないだろうな。
「それではお前の婚約者にしてはどうだ?」
「そ、そんな!」
それは願ってもない事だが。
まさか父上に僕の気持ちがばれているのではないか?
サラはすかさず、
「いけません。私ごときでは第二王子殿下とは釣り合いがとれません。
第二王子殿下にはご迷惑です。」
そんな事はない。
「そうか?平民だったとしても今は侯爵家の令嬢ではないか。
ジュリアスには婚約者もいないからちょうどよいのではないかと思ったのだが。
ジュリアスも嫌か?」
嫌なわけはない。
だけどサラは兄上の事が…。
父上はサラに感謝を示し、
「何かお礼をしなければならないね。」
「いいえ、臣下として当然の事をしたまでです。
お礼を言いたいのは私のほうです。陛下が私を信じて治療を受けて下さっただけで、私は嬉しく思っているのですから。」
なんと奥ゆかしいのだろう。
実のところ僕はサラを少し誤解していた。
母親が侯爵に取り入り結婚して成り上がった令嬢だと、聞いた噂を鵜呑みにしていた。
こっそりと兄上を覗き見る姿もミーハーで、あわよくば自分も母親のように身分違いでも側室くらいはと狙っているのだろうと。
クラスでいつも孤立しているのは粗野で他の令嬢と馴染めないからしかたのない事。
そして男子生徒がいつも回りにいるふしだらな令嬢だと。
男子生徒が回りにいるのは彼女のせいではない。勝手に寄ってくるのだ。
その証拠に休憩時間はいつも一人になろうと教室を出ていく。
結果として兄上達を覗き見しに行くのだ。
そして声もかけられずただ見ている。
そんな彼女を僕が見ている。
孤立しているのはヴァイオレットの取り巻きがヴァイオレットに余計な気をまわして話しかけないのだ。
ヴァイオレットの家は貴族意識が高い。
それは決して悪い事ではない。
貴族としての誇りを持ち、その責務を果たす。
だが見方を誤ると差別や平民への人権侵害へと繋がる。
ヴァイオレット自身はそれを理解し、わきまえている。だが回りはヴァイオレットの機嫌を取るためだけに行動するから誤った結果になるのだ。
僕はヴァイオレットが好きだった。
貴族女性としての家柄、容姿、立ち居振舞い、合理的な思想。全てが完璧な彼女が僕の婚約者ならば良かったのにと、思わずにはいられなかった。
兄上には皇太子というだけで全てが与えられた。
僕はどんなに努力しても、所詮は兄上の為に働く駒にしかなれないのだ。
ヴァイオレットの事も兄上のものだから欲しいと思っただけなのかもしれない。
いつかのパーティーでサラに言われた事を思い出す。貴族としての釣り合いや完璧さを求めて女性を選ぶなんてつまらない奴だと。
まったくだ。
こんなに心を掻き乱されるなんて。
好きじゃないと否定しても、好きが溢れてきてしまう。
ああ、もう認めるしかない。
目の前にサラがいるだけでこんなにも胸が熱い。
父上はソファーに橫になりサラに治療してもらっている。
今度は倒れたりしないように無理はしないで慎重に少しだけ。
「まだまだ完全には取り除けません。
定期的にお会いする事が出来ればよいのですが。」
父上としてもなるべく治療はこまめに受けたいところだろう。
「ならば私が気に入ったからという理由で話し相手として茶会に呼ぶのはどうだ?」
「父上、それではまわりから誤解を受けかねません。父上が少女趣味だと。」
まさか本気で側妃にと望んだりはしないだろうな。
「それではお前の婚約者にしてはどうだ?」
「そ、そんな!」
それは願ってもない事だが。
まさか父上に僕の気持ちがばれているのではないか?
サラはすかさず、
「いけません。私ごときでは第二王子殿下とは釣り合いがとれません。
第二王子殿下にはご迷惑です。」
そんな事はない。
「そうか?平民だったとしても今は侯爵家の令嬢ではないか。
ジュリアスには婚約者もいないからちょうどよいのではないかと思ったのだが。
ジュリアスも嫌か?」
嫌なわけはない。
だけどサラは兄上の事が…。
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