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「サラ、駄目だよ。」
 サミュエル兄様にはあたしが何を考えているかわかってしまったみたい。
「治癒師に相談はしてみたの?」
「ええ、もちろん。
 だけど駄目だったの。
 とても難しいらしくて強い魔力を持っている治癒師じゃないと治せないっていわれたわ。
 私達にはそんなお金無いし。」
 バネッサの家は火事で両親も財産もすべて失ってしまって、今は叔父夫婦の家に身を寄せているという。
「バネッサ、すまないがそろそろサラを休ませないと。」
 兄様がバネッサを遠ざけようとしている。
「あっ、ごめんなさい。話こんじゃったわね。」
「待って、バネッサ!」
「サラっ!」
 珍しく兄様が声を荒げた。
 バネッサも驚いてびっくりしている。
 ベッドから起き上がり、バネッサの手を取る。
「ここに座って。」
 椅子に座らせて背中に回る。
「サラ、やめてくれ。倒れたばかりじゃないか。」
 泣きそうな兄様には悪いけど、
「だって、目が悪いなんて他人事じゃないもの。」
 母様の苦労はあたしが一番よく知ってるから。
 あざとく上目遣いで、
「ねっ、お兄ちゃん。」
「ま、まったく…言っても聞いてくれないようだね。
 仕方がない。
 その代わり、明日も1日中ベッドの上だぞ。」
 やっぱりね。
 兄様ったらお兄ちゃんって呼ばれるのに弱いんだ。
「はーい。」
 バネッサはなんの事か解らないけれど二人の言い争いが自分の事が原因という事だけは解るので困っている。
 メガネを外して両手で目隠しをする。
「ねえバネッサ、今から起こる事は秘密にしてほしいの。」
「な、何?」
 バネッサの目はとても小さな傷がたくさんあるみたいだ。
 だけど一度に治そうとすると治癒の光がまぶしすぎて目の奥がおかしくなってしまいそう。だからなるべく一つづつパチパチッとつぶすように傷に神聖魔法をあてていく。
 あれ?このソバカスも火傷の跡だったんだ。
 ついでだから治しちゃえ。
「兄様、部屋の灯りを少し落として。
 バネッサ、ゆっくりと目をあけて。」
 薄暗い部屋の中なのに眩しそうにゆっくりと目をあけるバネッサ。
「目が慣れてきたら灯りをつけるわね。」
「何?見えてる?」
 兄様が灯りを元の明るさに戻す。
「見えるわ!なんて事!」
 その目からは涙がこぼれ落ちる。
 秘密にしてほしくても、いきなり見えるようになった事をどう言い訳できるだろう。
 とくにバネッサの兄のアーサーには本当の事を言うしかないかな。
 他の人には兄様の提案で王様の治癒師に治してもらった事にした。
 あたしはまた眠くなってしまった。夜だからちょうど良かったじゃない。あのままじゃ寝れなかったもん。
 その時、あたしはまた兄様が寝ずに付き添ってくれてるなんて思いもしていなかった。
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