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続編 18
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「クリス、また泣いているの?」
誰も入れるなと言われてはいたが、ニコラス達は心配でイデオンを通した。
「放っておいて。」
また黒い靄をまとっている。
「何が悲しいの?
ダニエルに会いたい?」
首を横に振る。
いつまでも隠しておける訳でもない、
「…子供がいるの。」
「ダニエルの…。」
手放しでおめでとうとは言えない。
だがその子供は継承権をもつ唯一の子だ。
「なら残念だけど、後宮へ戻らないと。」
神殿では産み育てるのは難しい。
後継者が出来たとあれば掌を返したように歓迎されるはずだ。
「嫌よ、私、この子を産みたくない。
この子を愛せない!」
「なんて事を言うの?」
クリスティアらしくなかった。
取り乱しているとはいえ、罪の無い子供にそんな事を言うなんて。
「何があったの?」
「…あの女の名前をよんだのよ。
私を抱きながらアリエルと言ったのよ。
こんな子いらないっ!
愛せない!」
そんな事があったなんて。
どれだけ悲しかっただろう。
惨めで悔しかっただろう。
悲痛な叫び声をあげて泣くクリスティアを抱きしめずにはいられなかった。
「…僕の子だ。」
「何を言うの?」
「この子は僕の子だよ。
僕が愛してあげるから。
クリスが僕を愛してくれたように、僕が愛して育ててあげるから。
ね、家族になろう?」
イデオンは強くクリスティアを抱きしめた。
「大丈夫だよ。
その子もクリスも、僕が守るから。
クリスは何も心配しないで。」
歴代の聖女は結婚はしない。
気にいった相手を好きなだけ侍らすことができるから。
それは皇帝が後宮に好きなだけ側妃を置けるのに似ている。
違うのは世継ぎを作るためではないという事。
彼らは聖女を慰める為に存在する。
聖女は孤独だ。
俗世と隔離され浄化をし続けて人より長く生きる。
歴代聖女にも子が産まれた記録はあるが、産まれた子供の地位は平民となる。
その父親は爵位を持たないから。
聖女もその地位は譲れるものではない。
したがってその子供は託せる貴族の養子となっていた。
イデオンも譲れる地位は無い。
クリスティアも同じ。
誰かの養子にするしかないのだった。
だがそれはまだ先の話。
クリスティア達はごくわずかの側近にのみ、子供が出来た事を知らせた。
皆、父親はダニエルだろうとわかっていたが、イデオンの子ということを納得し、秘匿する。
クリスティアは結界内で静かに暮らした。
時折悲しみが襲うがその度にイデオンは抱きしめて一緒に泣いた。
黒い靄はもう出なくなっていた。
クリスティアは子供に影響が出るかもしれないと、気を配るくらいには子供を愛せるようになっていた。
産まれた子供は皇族の金髪にアイスブルーの瞳だった。
誰も入れるなと言われてはいたが、ニコラス達は心配でイデオンを通した。
「放っておいて。」
また黒い靄をまとっている。
「何が悲しいの?
ダニエルに会いたい?」
首を横に振る。
いつまでも隠しておける訳でもない、
「…子供がいるの。」
「ダニエルの…。」
手放しでおめでとうとは言えない。
だがその子供は継承権をもつ唯一の子だ。
「なら残念だけど、後宮へ戻らないと。」
神殿では産み育てるのは難しい。
後継者が出来たとあれば掌を返したように歓迎されるはずだ。
「嫌よ、私、この子を産みたくない。
この子を愛せない!」
「なんて事を言うの?」
クリスティアらしくなかった。
取り乱しているとはいえ、罪の無い子供にそんな事を言うなんて。
「何があったの?」
「…あの女の名前をよんだのよ。
私を抱きながらアリエルと言ったのよ。
こんな子いらないっ!
愛せない!」
そんな事があったなんて。
どれだけ悲しかっただろう。
惨めで悔しかっただろう。
悲痛な叫び声をあげて泣くクリスティアを抱きしめずにはいられなかった。
「…僕の子だ。」
「何を言うの?」
「この子は僕の子だよ。
僕が愛してあげるから。
クリスが僕を愛してくれたように、僕が愛して育ててあげるから。
ね、家族になろう?」
イデオンは強くクリスティアを抱きしめた。
「大丈夫だよ。
その子もクリスも、僕が守るから。
クリスは何も心配しないで。」
歴代の聖女は結婚はしない。
気にいった相手を好きなだけ侍らすことができるから。
それは皇帝が後宮に好きなだけ側妃を置けるのに似ている。
違うのは世継ぎを作るためではないという事。
彼らは聖女を慰める為に存在する。
聖女は孤独だ。
俗世と隔離され浄化をし続けて人より長く生きる。
歴代聖女にも子が産まれた記録はあるが、産まれた子供の地位は平民となる。
その父親は爵位を持たないから。
聖女もその地位は譲れるものではない。
したがってその子供は託せる貴族の養子となっていた。
イデオンも譲れる地位は無い。
クリスティアも同じ。
誰かの養子にするしかないのだった。
だがそれはまだ先の話。
クリスティア達はごくわずかの側近にのみ、子供が出来た事を知らせた。
皆、父親はダニエルだろうとわかっていたが、イデオンの子ということを納得し、秘匿する。
クリスティアは結界内で静かに暮らした。
時折悲しみが襲うがその度にイデオンは抱きしめて一緒に泣いた。
黒い靄はもう出なくなっていた。
クリスティアは子供に影響が出るかもしれないと、気を配るくらいには子供を愛せるようになっていた。
産まれた子供は皇族の金髪にアイスブルーの瞳だった。
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