黒い聖女

あさいゆめ

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 浄化は順調に進んでいる。
 報告を受けている地点は全部で六ヶ所。
 今はその内の四ヶ所目。
 これまでは人のすむ村から離れた森の近くだったけれど、今回は少し大きな町が近くにある。
 その為またしても聖女に治癒してもらうために人が押し寄せて来ている。
「ごめんねぇ、レミィは治してあげたいんだけど、神官達が駄目って言うの。ねっ、イディ。」
 当たり前だ。
 私はもう浄化だけで精一杯。
「どうだろう?協力者が協力出来ないというのならば、僕が魔力を提供しようじゃないか?」
 駄目!
 殿下はいったい何を言い出すの?
「僕の魔力も、大分安定していると思うんだ。
 だから…。」
「なりません!」
 セゼル神官が大声で止めた。
「殿下は大切な御身でございます。万が一がございましたら帝国の危機となります。」
 イデオン殿下をはじめ、ここにいるほとんどが聖女の魔力喰いをしらない。
「あはは、協力者のくせに協力出来ないなんて笑うー。」
 また聖女が煽る。
 私だって出来ることなら治してあげたい。
「聖女様がお気の毒だ。せっかく治せる力をお持ちなのに協力者の力不足のせいで。」
 神官達の誰かが言うと、周りもぼそぼそと呟き出した。
 子供を連れた母親はもしかしたらと、必死で頼んでいる。
 一人を治せば、一人では済まないのはわかっている。
 なのに殿下はまた、
「重症のこの子供だけでも助けてあげてくれないかな?」
「殿下っ!」
 セゼル神官の袖を引いて、頷いた。
「しかしあなたはもう…。」
 仕方がない。
 そう、首を横に振った。
 右手をかざすと聖女は意気揚々と治癒しはじめた。
 声の出せない私は何も言えない。
 五人目を治癒し終えた時にはもう立ってはいられなくなった。
 イデオン殿下が手を出そうとしたが、聖女が引っ張ったのでそのまま地面に倒れた。
「イディ、触らないで。汚いわ。」
 ひどい。
「もう無理みたいね。
 皆ごめんねぇ~レミィは皆を治してあげたいんだけど、この人もう協力できないみたい。」
 治癒を待つ人々は口々に文句を言っている。
「さっさと連れていって!」
 吐き捨てるように聖女に指示されたいつもの二人組の神官が両脇を支え、引きずられるように歩かされた。
 私を挟んで二人が会話をする。
「なあ…この人大丈夫なのか?」
「…大丈夫なわけないだろう。この腕を持っただけでわかるだろう。」
「痩せたよな。元から細かったけど。」
「ちょっと酷すぎるよ。喉の薬の時も思ったけど。
 悪女って噂だけで、実際何をしたのか誰も知らないんだぜ?」
「じゃあ聖女様のでまかせだって言うのか?」
「俺は最近、聖女様が気味悪い。」
「おい、そんな事側近にでも聞かれたら!」
「そんな事でびくびくするのがおかしいとは思わないか?」
「まあ、そうだな。先代聖女様の時にはなかった。
 理不尽な体罰の心配なんてすることはなかった。」
「俺さ…ずっと引っかかってる事があるんだ。
 聖女様の訓練に付き添っていた神官がある日突然三人同時に死んだこと知ってるか?」
「いや。」
「神殿でも秘密にされているからな。
 この人、魔力を供給しているだけで、なんでこんなに衰弱していると思う?人より魔力が多いはずなのに。
 それに供給するだけならこの人一人に頼らなくても他の神官でも出来るのにやらせないのはなんでだ?」
「まさか…。」
 二人は気づいたようね。聖女の魔力喰いに。
 私が極端に痩せてしまったのはまだこの二人しか知らない。
 ぶかぶかの神官服を着て、フードを深くかぶり、手袋をしているから、見ただけではわからない。
『誰にも言ってはいけませんよ。』
「ひっ!」
 私が声を出すとは思っていなかったようで、驚かせてしまった。
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