黒い聖女

あさいゆめ

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「恐れ入りますが、その方のお世話は私ども神官にお任せ下さい。」
 セゼル神官が引き留めた。
「お気になさらずに、この方の馬車までお送りいたします。」
「いいえ、なりません。規則ですので。」
 ダニエルに頼っては駄目ね。
 抱えられて握りしめていたのは彼のマントだった。
 手を離し、軽くトントンと胸の辺りを叩く。「大丈夫よ」と気持ちを込めて。
 彼がどうしてここにいるのかはわからないけれど、事情をどこまで知っているのかもわからない。
 陛下の命令ならば私が逃げ出さないかの見張りかもしれない。
 下ろしてもらって自分で歩いた。
 ダニエルもついてこようとしていたが、聖女に呼び止められたみたい。
 足が重い。
 やはり魔力を使いすぎた。
「失礼いたします。」
 セゼル神官が見かねたのか身体を支えてくれた。
「申し訳ございませんでした。」
 何に対して謝っているのかしら?
 聖女の態度?
 私の扱い?
 挨拶にも来なかった事?
 たくさんありすぎるわ。
「あなた様にお会いするのが怖かったのです。
 私があなた様を協力者にする事を提案いたしました。
 あの日、城から帰って自分のしたことを恥ました。
 私は、自分達神官が死ぬのが怖くてあなた様を生け贄にしてしまったのです。
 後悔しました。
 他に方法がなかったのか、考えましたがどうする事もできませんでした。
 それに、まさか聖女様があなた様にあのような態度をとるとは思ってもいませんでした。
 あの…お怒りなのでしょうけれど、何かおっしゃって下さいませんか?」
 この人は何も知らないの?
 かすれた声とも言えぬ声で、
『話したくても声が出せないのです。』
「!そのお声は?」
『あなたの命令では?』
「何の事ですか?」
『喉を焼く薬を飲まされました。』
 聞いた事がある。
 昔、罪人に飲ませていたらしい薬。
 余計な事を口にさせずにさっさと処罰を与える為や、公には出来ない上の者の名前を出さない為に。
「そんな…いったい誰が?」
 私はまだこの人を信用できない。
 おろおろとしている様子だけど、しらばっくれているだけかもしれない。
「セゼル神官様、お手を煩わせて申し訳ございません、後は私達が。」
 いつも私に付いている二人組の神官が来たようだ。
「…お前達、この方に薬を飲ませたのは誰た?」
「えっ?セゼル神官の指示だとお聞きいたしておりますが?」
 やっぱり。
「私ではない!本当です。私はこんな惨い事をさせたりいたしません!」
 耳元で叫ばないでほしい。
 どうでもいい。
 どうせ私の味方などここにはいない。
 前もそうだった。
 前?
 小説のクリスティアと境遇を重ねてしまったのかしら?
 小説を経験した過去の出来事のように感じる事がある。
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