黒い聖女

あさいゆめ

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 領地に着いた。
 領地といってもアストロイト侯爵領ではなく、私が所有している領地、クリスチアーナという町だ。
 薬学者ロイド・ストーレンの協力で化粧品開発をし、製造、販売をしている領地。
 最近は美容と身体によい薬も開発して好評を得てる。いわゆるサプリメントだ。
 私はもうすぐいなくなるから、ここはロイドにまかせようと思う。
 ストーレン家は没落した伯爵だった。薬学の知識を買い父が我が家に招いた研究者だ。ここを受け継ぐには最適だろう。
「お嬢様、私には荷が重すぎます。
 私はただの研究者で、領主など分不相応でございます。」
「内密だけど私はもうすぐ公爵家に嫁ぎます。
 そうなるとこちらの領地のことも事業もおろそかになってしまうと思うの。」
 こんな嘘でもつかないと適当な理由が見つからない。
「ロイドにはとても世話になったわ。
 私の無理な要望を聞き入れてよくここまでやってくれました。
 あなたにしか任せられないの。」
「そんな、私など毒を作るしか能がなかったのに。」
「こっちのほうが楽しかったでしょ?」
「はい、何より儲かりましたから。」
 嬉しそうだ。 
 領地は小さいながらも収入が多いため潤っていた。
 小説でロイドは私に毒をくれた人。
 私は聖女にその毒を飲ませた。
 よっぽど聖女が憎かったのね。気持ちはわからないでもないわ。
 私はここから侍女と護衛を連れて直接瘴気の強まっている村に向かう。
 ロイドには旅行だと伝えた。
 聖女達の遠征隊とは現地で落ち合う予定で。
 瘴気は帝国の北部から広がり始める。
 北部の奥に広がる魔の森から発生するのだけれど、発生源は特定されていない。
 現地でも護衛と侍女は付けてもいいと思っていたのに、私だけ置いて侍女達は帰るよう言われた。
 私は神官の身なりをするよう決められていたが、侍女や護衛がいるのはおかしいと聖女が言ったらしい。
 イデオンが感づくとでも思ったのだろう。
 服を変え、フードを深くかぶり儀式へ向かう。
 神官達と揉めていたので遅くなり、聖女はご立腹だ。
「何してたの?
 さっさと来て自分の役目を果たしなさいよ!」
 道案内の村人もいるのに、ヒステリックな声をあげる。
 瘴気は色で言えば黒や紫、あるいは赤などの霧のように見える。
 両手をあげ、魔方陣をイメージしているであろう聖女の背後に立ち魔力を送る。
 くっ…、なるほどこれが魔力喰い。
 セーブしながら送っていても吸い上げられるような感覚。
 神官らの保有量ならば一瞬で枯渇するだろう。
 魔力喰いとは、魔方陣が水車だとしよう。聖女はその上に設置された水桶。水桶から水を落として水車を回すのだが、私がどれだけ水桶に水を注いでも、水桶は穴だらけで十分の一ほどしか水車に届かない。そんなイメージ。
 けれど浄化は成功。
 周りからは歓声があがる。
 とても疲れたけれど、耐えられないほどではない。きちんと食事をとり、ゆっくりと休みながらならばなんとか出来そう。
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