黒い聖女

あさいゆめ

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   神殿にて

 ディオニア神官長は焦っていた。
 聖女を担ぎ上げて次期大神官の座に座ろうとしていたのに、聖女は一向に覚醒しない。
 現大神官は自分より少し年下だったが先代聖女の寵愛を受けその座についた。
 聖女か死んだ今、その大神官は脱け殻のようになってしまった。
 これはチャンスだ。
 もし聖女が皇太子妃となれば、神殿は聖女不在となり、寵愛の関係なしに実力者が大神官となれる。
 なぜそれほど聖女の寵愛が必要なのか。
 聖女から寵愛を受ければ神聖力を与えられるのだ。その力は絶大。
 また聖女無しでは帝国は成り立たない。
 城に聖女が入るならばそれに列なり世話をする神官も入城する。後宮に他の側妃を置くことは出来ないため貴族達の力を削ぐ事が出来る。
 実質的に神殿がこの帝国を牛耳るのだ。
 ディオニア神官長はそのトップを狙っていたのに、肝心の聖女は覚醒しない。
 それどころか「魔力喰い」だと。
 なんという役立たず。
 神官達が魔力を与え発動しても、その後ろで神官が次々に倒れるならどうなる?いずれ皆死んでしまえば魔力源は枯渇する。
 それより先に聖女も神殿も批判の対象になり、ただではすまないだろう。
 ディオニア神官長はセゼル神官を呼び、相談する。
「新しく聖女を召喚できるか?」
「出来たとして、次の聖女もまた同じならどうしますか?」
「これまで聖女に費やした費用もばかにならんというのに!」
「あの…一つだけ希望があるのですが…。」
「なんだ?」
「アストロイト侯爵令嬢です。
 召喚の際に協力いただきましたが、彼女の魔力は底が見えませんでした。
 あの方に協力いただけたとしたら…。」
「なんだと?よりによってアストロイト侯爵令嬢?」
 これまで聖女がアストロイト侯爵令嬢及びその家族に何をしたか。ディオニア神官長の耳に入っていないはずはない。もちろんセゼル神官も知っている。自慢げに聖女自ら話したのだから。
 聖女はこの世界で自分は誰よりも重要な人物だと思っている。神にでもなったかのように。
「侯爵令嬢に頼めた義理ではないですよね。
 それ以前に聖女様が認めないでしょう。」
「そんなわがままばかり許されるか!」
「お言葉ですが、神官長がわがままを許し過ぎたからですよ!」
 神官長は聖女を自分の手駒にするため、甘やかすだけ甘やかした。
 問題はそれだけではなかった。
 覚醒していない聖女は転送魔法が使えない。
 過去には覚醒しなかった聖女もいたが、その頃は力のある魔法使いも多くいた。転送魔法が使える者も。だから問題にはならなかった。しかも覚醒こそしてはいないが、魔力喰いなどではなく、力は弱いがちゃんと聖女の役割は果たせていたのだ。
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