黒い聖女

あさいゆめ

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 パーティー当日。
 二人で申し合わせて黒の衣装にした。
 神殿側はバカの一つ覚えに白を基調にしてくるだろうから。 
 私達二人…。
「見事に悪役って感じね。」
 揃って人相が悪い。
「だが誰よりも美しいとは思わないか?」
 確かに。
 迫力と雰囲気がはんぱないわ。
 入場すると予想通りざわめきがおこる。
 私達の話題で次に入場した皇太子と聖女が霞んでしまった。
 予想通り白を基調とした衣装。神殿側が誂えたのだろう、今では流行遅れのコルセットで締め付けたウエストに強調された胸。全身これでもかとフリルとレースを使って飾り立てている。
 イデオンの衣装もそれに合わせてフリルとレースが使われている。気の毒なほど滑稽で浮いている。
 その後に入場されたのは皇帝陛下と皇后陛下、少し控えて側妃でイデオンの母のロザリア様だった。
 高位の者から順に皇帝陛下に挨拶をするのが通例。まずは皇太子からのはずが、陛下は皇太子に見向きもせずにあちらから私達に向かい歩み寄ってきた。
 慌てて挨拶をするが、そこそこに陛下がダニエルの手を取り話しかける。
「キリアン公爵、クリスティア嬢を誘ってくれたのか?礼をいう。」
「礼などとんでもない。私は私の為にクリスティアを選びました。彼女ほど素晴らしい女性はいませんから。」
「ああ、まったくだ。
 クリスティア嬢、この度の事、誠に申し訳なく思う。」
 皇后陛下も、
「クリスティアはとても良い娘よ。大切にしてあげてね。」
「もったいないお言葉でございます。」
 深々とお辞儀をした。
 辺りから誰とはなくに拍手がおこった。
 このパーティーは上位貴族ばかりだから、私と皇太子の破局の真相を知っている人ばかり。   これでもう、ダニエルと私が付き合っていると周知された。
 イデオンにはかわいそうだが仕方がない。
 陛下に挨拶をするも、形式だけのそっけないものだった。
 11年かけて陛下とイデオンの関係は良好だったはずなのに、こんなに簡単に亀裂ができてしまうものだったのか。
「踊ろう。」
 ダニエルが手を出し、踊りはじめる。
「お辛いですか?」
「えっ?」
「イデオン殿下を心配なさっているのでしょう?」
 顔に出ていたのかしら。
「申し訳ございません。覚悟はしていたのですが、かわいそうな事をしてしまったと…。」
「被害者はあなたなのですよ。」
 そうだ。
 顔を上げよう。
「お気遣いありがとうございます。
 それはそうと、ダンスがお上手ですね。
 女性は苦手ですのにどなたと練習なされたのですか?」
「…乳母と。」
「プッ!…あ、失礼いたしました。」
 ちょっと恥ずかしげな表情が可愛らしかった。
「何か?」
 ツンとすました顔がおかしくてついつい笑いがこみ上げてきてしまう。
「いい加減にして下さい。」
 この人は思っていたのとまったく違うわ。
 気遣いが出来て思いやりのある人だ。
 
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