黒い聖女

あさいゆめ

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 聖女が表れて一年と半年が過ぎた頃、やっと婚約が解消された。
 なぜだかイデオンがなかなか承諾しなかったけれど、これだけ世間が皇太子と聖女のラブロマンスを祝福していれば皇室としてはもう許すしかなかった。
 こちらに非が無いにも関わらず、世間は私を悪女と呼んだ。
 神殿が情報を操作しているのだろう。 
 王族に関わったせいでアストロイト侯爵家は散々だ。弟の怪我はもう治らない。聖女の治癒魔法があれば治るだろうけど、レミナは未だに治癒魔法が使えない。使えたところで怪我をさせた本人が治すとは思えない。
 私は社交界には顔を出す事は無くなった。
 上位貴族達は真実を知っているから同情はしてくれる。
 でももう誰にも会いたくなかった。
 そんな私になんの興味があるのかキリアン公爵からパートナーの申し込みが来るようになった。
 からかっているのでもなさそうだけれど、彼は今年学園を卒業したばかりの19歳。私より5歳年下。何を企んでいるのかしら?
 ダニエル・キリアン公爵は前世の記憶の小説では悪役。
 王位継承権第3位の彼は継承権2位の父親が皇帝になれば皇太子となりいずれは皇帝になれる立場だ。
 ダニエルは皇太子の暗殺を謀る。
 もちろん失敗するが、イデオンを暗殺しようとするのは聖女が欲しかったから。
 そんなダニエルが私を誘うのは企みがあるとしか思えないからずっと無視していた。
 そしたらとうとう自宅にきやがった。
 しかも婚約の申し込みに。
 なぜ?
 両親も戸惑いを隠せない。
「失礼を承知で申し込みいたします。」
「なぜ私なのですか?」
 ダニエルは名前からして悪役だよね。
 王族特有の金髪をとっても悪役っぽくオールバックにしている。
 ガラス細工のような冷たい瞳に神経質そうなほっそりとした顔立ちで肌は陶器のように白い。
 高身長で細い。
 こんなにひょろひょろだけど魔導騎士。
 腰の剣はほぼ飾り。
 なぜなら使う必要が無いから。
 水と風を操り、相手は剣を抜く前に首を切り落とされるという話で恐れられている。
 だけど私などを選ばなくても若い公爵ならば相手はいくらでもいる。
「私は無駄が嫌いです。
 今回の婚約解消にクリスティア様に非が無い事は上位貴族ならば皆知っている事です。
 クリスティア様は城でお妃教育まで受けられた淑女。ましてや幼い頃より王族の監視下におかれ貞操も守られております。これ以上に完璧な女性がいるでしょうか?
 ですが、失礼ながらクリスティア様に相応しい年相応な令息はもういらっしゃらないでしょう。
 アストロイト侯爵家にとっても私との婚約は悪い話では無いはずです。」
 確かにそうだ。
 もしいたとしても下位貴族では神殿が怖くてアストロイト家には近寄らないだろう。
 今の神殿はどうかしている。
 大神官は先代聖女が亡くなって以来表だって姿を見せる事がなくなり、ディオニア神官長が代理で動いている。
 その神官長がどうやら強硬派らしく、聖女を祭り上げ好きに神官達を操っているようだ。 
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