黒い聖女

あさいゆめ

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 私はイディを愛してしまった。
 ただの男と女としてでは無いかもしれない。
 時には姉のように、母のように、教師だった事もある。
 でも愛していた。
 背中にしがみついた彼も私の愛を欲しているのはわかっている。
「…。」 
「なんですか?」
 イディが背中で何か言ったけど聞こえなかった。
「…して。」
「え?」
 聞こえないので振り替える。
 薄暗いバルコニーでもわかるくらいに真っ赤になっている。
「どうしたの?」
 覗き込むと横を向く。
 まったく困った思春期君だ。
「…キスしたい。」
「それは…駄目ですよ。」
「なんで?僕達婚約してるじゃないか!これくらい皆してる!」
 ははん、学友達の中でエロ自慢している奴がいるのね。
「私達は駄目です。
 何度か話ましたよね?
 イディの運命の人は私じゃないんです。
 その人が現れた時、そういう軽はずみな事をした事を後悔しますよ。」
「なんでいつも未来がわかるみたいに言うの?」
「わかるからです。」
「もう子供みたいに騙されないよ?」
「騙してないですよ。」
「僕はクリスが好きだよ。クリスだって僕が好きじゃないか!」
 確かに私はイディが好き。
 でも好きだからこの子が後悔する事をさせたくない。愛する人の汚点にはなりたくない。
「何が怖いの?僕が守るよ?」
 ああ、愛しい。  
 本当は私からキスして抱き締めたい。
「もう少し、もう少しだけ待ってくれたらイディの運命の人が現れるから。
 それでも私の事を変わらず好きでいてくれたら許すわ。」
「本当に?それっていつ?」
 ぱっと、笑顔になる。
「来年です。来年の暮れには現れるはずですから。」
「絶対だよ?」
 強めに抱き締める。
「絶対だからね、返事は?」
「はい。」
 あれ?ちょっと…なんか当たってるんですけど。
「我慢できるかな…痛くしちゃったらごめんね。」
「えっ?ちょっと待って、キスの話だよね?」
 …。
「…ひどいよっ!」
 もとから赤かった顔をさらに赤くさせて走って逃げて行った。
 本当に来年になれば聖女がやってくる。
 その時私は冷静でいられるだろうか。
 お父様には万が一、イデオンに好きな令嬢が現れたら私は身を引く事は伝えてある。
 ロイドと始めた化粧品事業は成功している。
 やはり肌に悩みを持つ女性は多かった。
 昔の私の肌を知っている令嬢も多いから私自身が広告みたいなものだ。
 お父様から小さな領地もいただき、そこを拠点に生産している。
 一生独身でもなんとかやっていける。
 年が明けると大神殿で問題が起きた。
 聖女に異変があったのだ。
 胸の病だそうだ。
 聖女には治癒能力があるが、先天的な身体の異常は治せない。  
 おそらく生まれつきの心臓病が悪化した寿命だったのだろう。
 ついに異世界から聖女を召喚する。 
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