黒い聖女

あさいゆめ

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 白い清楚なドレス。
 薄紫の髪も今は艶があり美しい。
 顔はまあ地味だけど、こうやって飾りたてればそれなりに見える。
 今日はじめてイデオンに会う。
 そうだ、最初から愛さなければいい。
 どうせ政略結婚だ。
 疎ましく思われたら婚約解消してしまえばいい。
 小説ではクリスティアはイデオンに執着していたけど、それは婚期が過ぎてしまった自分にはイデオンと結婚しなければならないと思い込んでいたから。
 今の私なら別に結婚しなくてもなんて事ないし。
 前世の私も30過ぎて独身だったし、まわりにもお一人様はけっこういて、皆自分の人生を楽しんでいた。
 お父様に頼んで小さな領地でももらってのんびり暮らせばいいわ。
 婚約はまず城で両家の家族で会い、婚約の書面を交わし、神官に届け出る。
 その後は婚約披露パーティーになる。
 我が家は両親と私と弟が出席。
 王家は陛下と皇后、側妃とイデオンが出席だ。
 のっけから皇后と側妃は険悪な雰囲気。
 どうやら側妃は自分がイデオンの母親なのに一番末席に座らされたのが気に入らなかった様子。しかし、それは当たり前だ。
 イデオンは終始うつむき加減で二人の母の顔色を伺っているみたいだった。
 時々チラリと私を見て、目が合うとぱっとうつ向く。
 私はきっととても怖い顔をしていたのだろう。
 なにせ将来私はこの子に処刑される。
 雰囲気はともかく、婚約式はつつがなく執り行われた。子供はお互いに何も話す事もないまま。
 披露パーティーでも同じ。
 お互いの父が挨拶をしてお辞儀をするだけでその場を後にした。
 廊下に出てお互いの控え室に戻ろうとした時、隣からおずおずと声をかけられた。
「あっ、あ、あの…ちょっとだけお話しませんか?」
 5歳の男の子がやっとの事で頑張って怖い顔のお姉さんに声をかけたのだ。
 無視するのは少しかわいそうになった。
 うろ覚えの前世では30を過ぎていた。
 結婚はしていなかったが、子供はかわいいと思っていた。
「よろしいですよ。」
 ゲストルームに通され軽食を出された。
 そういえばもう夕方なのに、朝から何も食べていなかった。
 イデオンも同じようでお腹がすいていたのだろう。すぐにサンドイッチをほおばり、ハッとして皿に戻そうとした。
「ふふっ、お腹すきましたよね?食べながらお話しましょう。」
 うかつにもかわいらしいと思って、ついうっかり笑ってしまった。
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