お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

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第六十二話④『深夜の乗り込み』

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わたくしは魔法協会の全滅を目論んではおりません。こちらの意見を受け入れて頂きたい、その一心で終始動いております」

「仙堂さんの意識さえしっかり保たれていれば、その回復魔法でいくらでも修復が出来る事でしょう。貴方さえ無事であれば壊滅など起こるはずもありません。ですからわたくしは貴方に直接危害を加える意向は最初はなから持ち合わせておりませんでした」

 そう、つまりこの宇島うじまという男は、仙堂が回復魔法を使える事をあらかじめ知っていたが故に、遠慮なく部下達を失神させたというのだ。

 回復が出来るのならこの場で仙堂以外の全員を制してしまっても問題あるまいという考えの上で、彼はこちらと対峙をしていた。

 それをようやく理解した仙堂は、しかし納得と共にもう一つの疑問が生じ始めていた。

「……確かにあなたの言う通りですが、何故、私が回復に長けていると…………」

 疑問が一つ払拭されるもまた新たな疑問が浮かび上がる。

 仙堂が男と会ったのは令嬢と共に訪れた時と今日の二回だけだ。その二回で、仙堂が魔法を見せた事は勿論、回復魔法が使える事を匂わせた事も一切なかった。

 だというにも関わらず、この男は仙堂の隠された能力を見抜いたのだ。

 底知れぬ男の存在に、もはやあっぱれとしか言いようがなかった。仙堂が男を見遣ると、彼は疑問の答えをようやく明かし始めた。

「襲撃が始まっても貴方はこちらに危害を加える姿勢を見せませんでした。それは、最高責任者であるからという理由だけではなく、貴方が貴重な回復役であるからなのでしょう」

「それに貴方は防御のようなものを終始お張りになられていましたね。目視では捉えられませんでしたが、そのような気配を感じておりました。もう一つ申し上げるのなら、貴方のお持ちになられている杖は、他の方とデザインが異なります。恐らく杖の種類によって特殊な恩恵を得られるのではないでしょうか。杖だけではなく、恐らく身に付けられている指輪、ピアス、ベルトなどにも魔法の力が宿っていると見受けられました」

 男のその発言に仙堂は目を見開く。どれもこれも彼の言う通りなのだ。

 仙堂は部下達を乱入させた後、すぐに自身に防御魔法をかけ、執事からの攻撃をいつでも防げるように結界を張っていた。

 それは自身が倒れては部下達の手当てを出来なくなってしまうからだ。決して魔法使いにしか目視できない結界を、しかしこの男は気配で察知したという。何という人間なのだ。

 それに杖に関してはもちろんの事、その他の装飾品とも呼べる物を素人の彼に見抜かれた事実にも驚きを隠せずにいた。

 普段から魔法の力を隠している仙堂達は、魔法の杖以外にも魔力のあるアクセサリーを欠かさず身に付けている。

 そのアクセサリーは特殊な一品ものであり、その中でもいくつか種類が存在する。

 魔法使いにも様々な者がおり、それぞれの得意とする魔法を援助するためのアクセサリーを習慣としてみなが身に付けるようにしているのだ。

 そのため回復魔法を得意とする仙堂は、常に回復魔法の力を補助するアクセサリーを身に付け、日々を過ごしていた。アクセサリーであれば一般人に怪しまれる事も不思議に思われる事もないため日常に溶け込ませやすいからだ。

 しかし少し特殊なデザインだと思われるだけのそのアクセサリーに、ただの一般人に過ぎない執事の男がなぜ気付けたのかは分からない。だが、分からずとも、この男が鋭い思考を持った人物である事は明白となっていた。

 仙堂は様々な思考が渦巻く中で、続けて放たれる男の言葉に耳を傾ける。

「全ては直感と推測で御座います。ですが貴方が回復魔法をお使いになられる事は間違いないようですね」

 直感でこれほどまで見抜いてしまうというのも不思議な話だ。だが事実、男は秘匿事項含めた全ての事柄を暴いてしまっている。

 仙堂は冷や汗をかきながら小さく息を吸い込んだ。

「先程申し上げたように、わたくし嶺歌れかさんをお守りする為に来ております。こちらの意向を認めて下さるまでは、引くおつもりはありませんので、お時間の程は御覚悟ください」

 時間はとうに深夜の二時を回っていた。本来なら魔法協会を後にし、自宅で一服しているところだ。

 仙堂は男の一言でそんな事に気が付きながら頭を落ち着かせるように無言で視線を動かす。

 未だに息も荒げず、疲れ切った様子を見せない執事を見上げ、対照的に心身共に疲れ切り、すっかり腰を抜かした自分を認識しながらも冷静さを取り戻した仙堂は自身の状況を認める他なかった。

(これは……勝ち目がない)


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