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第五十話②『彼の行動』
しおりを挟む兜悟朗との放課後の時間がとても充実感で満たされ、嶺歌は帰宅してからもその幸せを噛み締めていた。
彼と二人きりで過ごす時間が増えている事に喜びを感じながら兜悟朗の顔を鮮明に思い浮かべる。
(大好きです……)
目を閉じて彼に心の中で告白をする。
瞼の中に映る兜悟朗は優しく微笑みながら、光栄で御座いますと口にして綺麗な一礼を返してくる。最近はそんな妄想をする事が増えていた。
予想外な事に兜悟朗はそれ以降も高頻度で嶺歌に会いにきてくれていた。
しかしあの日以降は、突然校門前に現れるという事はなく、今朝の内に必ず兜悟朗本人からレインで連絡が入るようになっていた。
嶺歌は意中の相手からのレインに胸を高鳴らせるのと同時に、お誘いまでもらえるというまるでご褒美のような二点セットがとても嬉しく、毎日のように兜悟朗とのやり取りを見返している程だった。
『兜悟朗には最近、たくさん休みを取るよう背中を押しましたの! 効果は絶大ですのね!!』
形南と話をした際に嶺歌は彼女にそんな話を聞いた。形南のその気持ちも、兜悟朗が行動をしてくれた気持ちも純粋に嬉しい。
嶺歌は形南に感謝の言葉を述べながら、最近の平尾との進展具合を聞いてみた。
「もうキスはしたんだよね? どうだった??」
しかし形南はまあ! と声を出しながら全力で否定の声を出してきた。
「そのような事はまだですのっ!! いやですわ、嶺歌ってば」
形南は嬉しそうに興奮した様子でそう口にする。妄想して気分が高まっているのかもしれない。
だが嶺歌はとっくにしているであろうと思っていたため意表をつかれた気分だった。
「告白したらすると思ってたわ、あれなはまだしたくないの?」
素朴な疑問をぶつけてみると、形南は尚も嬉しそうな声で『勿論したいですの!』と即答する。そうしてそのまま言葉を続けた。
『そのような行いに躊躇いはありませんのよ、恋人同士なのですからお父様も容認なさって下さるでしょう。ですが、正様のタイミングに合わせたいのですの』
形南は平尾と付き合い始めてから彼の事を下の名で呼ぶようになっていた。
それが嶺歌にはとても微笑ましく、嬉しい事に思える。
スキンシップの進展はカップルそれぞれだ。それゆえに嶺歌もこれ以上の野暮な言葉を口にするのは控える事にした。形南と平尾のペースで少しずつ絆を深める事が一番いいに決まっている。
「そっか、あれならしいね。進展したら絶対教えてよ」
嶺歌はそう言って笑う。形南の方も電話口で笑みをこぼしてくれているのが声の調子で分かった。
形南達が付き合い始めて間もない頃、形南には平尾との付き合った時の経緯を既に事細かく聞いていた。
平尾の方から告白をしたという点にとても驚いたが、以前彼がクラスメイトの前で堂々と発言した姿を思い出し直ぐに納得をしていた。彼はここぞという時にやる男だと嶺歌も平尾の印象を改めているからだ。
親友と友人の二人の吉報を喜んだ後は、嶺歌も兜悟朗への想いに時間を費やす。
考えようと思わなくても自然と彼の事を考えてしまう。兜悟朗も嶺歌の事をそんな風に思ってくれる日が、いつかは来てくれるのだろうか。
(あたし次第だよね)
彼が嶺歌の事を異性として見てくれているのかは不明のままだ。だがそれでも待つだけというのは自分の性に合わない。
嶺歌は少しでも彼に意識してもらえるようにと再度、気持ちを強く固めるのであった。
第五十話『彼の行動』終
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