お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

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第五十話①『彼の行動』

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 形南あれなから吉報が届いた。

 なんと平尾と付き合うことになったらしい。

 詳しい話が気になって仕方がない嶺歌れかは形南に直接会って確かめたかったのだが、ただでさえ忙しい形南が僅かな時間で会いたいのは平尾だろうと思い直し『時間ある時詳しく教えてよ! 絶対ね!』とメッセージを返していた。恋人になりたての二人を邪魔したくはない。

(本当おめでとうあれな)

 嶺歌は朝から嬉しいニュースを耳にして思わず足がスキップをしていることに気が付く。

 こんなに嬉しい気持ちになるとは自分でも予想外だ。

 きっと形南たちの行く末を一番近くで見守っていたからなのだろう。

 嶺歌はそのまま魔法少女の姿に変身して窓から軽々と飛び降りる。

 そうして屋根をつたっていきながら本日の魔法少女活動に勤しむのであった。



「つ、付き合うことになった」

 休み時間になると平尾が嶺歌れかのクラスまで足を運び、報告をしてくれた。

 嶺歌はその報告を既に形南あれなから聞いていた旨を話し、おめでとうと心からの祝福を口にする。

「いつになるかなってずっと思ってたけど、ホント嬉しいよ」

 そう言って嶺歌はじゃあまたねと彼に手を振った。

 すると平尾は最後にこのような言葉を口にしてくる。

「い、色々ありがとう……和泉さんの恋も、応援してる」

 平尾がそう口にし、直ぐに自身の教室へ彼が戻って行くのを目で追いながら嶺歌は思った。自分も頑張ろうと。

兜悟朗とうごろうさん、次はいつ会えるかな)

 まだ下旬の夕食会までは遠い。

 それまでに一度くらいは会いたいものだが、彼も多忙な身であるがゆえそう簡単な話ではないだろう。それに、付き合ってもいないのに会いたいと言うのも何だか変な話だった。

 兜悟朗には会いたいが、気持ちはまだ隠しておきたい。

 しかし洞察力に長けている兜悟朗であれば嶺歌の気持ちに既に気付いている可能性もあるのだが、その時はその時だ。

 とにかく今は少しでも兜悟朗と会う時間を確保したい。そのような事を思いながら嶺歌は授業を受けていた。

 そんな事を考えていた手前、流石に嶺歌れかは驚いた。放課後になった校門の先に兜悟朗とうごろうの姿がある事に――。

「嶺歌さん」

 彼は嶺歌の姿を目にとらえると柔らかな笑みを向けて綺麗な一礼をする。

「お疲れ様で御座います。本日のご予定は空いていらっしゃいますか?」

「あ、いてます」

 嶺歌は口をあんぐりと開けたまま、しかし直ぐに返事を返す。同時に願ってもいないこの状況に胸を高鳴らせてもいた。まさか今日会えるとは夢にも思うまい。

 嶺歌は疑問と嬉しさとで思考回路を動かしながらも兜悟朗に差し出された手を無意識にとった。ああ、この感覚が本当に幸せだ――。

 そのまま兜悟朗に連れられ移動する。

 今回もどうやら兜悟朗は半休を取得したようで、リムジンではなく私用車を持ち出していた。

 彼の所有するこの車に何度も乗れている事実が嬉しく、嶺歌はとてつもない幸福感で満たされる。

 そうして横でハンドルを握る紳士な男性の存在に胸を高鳴らせていた。

(どうして誘ってくれたんだろう)

 今日は本当に何も予定がなかったからこうして彼について来れていたが、もし嶺歌に予定があったら兜悟朗はどうするつもりだったのだろうか。

 しかしそんな答えは明白だ。彼は穏やかに笑って立ち去っていくに決まっている。そういう物腰の柔らかい人だ。

「あの、もし今日予定があるって言ったらどうされてたんですか?」

 嶺歌はそのまま尋ねてみる。自分の顔は赤いままだ。

「はい。また日を改めさせて頂こうと考えておりました。ですが本日はご予定がないようで安心致しました」

 その言葉を聞いて喜んでいる自分がいた。

 立ち去るところまでは嶺歌れかの想像通りだったが、日を改めてという事は今日がダメでもまた後日会いに来ようとそう思ってくれているという事だ。

 嶺歌は口元が緩みそうになるのを抑えながら「そうなんですね」と言葉を返す。嬉しすぎて顔を上げる事が出来ずにいた。

「あ、の……今日はどこに?」

 そうして嶺歌は再び質問をする。とにかく今は何か話したくて仕方がなかった。

「宜しければ嶺歌さんのご要望をお聞かせ願えませんでしょうか?」

 すると兜悟朗とうごろうは逆に質問を返してくる。

 だが嶺歌はそれもまた嬉しく感じられていた。というよりも嶺歌の意見を聞こうとしてくれる彼のその姿勢が、まさに兜悟朗という一人の男性を体現してくれているかのようで嬉しかったのだ。

「最近有名なパンケーキ屋があるんですけど、そこはどうですか?」

 嶺歌は兜悟朗と二人で飲食店に行くのが好きだった。互いに向き合う形でゆっくりと話ができるからだ。

 とは言っても兜悟朗と二人であれば何をしても嬉しいことには変わりないのだが、せっかく意見を聞いてくれるというこの機会を逃したくはない。

 すると兜悟朗は笑みをこぼしながら「勿論です。ではそちらに行きましょうか」と嶺歌の言葉に同意してくれた。

 それだけで嶺歌は嬉しさが加速し、この時間がとても貴重であると改めて実感するのであった。


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