114 / 164
第四十六話①『一喝』
しおりを挟む『嶺歌さん、ご無沙汰しております。宜しければ明日、ご予定が空いておりましたらお時間いただけないでしょうか』
「お、お、お誘いキタ…………」
嶺歌は早朝にレインの通知を確認すると、兜悟朗からお誘いの連絡が来ている事に一瞬で頭が持っていかれていた。
嬉しすぎるが故にすぐ返事を返そうと思ったものの、しかしそこで嶺歌は迷い始める。
(いや、待って。これ……返事早すぎてもどうなの?)
今までこのような事を誰かとのやりとりで考えた事はなかった。
返事を返そうと思えばすぐに返し、後でにしようと思えば後で送る。そんな単純なものだった。
決してこの人にはもう少し時間をあけてから、などという考えを働かせた事は一度もなかったのである。
それが兜悟朗にはこのように悩んでしまう。嶺歌は何て小さな悩みなのだろうと思いながらもしかし真剣に悩んでいた。
(とりあえずご飯食べてから送ろう。うん)
そう結論を導き出し、一分としない内に大丈夫ですと打ちかけていたメッセージを一旦閉じる。
一呼吸してからペットボトルの水を飲むと台所まで足を動かすのであった。
学校に到着すると何やら騒々しい。
嶺歌は不思議に思いながらも自身の教室に足を運ぶと嶺歌の姿を見たクラスメイト達がこちらに駆け寄ってくる。
「ねえねえ嶺歌ちゃん! 平尾と付き合ってるって本当!?」
「れかまじなのっ!?」
「夏休みからってこと!?」
「はい? ちょっと落ち着いてよ」
次々と放たれる友人達の尋問のようなその問い掛けに嶺歌は眉根を寄せながら彼女らを見やった。
一体何故そのような馬鹿げた噂ができたのだろうか。
嶺歌は自身の周りにいつも以上に集まるクラスメイトにちょいどいてと声を上げながら自席に到着し、鞄を机に置くと平尾からレインが届き始める。
『和泉さんと噂になってるんだけど助けて』
「マジか……」
嶺歌は顔を顰めるとワラワラと群がるクラスメイトにどこからきた情報なのかと尋ねてみる。
すると心乃が大きく手を上げて答え始めた。
「れかちゃんが平尾と親しげに話してる事が最近多いって聞いて、確かにそれは私もよく見るな~と思ったんだよ!」
「親しげにって……別に話してるだけじゃん」
嶺歌はそうぼやくがここまで広がった噂はそう簡単には収まりそうにない。
とりあえず平尾のいる一組まで足を運ぶ事にした。
「平尾、ちょい来て」
一組の教室まで足を動かした嶺歌は、声を出したと同時に複数の一組の生徒から目線を向けられていた。
視線を浴びるのはいいのだが、このような不名誉な噂の的になるのは嶺歌も好きではない。
見てくる生徒らに呆れた顔で視線を返していると平尾はノロノロとこちらにやってきた。何だか疲れ切ったような顔をしている。
「め、目立つの勘弁なんだけど……」
「そりゃあたしもこれは嫌だって。とりあえず状況整理したいからこっち来て」
そう言って平尾を人の少ない裏庭まで連れ出した。平尾は終始顔を俯かせながら嶺歌についてきていた。
二人が歩いているところを目にした生徒達は先程と同様にこちらへ視線を向けてくる事が多かった。一体どこまで噂が広がっているのだろう。
嶺歌は好奇な目で見てくる生徒らに呆れ返りながらも足を進めていた。
「な、なんか、呼び方が逆効果だったぽい」
平尾はそう言って顔を青ざめさせながら困り果てたように口にする。
これまで平尾を君付けしていた嶺歌が唐突に呼び捨てに変えた事が決定打となっていたようだ。
更に普段は異性を呼び捨てでしか呼称しない嶺歌が、平尾にだけは君付けをしており、それをまた急に変えたからというのも勘違いの原因の一つに含まれているらしい。
それを本気で交際に発展した証拠だと思ったのかは分からないが、それらが大きな要因として噂の元になっているのは間違いないようだった。
「ほんと暇人だよね」
嶺歌は深くため息を吐いた。
互いがそのような対象でない事は嶺歌と平尾自身がよく分かっている。それぞれ意中の相手がいるというのにこのような噂はただの害にしかならない。
嶺歌は額に手を当てながら平尾に言葉を発した。
「否定すればするほど多分悪化すると思う。耳障りだけど噂が収まるのを待つしかないよ」
嶺歌が思いつく最善の方法を平尾に伝えると彼は「だ、だよね……」と心底残念そうに声の調子を落とした。
「あれなにはあたしが言っとくよ」
最近はそのような話を聞いていないが、用心深い形南の事だからまた平尾を狙うライバルが現れないかをチェックしている可能性はあった。
そこで今回の噂を知ってしまうよりも嶺歌の口から伝えておいた方が無難であろう。そう思って口にした。しかし平尾は形南の名を耳にした途端に表情が変わる。
「そ、れは……あれちゃんに和泉さんと噂になってる事がバレちゃうの?」
「バレちゃうっていうか言っておいた方が無難だと思うけど。変に隠してたら余計怪しくない?」
嶺歌がそう言うと平尾は唇を噛んでから拳をギュッと握り、何を思ったのか裏庭を出て行こうとする。そして嶺歌にもう一度言葉を向けた。
「悪いけど、あれちゃんに言わないで。俺、誤解とか嫌だ」
next→第四十六話②
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
冬馬君の夏休み
だかずお
青春
冬馬君の夏休みの日々
キャンプや恋、お祭りや海水浴 夏休みの
楽しい生活
たくさんの思い出や体験が冬馬君を成長させる 一緒に思い出を体験しよう。
きっと懐かしの子供の頃の思いが蘇る
さあ!!
あの頃の夏を再び
現在、You Tubeにて冬馬君の夏休み、聴く物語として、公開中!!
是非You Tubeで、冬馬君の夏休み で検索してみてね(^^)v
甘い誘惑
さつらぎ結雛
恋愛
幼馴染だった3人がある日突然イケナイ関係に…
どんどん深まっていく。
こんなにも身近に甘い罠があったなんて
あの日まで思いもしなかった。
3人の関係にライバルも続出。
どんどん甘い誘惑の罠にハマっていく胡桃。
一体この罠から抜け出せる事は出来るのか。
※だいぶ性描写、R18、R15要素入ります。
自己責任でお願い致します。
TS転生して夢のvtuberになったのでリスナーを青色に染めちゃいます!
カルポ
青春
社畜だった主人公、田中 蒼伊は、会社帰りの電車の中で推しの雨降 レインの配信を見ながら家に帰る途中で過労により死んでしまう。
そして目が覚めた主人公は、女子になっていて、推しのvtuberと合う為に頑張る話。
出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??
新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。
消えていく君のカケラと、進まない僕の時間
月ヶ瀬 杏
青春
青山陽咲、藤川大晴、矢野蒼月は、幼稚園の頃からの幼馴染。小学校までは仲の良かった三人だが、十歳のときに起きたある出来事をキッカケに、陽咲と蒼月の仲は疎遠になった。
高二の夏休み、突然、陽咲と蒼月のことを呼び出した大晴が、
「夏休みに、なんか思い出残さない?」
と誘いかけてくる。
「記憶はいつか曖昧になるから、記録を残したいんだ」
という大晴の言葉で、陽咲たちは映画撮影を始める。小学生のときから疎遠になっていた蒼月と話すきっかけができた陽咲は嬉しく思うが、蒼月の態度は会う度に少し違う。
大晴も、陽咲に何か隠し事をしているようで……。
幼なじみの三角関係ラブストーリー。
大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ
さとう
ファンタジー
書籍1~8巻好評発売中!
コミカライズ連載中! コミックス1~3巻発売決定!
ビッグバロッグ王国・大貴族エストレイヤ家次男の少年アシュト。
魔法適正『植物』という微妙でハズレな魔法属性で将軍一家に相応しくないとされ、両親から見放されてしまう。
そして、優秀な将軍の兄、将来を期待された魔法師の妹と比較され、将来を誓い合った幼馴染は兄の婚約者になってしまい……アシュトはもう家にいることができず、十八歳で未開の大地オーベルシュタインの領主になる。
一人、森で暮らそうとするアシュトの元に、希少な種族たちが次々と集まり、やがて大きな村となり……ハズレ属性と思われた『植物』魔法は、未開の地での生活には欠かせない魔法だった!
これは、植物魔法師アシュトが、未開の地オーベルシュタインで仲間たちと共に過ごすスローライフ物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる