76 / 164
第二十九話①『放課後』
しおりを挟むそれからテスト期間がすぐにやってきて、嶺歌はしばらく勉強漬けの日々を送っていた。
気晴らしに魔法少女活動を行いながらも、それを終えると再び試験対策に時間を費やす。
そんな日々をようやく終え、テスト返却の日まであと一日となったところで早速形南から連絡が入ってきていた。
『嶺歌、試験お疲れ様ですの! 早速なのですが、明日の放課後平尾様と三人でお出掛けなさらない?』
「平尾君と三人で?」
嶺歌は形南から入ったレインの内容を読み上げながら頭に疑問符を浮かべる。
二人で遊んできた方がいいのではないだろうかと思いながらも、こうして声を掛けてくれる事は嬉しく、断る必要もないかと思い直しすぐに行くという内容のメッセージを送信する。
(そういえばまだ詳細聞いてないな)
形南が平尾に呼び出され彼の家へ直行した一件以降、テスト勉強に励んでいた嶺歌は彼女にあの時の事を詳しく聞き損ねていた。
あれから二週間ほど時間が経っているがあの時の詳細をきちんと聞いておきたい。
形南と平尾の二人はまだ恋人関係までには発展していないが、少しずつ進展している気がする。
客観的に見た嶺歌の主観であるが、二人が両思いである事を知っている嶺歌としてはどのタイミングで恋仲になるのかを考えるのが楽しみになっていた。
テスト返却が無事に終わり、放課後になると平尾が教室の外で嶺歌を待っていた。
お疲れと言いながら直ぐに下駄箱まで足を運び、校門の外で待っているであろう形南の元へ向かう。途中平尾にはプレゼントの件を尋ねていた。
「いや、別に特にこれといった事は……ただ、喜んでくれたあれちゃんがすごく、か、可愛かった」
「おっ、良いじゃん」
そんなやり取りをしているとあっという間に昇降口を抜けて校門の近くまで辿り着く。
途中ですれ違う友人らに声を掛けられまたねと言葉を返していると横にいた平尾はボソッと「凄いね」と声を漏らしてきた。
「? 何が?」
嶺歌は言葉の意味が分からず率直に尋ねると平尾は急にオドオドした様子で「い、いや……」と口をつぐむ。
しかし意を決したのか、そのまま言葉の補足を口に出した。
「和泉さんて、顔広いよね」
「まあ狭くはないけど」
純粋に思った事を述べると平尾は「そ、そう」と自身の頬を掻きながら不思議な事を口にする。
嶺歌自身も自分の友人は多く、恵まれている方だと思うが、それは性格ゆえな事も何となく理解していた。
コミュニケーションに関しては嶺歌の前に出るものはいない。そんな自分に誇りも持っている。
対して平尾はコミュニケーション能力が低い。それは初めて彼を認識した時から感じていたところだが、彼も彼でそれに思うところがあるのだろうか。
(あれなはそういう所も好きだと思うけど)
形南が平尾を好きな理由は、形南本人が嶺歌の前でよく口にしているため印象に残っている。
一目惚れから始まった形南の恋心は、平尾の弱々しくも守ってあげたくなるようなそんな姿に胸が躍るのだそうだ。
嶺歌には彼に惚れるポイントがどことなく分からないのだが、形南の好みと嶺歌の好みが違うのは当然の事だ。そのため形南のタイプの男性像をとやかく言う資格は嶺歌にない。
それに本人が心の底から好いているのだと最近は形南の言葉だけでなく態度からも理解できている。
平尾を前にした形南はいつも誰に対する姿勢よりもより一層女の子らしくなり、頬を常に上気させ、本当に可愛らしい姿を見せるのだ。微笑ましく思えるほどに形南は分かりやすかった。
加えて最近は平尾へ向ける嶺歌の感情が変化しているのも事実だ。
彼が形南を本気で好いており、それが行動力に出ている事を嶺歌もきちんと知っている。
平尾は自分の為なら無理でも、形南の為であればきちんと恐怖の対象にも立ち向かえる勇気を持っている。勇敢さと言うべきだろうか。
そんな平尾を知ってからは嶺歌自身も、形南と平尾の関係を心から応援していた。平尾の良さは分からずとも、形南を思う彼の気持ちだけは信頼できているからだ。
「あ、あれないるね」
嶺歌は校門の少し離れた場所で黒いリムジンを背に立っている形南と兜悟朗の姿を目にする。
兜悟朗の姿を捉えた瞬間に嶺歌は一気に心臓の音が煩くなるのを感じていたが、変に思われないよう小さく深呼吸をした。
形南は嶺歌と平尾の姿に気が付くと顔を綻ばせ嬉しそうにこちらに上品に手を振ってくる。
そしてそのまま形南たちの元へ辿り着くと彼女は開口一番に「試験お疲れ様ですの」と声を掛けてきた。
「あれなもお疲れ。今回全く同じスケジュールだったね」
「そうなのですの! 嶺歌の御校と同じ試験日程でとても助かりましたわ」
そう言ってニコニコと満面の笑みを向ける形南は平尾の方へ顔を向けると彼に対して言葉を発する。
「平尾様、本日もお会いできて嬉しいですの」
next→第二十九話②(7月21日更新予定です)
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
私の日常
アルパカ
青春
私、玉置 優奈って言う名前です!
大阪の近くの県に住んでるから、時々方言交じるけど、そこは許してな!
さて、このお話は、私、優奈の日常生活のおはなしですっ!
ぜったい読んでな!
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる