お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

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第二十四話①『誤解して先走り』

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 日曜日は友人達と遊園地で遊び回った嶺歌だったが、内心では昨日の出来事で頭が埋め尽くされていた。

 兜悟朗とうごろう嶺歌れかの手を取り、そこへ丁寧に優しい口付けを落とす。その場面だけを何度も思い返しては頭がパンクしそうになる。

(いや、財閥界ではあれくらい日常茶飯事では……)

 嶺歌のような一般市民にはとても縁のない事であるが、形南あれなほどの財閥一家であれば執事が主人に敬意を示す際にあのような事をするのもおかしくはないだろう。

 ドラマや漫画などでもそのようなシーンは見た事がある。

(いやいや、でもあたし主人じゃないし……てか主人の友達だし……)

 そんな事を悶々と考え、嶺歌はパニックになりかける。

 大抵のことは事が済めば何事もなかったように切り替えてしまう嶺歌であったが、今回ばかりはそうはいかない。

 兜悟朗からのあの行為の意味を考えられずにはいられなかった。



「おねえちゃん、髪の毛やって~!」

 平日の朝が始まると嶺璃れりが部屋に入ってきて嶺歌の目の前にヘアゴムとリボンを見せてくる。

 嶺歌れかはそんな妹の姿を見て小さく笑みを溢すと「ここ座んな」と口にしていつものように小さな頭の両サイドにツインテールを作り始める。

 嬉しそうに髪の毛を預ける嶺璃は今日は遠足なのだと報告をしてきた。

「れかちゃんお土産何がいい? おそろにするんだ~」

「お土産ねえ、嶺璃が可愛いいって思うもの買ってきてよ。二人で付けよう」

「うんっ! 分かった! 絶対付けようね!」

 仕上げのリボンをサイドに施し、嶺璃の髪の毛を整え終えると嶺璃は嬉しそうに飛び上がりこちらを振り返った。

 そんな妹に向けて嶺歌は再び笑みをこぼすと「勿論」と言葉を返して嶺璃の頭を撫でた。

 髪の毛が崩れないように一度だけ撫でるとそのまま自身の支度の準備に取り掛かる。

「ねえれかちゃん~」

「ん?」

 嶺璃は部屋から出ていかず嶺歌の袖を掴んだ。甘えた声でこちらを見上げてくる。

「このブレスレット、れかちゃんの分はないの? おそろにならない?」

 そう言って嶺璃が見せてきた物は以前形南あれなの厚意で嶺璃にプレゼントしてもらったブレスレットだ。

 可愛らしいデザインのそれは形南が用意してくれただけあって高級感がそれとなく滲み出ている。

 嶺歌は嶺璃のその言葉に悩む事なく言葉を返した。

「ないよ。それたぶん一点ものだし。めちゃくちゃ高くて貴重な物だから大事にするんだよ?」

「そうなんだあ……うん、大事にする。れかちゃんの友達からのプレゼントだもん」

 嶺璃は少し残念そうに眉根を下げていたが、素直に嶺歌の言葉に頷いてみせた。嶺璃は甘えん坊なところがあるが、きちんと嶺歌の言う事を聞く素直で良い妹だ。

 嶺歌は反抗する事なく肯定した嶺璃に「うん、えらい」と笑顔を向けると嶺璃は途端に嬉しそうに抱きついてきた。

「れかちゃんだいすき!!!」

「はいはい、あたしもだいすきだよ。準備するから、そろそろ嶺璃もご飯食べに行きな」

 嶺歌はぎゅうっと自身の体に巻きついてくる小さな妹を優しく離すとそのまま部屋の外へ誘導する。

 嶺璃も駄々をこねる事はなく満足そうにリビングの方へ向かっていった。



「お、はよう」

「おはよ」

 学校へ到着するとなぜか平尾に待ち伏せされていた。

 彼はたどたどしい視線をこちらに向けながら「ちょっといいかな」と声を漏らす。

「朝は日直だから休み時間でいい?」

 嶺歌れかは率直にそう告げると彼は「じゃあ昼休みに裏庭来てほしい」と言葉を返してきた。

 彼が何の話をしようとしているのかは全く見当もつかないが、土曜日に形南としたデートの感想を聞いてみたいとは思っていた。さりげなく聞いてみよう。

 そう思いながら午前の授業を受けた。



「それでどうしたの?」

 昼休みになると嶺歌は友人からの誘いを断り一人裏庭へと行く。

 そして目的の場所には既に平尾が立って待っていた。今ここに他の生徒はおらず、嶺歌と平尾の二人だけであった。

 嶺歌が単刀直入に言葉を投げかけると平尾は小さく言葉を漏らし始めた。

「あのさ……和泉いずみさん、にお願いがあって」

「お願い? 何?」

「そ、その…………」

 言いにくそうに彼は俯き、そして顔を上げた。

 何か一大決心をしたかのような平尾の表情は嶺歌れかにとって不思議でならなかったが、彼が言いたい事を言うまで口を挟むのは止める事にした。

 すると平尾はようやく言いたかったであろう事柄を、その驚きの一言を口にした。

「あれちゃんと関わるの、やめてほしいんだ!!」

「は?」

 思わず嶺歌は怪訝な顔をする。彼は一体何を言っているのだろう。第一形南あれなとの交流をこの男に指図される覚えはない。

 平尾に対する気遣いはしていたつもりの嶺歌も流石に彼の意味不明な願いに頷く事は出来なかった。

「どういう事? ちゃんと説明してよ」

 嶺歌は躊躇う事もせずはっきりと彼に問い掛ける。

 理由もなしにこのような事を口にしたというのなら、申し訳ないが形南には見る目がなさすぎる。嶺歌は理不尽な人間が大嫌いだ。

 だからこそ、平尾には理由を聞かねば気が済まない。

 嶺歌は内心苛立つ自分がいる事を自覚し、それが多少表に出てしまっている事にも気が付いていた。

 形南に申し訳ないと思いつつも自身のプライドが彼の発言を簡単には受け入れられないのだ。

 そんな嶺歌の不穏な空気を感じ取っているであろう平尾は先程よりも逃げたさそうに表情を歪めながら、しかし逃げ出す事はせず再び口を開き始める。


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