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第十三話①『復讐』
しおりを挟む「復讐?」
「うん」
一拍の沈黙の後、形南は頬に手を添えながら言葉を復唱する。嶺歌はすぐに頷いてみせると彼女は小さく笑いながら言葉を返してきた。
「嶺歌、お気持ちは嬉しいですの。ですが気にしないで下さいな。もう一年も前の話ですの」
形南はそう告げて窓の外に目を向ける。そしてそのままの状態で「それに今は楽しいですもの」と言葉を付け加えた。
彼女がこちらに目を向けずそう告げたのはこれ以上この会話はしたくないからかもしれない。だがそれでも、嶺歌の内心は憤りで満たされたままだ。
当時の形南の状況を当事者になった気分で想像してみる。その光景は例え想像だとしても怒りを抑えきれないほどの状況であり、何より親同士の決めたものだからと信じて寄り添ってきた婚約者からの裏切りに、嶺歌は激しい胸糞の悪さを感じていた。
嶺歌でさえこのようにはらわたが煮え繰り返る思いなのだ。実際に形南がどれほどの苦痛を味わってきたのかは、当の本人にしか分からないだろう。
「あれな」
嶺歌は形南に言葉を再び向ける。彼女が何故復讐に同意してくれないのかは、心当たりがある。
だがそれを嶺歌が行う場合は何の問題もない事も理解していた。それゆえに嶺歌は彼女に宣言してみせる。
「悪いけどもう決めた。あたし、あいつらに復讐するから」
「嶺歌……」
「すみません兜悟朗さん。今日はここまでで大丈夫です! 止めてもらえませんか」
「畏まりました」
「嶺歌」
不安げにこちらを見つめる形南に嶺歌は笑みを向ける。とても笑える心境ではなかったので苦い笑みになっているだろう。それでも彼女には笑みを向けて車を降りたかった。
「あれなの立場に迷惑はかけないから安心して! 懲らしめてやるわ」
タイミングよく車が停車し、嶺歌はそれじゃと声を発して素早くリムジンを降りる。
今日だけは兜悟朗からのエスコートも受ける余裕はなかった。それを察知して空気を読んでくれたのか兜悟朗も運転席を降車する様子が見られなかった。
車を迅速に降りた嶺歌は二人に向けて小さく会釈をしてから身体を反転させるとそのまま走って自宅へと戻り始めた。
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