バッド君と私

星分芋

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第三十四話①『知らない一面』

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 十一月も後半を迎えると気温が下がり始め、寒さを感じ始める。みる香はマフラーを身につけ玄関を出るといつも期待しているバッド君の姿はなかった。

(期待しちゃうの良くないな)

 バッド君が毎朝登校時にみる香の家まで来るという約束をしたことは一度もない。来ない日があるのは当然である。

 みる香はそう言い聞かせながら門を出ると突然レインの通知が鳴った。

 バッド君かと期待したが、相手は以前登録した公式ショップからの通知でその画面を見て大きくため息を吐く。

(バッド君の事、日に日に好きになってる気がする……)

 三月まではあと五ヶ月を切った。みる香が彼と共に過ごせるのは残りのその期間だけだろう。

 しかしそれでも、バッド君へ想いを伝えようとは思わなかった。

 みる香にあるのはただ彼と楽しく過ごす事、それだけだ。

 みる香は改めて自分の気持ちを再確認するとそのまま学校へと向かっていった。



「期末近いね~二人はどう?」

 休み時間に檸檬の机に集まったみる香と颯良々はそんな檸檬の一言で現実感が増してきた。前回補習になった事を思い出し、今回こそは補習を逃れようと気持ちを固める。

 すると颯良々は「週末うちで勉強する?」と提案してきた。複数の友達と勉強会。それはとても楽しそうだ。

 みる香はしようと即答すると檸檬も同意し勉強会の約束が決定される。

 最近は当たり前のようになってきていたこの友達との約束も、一年前の自分を思い返せば夢のような話なのだ。

 改めて今の自分の恵まれた状況に感謝をしていると授業を開始する予鈴が鳴り出す。

 各自それぞれの座席へ戻り始めていると同じく席に戻ろうとしているバッド君とぶつかりそうになった。

「わっ」

「ああ、ごめんね。大丈夫?」

「だ、大丈夫。こっちこそごめん」

 すんでのところでぶつからずには済んだものの、一瞬彼に両肩を掴まれ支えられたことにみる香の顔は赤く染まる。

 バッド君はすぐに両肩から手を離してくれたが、みる香の身体の熱は止みそうにない。

 しかしそれに神経を巡らせている暇はなく、すぐに教師が入ってきたため慌ててそのまま各自の席へと戻った。

『さっき掴んだ肩、痛くなかった?』

 するとバッド君からこんなテレパシーが届く。

 みる香はチラリと彼のいる座席を見ると向こうもこちらを見ていたのか目が合った。

 身体の熱に加えて心臓の音は高鳴りだし気持ちがこの上なくときめいているのを感じる。

『大丈夫だよ。気にするまでもない感じだったし』

『そっか、良かった。みる香ちゃんか弱そうだから気になったんだ』

『そ、それはそうだけど……』

 そう送り返し彼をもう一度見る。

 同じくこちらに目線送るバッド君は柔らかく笑いながら小さく手を振ってきた。彼は『じゃあまた後でね』とテレパシーを返してくるとそのまま黒板の方へと目を向け始める。

 そんなバッド君をもう少しだけ、見つめながら授業中も先ほどの事を何度も思い出していた。

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