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第二十九話②『隠す』
しおりを挟む「えっ檸檬ちゃんが!? 珍しい……何の教科?」
「いや~今回の範囲苦手で勉強捗らなかったんだよね、生物だよ」
「私も生物補習だよ!」
「え、ほんと!? 良かった~一人じゃ心細いし」
予想外なことに檸檬と同じ補習になり、みる香は安心感を得た。
友達の補習を喜ぶのはいい事ではないだろうが、二人で一緒に補習に参加できるという状況が嬉しいと思ったのだ。
そしてそんなみる香の心を読んだかのようにバッド君は「良かったね、みる香ちゃん」と声をかけてきた。
みる香は彼の方を振り向くとバッド君はみる香を見つめながら、不意にテレパシーを送ってきた。
『もし君が一人なら、俺も参加しようと思ったけど大丈夫そうだね』
(え?)
そのテレパシーに気持ちが動く。バッド君はまたみる香と共にテストを改ざんして補習に参加しようと思ってくれていたのだろうか。
そう思ってくれたことに喜んでしまうみる香はしかし感情を表に出すまいと表情に力を入れる。
『大丈夫! でもありがとね』
そう返した。みる香はもう一度バッド君の顔に目を向けると彼は優しげな顔でみる香を一見して、口元を緩めていた。
実を言うと本当は、彼にも補習に参加してほしい。
しかしそんなあまりにも身勝手な事は、望んではいけない。思ってくれただけで満足するべきだ。
それに彼のテストを赤点に改ざんすれば、損をするのはバッド君なのだ。そんなのは嫌だった。
補習は無事に終わり、いよいよ十月も終わりが近づいてきた。
そんな時、突然颯良々からこんな提案を持ち出された。
「週末ハロウィンパーティーしない?」
ハロウィンパーティー。その単語に縁がなかったみる香は目を輝かせる。これこそ、友達と過ごす一大イベントというものだ。
まだ友達とパーティーをした事がなかったみる香は前のめりになってすぐさますると返事を返す。
みる香の興奮気味な様子に颯良々は笑いながら隣にいた檸檬に「檸檬も来れる?」と尋ねると彼女も間を置くことなく絶対いくと返事をした。これで三人の参加は確定である。
しかしパーティーというからにはもう少し人数が欲しいところだと颯良々は言う。
その言葉でみる香は再びとある人物を思い浮かべる。実は颯良々にパーティーの話をされた瞬間からバッド君のことを思い浮かべていた。
(バッド君も参加しないかな……)
そんな考えを巡らせていると颯良々はまだ話の続きがあるようで再び言葉を発してきた。
「私の家結構人数入るから、他にもたくさん呼ぼうと思うんだよね。誰か誘いたい人いる?」
颯良々は読心術でも持っているのだろうか。みる香の望んでいた展開になり、すぐさまバッド君の名を上げようと口を開くが、しかしそこで出掛かった言葉をすぐに止めた。
いの一番に彼の名をあげれば彼の事が好きだとバレてしまうかもしれないからだ。
そう思い直しみる香はあくまで冷静を装って「桃ちゃんとか、星蘭子ちゃん莉唯ちゃんとか呼びたいな」と大好きな友達の名前から挙げることにした。
そう言うと颯良々は「うん、そうしよ」と笑みを見せ、「でももっといてもいいかな。他にもいる? うちのクラス以外の子なら誰でもいいよ」と言葉を返した。
うちのクラス以外という意味深な言葉は文化祭の一件があったからこその颯良々なりに配慮した言葉なのだろう。ここまで気を遣ってくれることが、彼女を友達として信じられるところでもあった。
「あ、半藤も呼ぼうか。みると仲良いもんね」
「えっ」
予想外にも颯良々の方からバッド君の名前が挙げられみる香は胸が弾む。途端に嬉しい気持ちで心が満たされるのを感じた。我ながら単純な人間である。
そう思いながらも「そうしようかな」と気持ちを悟られないよう白々しく声を返しているとちょうどバッド君が教室に入ってきた。
彼の姿を目にした颯良々はすぐにバッド君を呼び、ハロウィンパーティーの話を切り出す。
バッド君は「楽しそうだね」と言いながら自分も参加をすると返事をした。
そして颯良々と話が終わるとみる香の方を見てこちらに何気ない話を持ちかけてきた。
話しかけようと思われたことが素直に嬉しい。そんな彼の話を聞きながらみる香は考える。
バッド君の中で自分は一体どれほどの存在なのだろう。彼にとっての友達は何人いて、みる香はその中でどれくらいの位置にいるのだろう。
友達に優劣だなんて非常識ではあるが、バッド君を友達としてでなく、一人の異性として意識するみる香にとっては気になって仕方がなかった。
第二十九話『隠す』終
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