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第十六話②『唐突なお誘い』
しおりを挟む「森村、今度僕と紅茶巡りしない? 実は紅茶マニアの隠れ巡りスポットが近くにあるんだ」
テストまで後二週間となった日の昼休み、紅茶を買いに中庭へ来たみる香はすれ違いざまに同じクラスの久々原善無にそんなお誘いをされる。
みる香は驚くものの、紅茶という単語が悩む時間をなくしていた。
「紅茶……? 行く!!!!」
久々原は修学旅行で同じ班のメンバーの一人だった。バッド君がスカウトしてきたのである。
男嫌いというわけではないが、異性と関わるつもりはなかったみる香でも彼が中性的な男であるせいか、不思議と会話は弾むことがあった。
それは彼も紅茶が好きという共通点があったからでもあった。
しかし修学旅行が終わってからは特に関わる事もなかったため、こうして急に話しかけてきたことには驚いていた。
「良かった。今週はどう? テスト前だから難しいだろうか?」
その言葉でみる香はうーんと頭を唸らせる。
楽しいことは待つより即実行したい主義であるみる香にとって、今週末に行くのが一番望ましかった。
「午前中だけなら行けるかな、それでもいい?」
「うん、構わないよ。有難う。レインも交換していいかい?」
そう言って即座にスマホを取り出した彼に多少気圧されながらもみる香は頷いて互いの連絡先を交換する。
「じゃあまた連絡するよ」
久々原はそのまま廊下の奥へと消えていく。
みる香はあっという間の謎な出来事に不思議な気持ちを抱いていると突然バッド君の声が真後ろから聞こえてきた。
「みる香ちゃん」
「わっ! 何々!? びっくりした!」
みる香はそう言ってバッド君から距離を取ると彼の顔を見る。
珍しく彼の表情は爽やかとはいえない顔をしている。どうかしたのだろうか。
「ねえみる香ちゃん、今デートの約束してたよね」
「ええっ」
バッド君の直球な言葉でみる香は一瞬たじろぐ。しかしこれは決してデートなどではないだろう。
みる香はバッド君の顔をまっすぐ見つめ返すとそのまま言葉を返す。
「デートなわけないじゃん! 久々原君は紅茶が好きだから、それを楽しみに行くだけだよ!」
「いやいや……」
そう反論するも、バッド君の様子はどうやらおかしい。
「男と女が二人で出かけるんだから、それはもうデートだよ。デートなの。わかる? 君が週末に約束したのはデートなんだよ」
「もう~違うって! 好きでもないのにデートだなんて、考えすぎだよ」
そう言って彼に反論するが、バッド君の表情は穏やかではない。
「だけどさ、みる香ちゃんよく考えてみてよ。前に桃田と伊里を加えて俺たちは遊園地に言ったよね? あれはダブルデートだって君もそう認めてたよね? それと今回の違いってあるのかな、人数が違うとはいえあれも好き同士とはとても言えないデートだった筈だけど」
「そっ……それは…」
見事に論破されてしまったみる香はたじろいだ。確かに彼の言っていることは的を得ている。しかし今回のお出掛けは決してデートなどではない。
みる香は反論の言葉を考えているとバッド君は言葉を続けてきた。
「みる香ちゃん、行くのは止めた方がいいと思うな」
「なっ」
そのあまりにも自分勝手すぎる意見にみる香はムッとする。第一、バッド君には一番言われたくない。
「とにかくデートじゃないの!」
みる香はそう言い放つと彼に背を向けその場を立ち去る。バッド君はまだ何か言っているがみる香の知るところではなかった。
* * *
「まさかあいつと仲良くなるなんて……予想外にも程があるよ…久々原なんて選ばなきゃ良かった……」
みる香の小さくなっていく背中に向かってそう嘆くと半藤の背後から声が降りかかる。
「尾行するの? 私も行くわ」
「桃田……キミ、聞いてたの?」
突然現れた同期である桃田にそう声をかけると半藤は言葉を続ける。
「君さあ……ちょっとみる香ちゃん好きすぎじゃない? 仲良くなるのは嬉しいけどさ」
半藤は愚痴をこぼすかのようにそう声を出すと桃田は当然のようにすぐに頷いて肯定する。
「あら、当然でしょ。私みる香ちゃん大好きだもの。何よ、駄目なの?」
そう言って半藤を威圧しながら鋭い視線を向けてくる彼女に半藤は「カレシに言っちゃうよ?」と面白くなさそうな顔をして声を返した。
「馬鹿? これは友愛よ。言いたいなら言えば良いじゃない。彼には私からよく話してるから知ってる筈だけどね」
「……なんだ」
珍しく爽やかな笑みを表に出さない半藤は桃田から視線を外すと複雑な心境のままみる香の事を考える。みる香はデートではないと言い切っていたが、あれは間違いなくデートだ。
思い返せば、久々原はみる香を時折見つめていることがあった。そこまで深く考えたことはなかったが、今回の件を考えればその意味は容易く導き出せる。
(異性の友達はいらないって言ってたのに……)
半藤はみる香がデートに出向くことを面白く思っていなかった。
その理由を考える前に半藤はデートをどうしようか思い悩む。他のことに考えを費やす余裕は今の半藤になかった。
「桃田、尾行しよう」
みる香にバレれば間違いなく蔑みの目を向けられるだろう。だが実行する必要があった。
尾行しなくとも契約者であるみる香の動向はそれとなくわかるのだが半藤は今回の件においては近くで見張ることを選んでいた。何か起きる前に彼女を守るためだ。
「何よ今決断したの? みる香ちゃんには既に嫌われてるんだから、今更びびったって意味ないじゃない」
「……はは、流石に今回バレたら嫌われるかもね」
みる香には絶対にバレないよう行動をする必要がある。半藤は桃田と当日の計画を練ると週末に向けて準備を始めていた。
* * *
第十六話『唐突なお誘い』終
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