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絆の邂逅編
第八話 威風堂々
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はぁ、と荒くなった息を整え、ユーガは額の汗を拭った。メレドル城を見上げて、ユーガは背中に冷たい汗が流れるのを感じた。メレドル城は至る所から黒煙が上がり、壊れているところも何ヵ所も見受けられた。
「・・・くそ、皆が無事だと良いけど・・・たしか、ミナもここにいるって言ってたよな・・・」
まだ心臓が跳ねているが、ゆっくりしている場合でもない。ユーガはふぅ、と息を吐いて走り出そうと脚を踏み出した。ーその時、ユーガは服の首の後ろ部分を掴まれて息が止まりかけた。・・・というより、一瞬止まったが。ひどく咳き込み、なんだ、と後ろを振り返ると、そこにはー。
「・・・お前、少しは考えて行動しろ」
トビが蒼色の眼をユーガに向けていた。トビも走ってきたはずだが、ほとんど息が切れていない。むしろ、余裕さえ感じさせる。
「何も考えずに行動したところで、命を落とすぞ。もうちっと頭を働かせろ」
「・・・けど、ミナやメレドル城の皆が・・・」
「んな事わかってる。今ルインが作戦を練ってっから、その作戦に沿って動く」
トビが踵を返し、行くぞ、とユーガを振り返って言う。ユーガは早く城に入りたい、その思いを何とか抑え、うん、と頷いてトビの後ろを歩いた。しばらく歩くと、ルインが城を見上げて立っていた。そこへ、トビが声をかける。
「ルイン、どうだ?」
「・・・敵の元素を確認したのですが、少なくとも五十人のミヨジネア兵。そして四大幻将の二人がここにいますね・・・裏口はあるようですが、兵が抑えています」
トビはルインの言葉を聞き、腕を組んで顎に手を当てた。
「・・・裏口から入って、兵を倒して進むか?」
「それも一つですが」とルインが指を立てる。「先程、ユーガが正面から突破しようとしました。正面には兵が四人待ち構えていますが・・・囮作戦が良いかもしれません」
「囮作戦?」
ユーガが首を傾げ、ルインを見る。
「ええ。一人が裏口から突入の「フリ」をします。そうすれば、恐らく正面の兵もこちらに気が向くはず。そこを不意打ちで倒し、正面入り口付近で裏口から入った人と合流。最終目的はミヨジネア城の者達、そしてミナの救出」
「・・・それが一番いい案かもな・・・」
とトビが呟く。ユーガは、けど、と頭を掻いた。
「その囮・・・誰がやるんだ?」
そうですね、とルインが少し俯く。
「裏口から入るのが一人、正面から不意打ちをするのが残った二人・・・」
なら、とトビが腕を組む。
「俺とユーガが正面から行く。ルイン、囮頼む」
「え、俺が囮の方が・・・」
ユーガが呟くと、トビとルインに同時に視線を向けられた。
「お前が一人になったら何するかわかんねぇ。だったらルインが魔法やらなんやらで翻弄させて、俺とお前で行った方が確実だろうが」
馬鹿が、と捨て台詞を吐かれ、ユーガは言葉に詰まった。言い返せない自分がいる事を認めざるを得なかった。
「・・・わかった」
「では、作戦決行は十分後。私が先に裏口から攻めます。ユーガ、トビのお二人で正面の兵を突破。そこへ私が合流し、ミヨジネア城の奪還が目的です」
「おう」
「わかった!」
ユーガとトビは同時に答え、正面入り口まで歩いた。うーん、とユーガが腕を組んで唸る。
「・・・ルイン、大丈夫かな?」
すると、トビは呆れたように眼を細め、
「お前よりは安心だ」
と言った。
(まぁ、その通りだけどさ・・・)
ユーガは自嘲するような笑顔を浮かべ、俯く。その瞬間、城の中が突然と騒がしくなった。兵の声があちこちから聞こえる。
「・・・始まったな・・・行くぞ、ユーガ」
「・・・あ、ああ!」
「ルイン!無事だったか!」
正面から入り、完全に兵の不意をついたユーガとトビは兵を気絶させ、ルインと合流を果たす事ができた。
「そちらこそ、ご無事で何よりです」
「話してる場合じゃねぇ。今の騒ぎで兵が集まってくるぞ」
トビの言葉にユーガは、うん、と頷いた。
「急いでミナ達を探そう!」
トビとルインが頷くのを見てートビは少し渋い顔をしていたがー、上に上がる階段をユーガ達は登った。ーと、階段を登った直後、ユーガは異様な気配を感じ取った。反射的に剣を抜き、防御の構えに入る。そこへ、巨大な鎌が振り下ろされ、刃と刃が噛み合って火花を散らした。
「・・・ローム・・・!」
ユーガが刃の向こうに見た顔は、確かに四大幻将の『鬼将のローム』であった。ニヤリと悪魔のような笑みを浮かべ、ロームは鎌をずらす。ユーガ達はその隙を縫って階段を登り切り、各々武器を構える。
「トルーメン以来だな、小僧ども」
大きくはないが迫力のある声で、ロームは言った。トビは銃口をロームに向けて、ちっ、と舌打ちをし、
「できるなら会いたくはなかったけどな」
と呟いた。
「はっ、そう言うな」
「ロームは怪力を誇ります。気をつけて・・・⁉︎」
ルインがそこまで言ったところで、言葉を止めた。ルインの顔の横から雷の矢が飛んできた。それをトビの防御魔法ー名はマジックバリアというーで間一髪で防ぐ。
「気を抜くな。もう一人いる!」
「・・・また、あなた達・・・」
そう言いながら、柱の陰から現れた少女にユーガは眼を見張った。その少女はー。
「『無垢のレイ』⁉︎」
であった。
「・・・四大幻将が二人、ですか・・・」
ルインが唇を噛み締めた。レイとロームは横並びになり、ユーガ達に敵意を向けてきた。
「・・・やるしかないのか・・・」
持っている剣がカタカタと震えるが、ユーガは必死にそれを押さえつけた。一度眼を閉じ、覚悟を決めて眼を開く。
「来るぞ!」
トビのその声と同時に、ロームが鎌を構えて飛びかかってきた。ユーガは体を捻ってそれを躱し、剣を振るう。しかし、レイの魔法によって叶わず、後ろ飛びで下がる。トビが銃をレイに向けて放つが、レイはタン、と踊るようにそれを避け、彼女の固有能力、『無詠唱』で唱えた氷の刃がトビの頬を掠めた。ちっ、と舌打ちをし、トビも魔法の詠唱に入る。
「氷牙よ・・・仇なすものに安らぎを・・・!」
それを阻止するべく、ロームがトビに向かって走った。ユーガとルインがそれに気づき、ルインは手をロームに向かって突き出した。
「風よ貫け!ウィンドランス!」
「ぬぅ!」
ルインの魔法がロームの腕を切り裂き、ロームが顔を顰める。そこへユーガが走り、剣を振るった。そこには、先程ルインが唱えたウィンドランスの名残というべきか、風の元素が残っていたのだ。
「切り裂け、烈風・・・」
ユーガはそれを剣に纏い、腕を押さえていたロームに向かって振った。
「烈牙風塵!」
ユーガが振った剣から無数の真空刃が飛び交い、ロームの体を切り裂く。そこへさらにユーガは剣を振り下ろし、ロームの体を切る。ざく、と肉が切れる感触をユーガは奥歯を噛み締めて耐え、完全に振り下ろしたところでトビの魔法が完成した。
「フォールブリザード!」
トビの魔法がレイを包み込む。煙が立ち上り、ユーガ達は素早く下がって攻撃に備えた。しかし、攻撃は来る事がなかった。煙が消えると、ロームとレイが膝をついて座っていた。かなり深傷を負わせたはずだ、とユーガは息を吐く。
「く・・・」
「負けちゃった。ローム、どうする?」
レイが感情のない声でロームを見る。
「ここは引くのが手だと思う」
「仕方あるまい・・・な」
そう呟くと、ロームとレイは窓に向かって走る。かなり地面から高いはずだ。トビがそれに向けて銃を撃つが、当たらない。そのまま窓を突き破り、レイとロームは脱出した。ユーガ達が慌てて下を見ると、下は水になっていて、微かに波紋が広がる以外には何も見つけられなかった。
「くそ、逃げられた・・・」
ユーガが唇を噛み締める。そこへトビが、おい、と声をかけた。
「・・・俺達の目的はあいつらを倒す事じゃない。先に進むぞ」
「・・・ああ、そうだな」
ユーガは窓辺から手を離し、踵を返して先を歩くトビを追いかけた。ルインは何かを考え込み、顎に手を当てていたがすぐに顔を上げてユーガ達を追いかけた。
「・・・いた!皆さん、無事ですか⁉︎」
ユーガが声を上げて牢屋の一つの中に入ると、倒れている人達に声をかけた。
「う・・・ユーガさん・・・トビさん・・・ルインさんまで・・・」
「・・・怪我が酷い。じっとしてろ。俺が回復してやる」
倒れてゆっくりと顔を上げたミナー服はボロボロで、顔も泥に汚れているーの横で、トビが回復魔法を詠唱し始めた。
「これは・・・中々酷いですね」
ルインが唇を噛み締めて見回した。うん、とユーガも頷き、怪我をしている人に回復のポーションを飲ませる。おい、とトビが回復魔法をかけながらミナを見る。
「この惨状・・・何があった?」
「それが、よくわからなくて・・・いきなり百人近いミヨジネア兵を引き連れて、四大幻将の方々が侵略を・・・」
ミナは体が痛むのか、そこまで言って顔を顰めた。
「ユーガさん・・・四大幻将は・・・」
「ロームとレイは俺達が力を合わせて、退ける事はできた。けど、他の二人はここにいるのか?」
いえ、とミナはゆっくりと首を横に振った。
「他の二人・・・『絶雹のキアル』と『煉獄のフィム』は・・・どこかへ行ってしまったようです・・・」
「では、今のうちに城を取り返しましょう」とルイン。「今、ロームとレイがここにいないのであればミヨジネア兵の主戦力となっている者はここにいないという事ですね」
「ああ。今のうちにミヨジネア兵どもを潰しにかかるぞ」
トビはミナの横から立ち上がり、ユーガとルインを見て言った。ああ、とユーガは頷く。
「ミナ達はここで待機を。私達がミヨジネア兵をなんとかします」
ルインが牢の中にいる全員を見回して言った。全員が頷くのを確認して、ユーガ達は牢を出ようとする。ーと、不意にユーガが足を止めて振り返って、ミナにポーションの小袋を渡した。
「必ず戻ってくるから、それまで怪我が酷い人はこれで回復してやってくれるか?」
頼むよ、とユーガはミナが小袋を握って頷いたのを確認して、立ち上がって牢から出た。
「よし、とにかく城の中のミヨジネア兵を一掃しちまうぞ」
トビが腕を組んでそう言った。ええ、とルインも同意する。そして、ミヨジネア城を取り返すのは大した時間はかからなかった。ロームとレイが主戦力だった、というルインの言葉は本当だったようで、ほとんどが雑兵だった。ふぅ、と息を吐き、ユーガは剣を鞘にしまった。トビも銃を収め、腕を組む。
「よし、皆を牢から出してあげようぜ」
ユーガの言葉に、トビもルインも同意したように頷いた。
「・・・その方。ユーガ殿と言ったか。我等の救出、共にミヨジネア城を取り返してくれた事、感謝している。本当にありがとう」
ミヨジネア王ー、ヘルトゥスはユーガに頭を下げた。ユーガは慌てて、
「い、いえ!どうか頭をお上げ下さい!お・・・私は当然の事をしたまでです!」
と答えた。自分に、ただの元貴族の使用人でしかない自分に頭を下げるなど、勿体なさすぎる。
「いいや。我等を助けていただいた事、驚嘆に値する。トビ殿にルイン殿もだ。本当にありがとう」
ふん、とトビは鼻を鳴らし、ルインは少し顔を赤らめた。トビはいつも通りだな、とユーガは少し苦笑いをした。
「その礼、と言っては何だが・・・貴公らは世界に起こる地震調査を行っている、とこちらのミナから聞いた。そこで、このミナを貴公らの旅に連れて行くと良い。ミナは中々優秀だ。役に立つだろう」
げ、とトビが明らかに嫌そうな顔をしてミナを見た。
「マジかよ・・・こいつ、信用できんのかよ」
「トビ、何でも疑うのはやめましょう。・・・わかりました。では、ミナ殿の力をありがたくお借りいたします」
ルインが膝をついて頭を下げる。ユーガ、トビも同様にートビは少し気怠そうにしていたがーした。
「・・・よろしくお願いします、皆さん」
ミナが恭しく頭を下げる。ヘルトゥスがすぅ、と立ち上がって、よく通る声をユーガ達に向けた。
「今日はこの街に泊まると良い。宿の代もこちらが負担させてもらう。ゆっくり休むと良い」
ありがとうございます、とユーガは頭を下げた。ミヨジネアの兵がヘルトゥスの前に立ち、手に持った槍を斜めに交差させた。
「・・・どうやら、これで謁見は終わりっつー事みたいだな・・・行くぞ」
そう言って、トビは一人さっさと踵を返して歩き出した。三人ーユーガとルインとミナーは顔を見合わせて、少し笑ってトビの後を追った。宿に到着したユーガは一息付き、ぽふ、とベッドに横たわった。
「なぁ、あのロームとレイ・・・死んじまったかな・・・?」
「生きてるだろうな。あれくらいで死ぬようなら、四大幻将の名が廃るぜ」
トビは既に風呂に入り、体から湯気が昇っていた。ええ、とルインも頷く。
「ロームとレイの元素は消えずに残っていましたから・・・恐らく生きているでしょう」
そっか、とユーガは呟いた。彼らは敵で、倒すべき敵なのは分かっているが、命を落としていたら、と少し気になってしまう。それが本音だった。
「明日は」とトビ。「この街で四大幻将の目的、そして元素の不安定の原因を調べるぞ。異様な元素を使われてるのがこの街なら、放っておくわけにもいかねぇ」
わかった、とユーガは頷いた。
(元素が大量に、か・・・何が原因なんだろう・・・)
ユーガは考えを巡らせたが、当然のようにその答えは出なかった。ユーガはしばらくそうしていたが、疲れが溜まっていた事もあってベッドに顔を埋めた瞬間、眠りについていた。そして、ふ、と意識が少し戻り、時計を見る。四時。流石にまだ早いか、ともう一度眠りにつこうとしたその時。ハッとユーガの耳に悲鳴が微かに聞こえ、トビ達を起こさないようにそっと部屋を出て悲鳴が聞こえた方へ向かった。そこは開けた広場で、男性が魔物に襲われていた。ユーガは剣を引き抜いて、魔物に突っ込んだ。
「大丈夫ですか!」
「あ、ああ・・・!」
男性は脚を怪我しているようで、脚から血が流れ出ている。魔物に剣を構え直し、長く息を吐いた。魔物は口から涎を垂らし、威嚇をしている。
「・・・瞬烈火!」
ユーガの剣が火を纏い、魔物を襲う。しかし、それをふわっと魔物は躱す。ーが、ユーガはそれも理解していた。さらにそこから、技を派生させる。
「・・・烈牙墜斬っ!」
既に飛んでいた魔物は、それを躱す事ができず悲鳴を上げて吹き飛んだ。ふぅ、と一息吐こうとしたその時。ユーガの周囲から先程の魔物がー八体はいるー現れた。
(まさか、群れだったのか・・・⁉︎)
ユーガは唇を噛み、少しずつ後ろへ下がるが、後ろから飛び掛かってきた魔物を避けれずに腕を噛みつかれる。
「・・・っ!」
何とかそれを弾き飛ばすが、脚、手と至る所を噛まれる。やられるー、そう思ったその時。
「大地のざわめき・・・汝に罰を与えよ・・・」
「踊れ、駆け抜ける疾風よ・・・」
聞き覚えのある声が聞こえ、ユーガは顔を上げる。
「・・・ロックヒューム!」
「・・・ウィンドダンス!」
「・・・トビ・・・ルイン・・・!」
すると、痛んでいた傷がほわ、と光と共に塞がるのを感じた。トビがユーガに回復魔法をかけていた。
「馬鹿が・・・だから考えて行動しろって言ったろ」
トビが苛立ちを隠そうともせず、乱暴な口調でユーガに視線を向けた。ちっ、と舌打ちをし、銃を何発か放つ。ルインも魔法を詠唱し、ミナは手に持ったナイフで次々と魔物を斬り、あっという間に次々と魔物は倒れていった。はぁ、と息を吐いて、ユーガは剣を収めた。おい、と声がして、振り向くとトビがユーガを切れ長な眼で睨んでいた。
「お前、本当に命を落としたいのか?」
不意にそんな事を言われてユーガは、え、とトビを見た。
「そんな事は・・・」
「ちっとは頭を使えって言っただろうが。馬鹿が」
トビはつ、と顔を逸らし、踵を返した。ぽん、と肩に手を置かれ、横を見ると隣にルインがいて肩に手を置いていた。
「ユーガ。トビはあれでもかなりあなたのことを心配していたんですよ」
「そうなのか?」
「ええ。『後先考えずに行動する大馬鹿野郎』と言ってましたよ」
それは心配してくれてるのかな、とユーガは苦笑いをしたが、ルインが言うのだ。本当の事なのだろう。
「ユーガ、あなたの一人で突っ込もうとするそれはあなたの良いところでもあり、悪いところでもある。もっと仲間を頼っても良いのではないでしょうか」
ふっ、と穏やかな顔をユーガに向け、ルインも踵を返す。それに伴い、ミナも。
(仲間を信じる、か・・・)
ユーガは自嘲するような笑みを浮かべて、少し俯いた。
「・・・その通りだよな、ホントにさ・・・」
「元素を大量に使用している、か・・・」
翌日、朝食を取り終えたユーガはそう呟き、トビ達を見回した。
「もしかして、元素機械とかが原因だったりするのかな・・・」
たしかに、とルインが飲んでいたアップルティーの入ったコップを机に置いて答える。
「この街の元素は異様な流れを感じます。恐らく、ユーガの言う通り元素機械が原因かもしれませんね」
それを聞いて、トビが腕を組んで脚を交差させ、ルインを見た。
「ルイン。お前の固有能力でその元素が異常に消費されてる場所は特定できねぇのか?」
「え?まぁ、ある程度ならできない事はありませんが・・・」
「じゃあ、さっさとそれを特定するぞ」
そう言って、トビはすっくと椅子から立ち上がった。
「うん、そうしよう」
ユーガも頷いて、椅子から立ち上がる。トビに睨まれている気がしたが、顔をトビに向けると腕を組んでそっぽを向いていた。ただの気のせいだったのかもしれないし、それをトビに聞くのも変な気がする。ユーガ達はそれぞれ準備をし、ルインの固有能力、『元素感知』で異常な元素の流れを感知して、辿り着いたのは一つの家だった。それは何の変哲もない古びた民家で、人の気配はなかった。
「・・・ルイン、ホントにここなのか?」
「ええ・・・しかし、本当にこんなところに・・・?」
とにかく入りましょう、とミナが全員に言い、ユーガ達は頷く。トビは小さく舌打ちをしたが。中に入ると、むわ、と埃が舞い、ユーガはくしゃみを何度もした。トビも顔を顰めて腕で鼻と口を押さえている。なぁ、とユーガは鼻声で全員を見回した。
「・・・ここじゃないんじゃないか?埃がこんなにあるんだし・・・」
「・・・いや、あるな」
トビがユーガの言葉を遮ってそう呟く。ユーガは何でだ?とトビに視線を向けた。
「・・・ここに靴の跡がある。ここ最近のものだ」
トビが指を差したところには、確かに靴跡がある。
「なるほど・・・となれば・・・」
ミナがそう呟き、部屋を壁沿いに歩く。しばらく歩いているミナを見ていると、あ、と声を上げた。
「どうしたんだ?」
「ここに・・・」
ミナが触れている壁には、何やら取手のような物が付いていた。
「なるほど、隠し扉か」
トビが納得したように頷き、その取手を迷いなく開いた。びゅ、と風がトビの髪を揺らす。
「この中に、元素を大量消費する原因があるのかな・・・」
ユーガがそう呟くと、ルインが行きましょう、と言って扉の中へ慎重に進んだ。ユーガ達もルインの後ろをゆっくりと歩いた。そこは人が三人ほどは通れそうな通路だった。そこには魔物もいたが、さほど苦戦をせず倒す事ができた。さらに奥へ歩くと、突然開けた部屋へと出る。ユーガは、うわ、と声をあげ、機械の作動音のような音が聞こえて自分の背後を見上げて、息を呑んだ。ルインも気付き、声を上げる。
「これはー・・・!」
「何だ?これ・・・」
ユーガは見覚えのない「それ」を前に、呆然と立ち尽くした。
「・・・ここまで巨大な物だったとはな・・・」
トビは珍しく動揺を見せ、腕を組む。そこに、威風堂々と聳えていたのはー。
「巨大な・・・元素機械・・・⁉︎」
「・・・くそ、皆が無事だと良いけど・・・たしか、ミナもここにいるって言ってたよな・・・」
まだ心臓が跳ねているが、ゆっくりしている場合でもない。ユーガはふぅ、と息を吐いて走り出そうと脚を踏み出した。ーその時、ユーガは服の首の後ろ部分を掴まれて息が止まりかけた。・・・というより、一瞬止まったが。ひどく咳き込み、なんだ、と後ろを振り返ると、そこにはー。
「・・・お前、少しは考えて行動しろ」
トビが蒼色の眼をユーガに向けていた。トビも走ってきたはずだが、ほとんど息が切れていない。むしろ、余裕さえ感じさせる。
「何も考えずに行動したところで、命を落とすぞ。もうちっと頭を働かせろ」
「・・・けど、ミナやメレドル城の皆が・・・」
「んな事わかってる。今ルインが作戦を練ってっから、その作戦に沿って動く」
トビが踵を返し、行くぞ、とユーガを振り返って言う。ユーガは早く城に入りたい、その思いを何とか抑え、うん、と頷いてトビの後ろを歩いた。しばらく歩くと、ルインが城を見上げて立っていた。そこへ、トビが声をかける。
「ルイン、どうだ?」
「・・・敵の元素を確認したのですが、少なくとも五十人のミヨジネア兵。そして四大幻将の二人がここにいますね・・・裏口はあるようですが、兵が抑えています」
トビはルインの言葉を聞き、腕を組んで顎に手を当てた。
「・・・裏口から入って、兵を倒して進むか?」
「それも一つですが」とルインが指を立てる。「先程、ユーガが正面から突破しようとしました。正面には兵が四人待ち構えていますが・・・囮作戦が良いかもしれません」
「囮作戦?」
ユーガが首を傾げ、ルインを見る。
「ええ。一人が裏口から突入の「フリ」をします。そうすれば、恐らく正面の兵もこちらに気が向くはず。そこを不意打ちで倒し、正面入り口付近で裏口から入った人と合流。最終目的はミヨジネア城の者達、そしてミナの救出」
「・・・それが一番いい案かもな・・・」
とトビが呟く。ユーガは、けど、と頭を掻いた。
「その囮・・・誰がやるんだ?」
そうですね、とルインが少し俯く。
「裏口から入るのが一人、正面から不意打ちをするのが残った二人・・・」
なら、とトビが腕を組む。
「俺とユーガが正面から行く。ルイン、囮頼む」
「え、俺が囮の方が・・・」
ユーガが呟くと、トビとルインに同時に視線を向けられた。
「お前が一人になったら何するかわかんねぇ。だったらルインが魔法やらなんやらで翻弄させて、俺とお前で行った方が確実だろうが」
馬鹿が、と捨て台詞を吐かれ、ユーガは言葉に詰まった。言い返せない自分がいる事を認めざるを得なかった。
「・・・わかった」
「では、作戦決行は十分後。私が先に裏口から攻めます。ユーガ、トビのお二人で正面の兵を突破。そこへ私が合流し、ミヨジネア城の奪還が目的です」
「おう」
「わかった!」
ユーガとトビは同時に答え、正面入り口まで歩いた。うーん、とユーガが腕を組んで唸る。
「・・・ルイン、大丈夫かな?」
すると、トビは呆れたように眼を細め、
「お前よりは安心だ」
と言った。
(まぁ、その通りだけどさ・・・)
ユーガは自嘲するような笑顔を浮かべ、俯く。その瞬間、城の中が突然と騒がしくなった。兵の声があちこちから聞こえる。
「・・・始まったな・・・行くぞ、ユーガ」
「・・・あ、ああ!」
「ルイン!無事だったか!」
正面から入り、完全に兵の不意をついたユーガとトビは兵を気絶させ、ルインと合流を果たす事ができた。
「そちらこそ、ご無事で何よりです」
「話してる場合じゃねぇ。今の騒ぎで兵が集まってくるぞ」
トビの言葉にユーガは、うん、と頷いた。
「急いでミナ達を探そう!」
トビとルインが頷くのを見てートビは少し渋い顔をしていたがー、上に上がる階段をユーガ達は登った。ーと、階段を登った直後、ユーガは異様な気配を感じ取った。反射的に剣を抜き、防御の構えに入る。そこへ、巨大な鎌が振り下ろされ、刃と刃が噛み合って火花を散らした。
「・・・ローム・・・!」
ユーガが刃の向こうに見た顔は、確かに四大幻将の『鬼将のローム』であった。ニヤリと悪魔のような笑みを浮かべ、ロームは鎌をずらす。ユーガ達はその隙を縫って階段を登り切り、各々武器を構える。
「トルーメン以来だな、小僧ども」
大きくはないが迫力のある声で、ロームは言った。トビは銃口をロームに向けて、ちっ、と舌打ちをし、
「できるなら会いたくはなかったけどな」
と呟いた。
「はっ、そう言うな」
「ロームは怪力を誇ります。気をつけて・・・⁉︎」
ルインがそこまで言ったところで、言葉を止めた。ルインの顔の横から雷の矢が飛んできた。それをトビの防御魔法ー名はマジックバリアというーで間一髪で防ぐ。
「気を抜くな。もう一人いる!」
「・・・また、あなた達・・・」
そう言いながら、柱の陰から現れた少女にユーガは眼を見張った。その少女はー。
「『無垢のレイ』⁉︎」
であった。
「・・・四大幻将が二人、ですか・・・」
ルインが唇を噛み締めた。レイとロームは横並びになり、ユーガ達に敵意を向けてきた。
「・・・やるしかないのか・・・」
持っている剣がカタカタと震えるが、ユーガは必死にそれを押さえつけた。一度眼を閉じ、覚悟を決めて眼を開く。
「来るぞ!」
トビのその声と同時に、ロームが鎌を構えて飛びかかってきた。ユーガは体を捻ってそれを躱し、剣を振るう。しかし、レイの魔法によって叶わず、後ろ飛びで下がる。トビが銃をレイに向けて放つが、レイはタン、と踊るようにそれを避け、彼女の固有能力、『無詠唱』で唱えた氷の刃がトビの頬を掠めた。ちっ、と舌打ちをし、トビも魔法の詠唱に入る。
「氷牙よ・・・仇なすものに安らぎを・・・!」
それを阻止するべく、ロームがトビに向かって走った。ユーガとルインがそれに気づき、ルインは手をロームに向かって突き出した。
「風よ貫け!ウィンドランス!」
「ぬぅ!」
ルインの魔法がロームの腕を切り裂き、ロームが顔を顰める。そこへユーガが走り、剣を振るった。そこには、先程ルインが唱えたウィンドランスの名残というべきか、風の元素が残っていたのだ。
「切り裂け、烈風・・・」
ユーガはそれを剣に纏い、腕を押さえていたロームに向かって振った。
「烈牙風塵!」
ユーガが振った剣から無数の真空刃が飛び交い、ロームの体を切り裂く。そこへさらにユーガは剣を振り下ろし、ロームの体を切る。ざく、と肉が切れる感触をユーガは奥歯を噛み締めて耐え、完全に振り下ろしたところでトビの魔法が完成した。
「フォールブリザード!」
トビの魔法がレイを包み込む。煙が立ち上り、ユーガ達は素早く下がって攻撃に備えた。しかし、攻撃は来る事がなかった。煙が消えると、ロームとレイが膝をついて座っていた。かなり深傷を負わせたはずだ、とユーガは息を吐く。
「く・・・」
「負けちゃった。ローム、どうする?」
レイが感情のない声でロームを見る。
「ここは引くのが手だと思う」
「仕方あるまい・・・な」
そう呟くと、ロームとレイは窓に向かって走る。かなり地面から高いはずだ。トビがそれに向けて銃を撃つが、当たらない。そのまま窓を突き破り、レイとロームは脱出した。ユーガ達が慌てて下を見ると、下は水になっていて、微かに波紋が広がる以外には何も見つけられなかった。
「くそ、逃げられた・・・」
ユーガが唇を噛み締める。そこへトビが、おい、と声をかけた。
「・・・俺達の目的はあいつらを倒す事じゃない。先に進むぞ」
「・・・ああ、そうだな」
ユーガは窓辺から手を離し、踵を返して先を歩くトビを追いかけた。ルインは何かを考え込み、顎に手を当てていたがすぐに顔を上げてユーガ達を追いかけた。
「・・・いた!皆さん、無事ですか⁉︎」
ユーガが声を上げて牢屋の一つの中に入ると、倒れている人達に声をかけた。
「う・・・ユーガさん・・・トビさん・・・ルインさんまで・・・」
「・・・怪我が酷い。じっとしてろ。俺が回復してやる」
倒れてゆっくりと顔を上げたミナー服はボロボロで、顔も泥に汚れているーの横で、トビが回復魔法を詠唱し始めた。
「これは・・・中々酷いですね」
ルインが唇を噛み締めて見回した。うん、とユーガも頷き、怪我をしている人に回復のポーションを飲ませる。おい、とトビが回復魔法をかけながらミナを見る。
「この惨状・・・何があった?」
「それが、よくわからなくて・・・いきなり百人近いミヨジネア兵を引き連れて、四大幻将の方々が侵略を・・・」
ミナは体が痛むのか、そこまで言って顔を顰めた。
「ユーガさん・・・四大幻将は・・・」
「ロームとレイは俺達が力を合わせて、退ける事はできた。けど、他の二人はここにいるのか?」
いえ、とミナはゆっくりと首を横に振った。
「他の二人・・・『絶雹のキアル』と『煉獄のフィム』は・・・どこかへ行ってしまったようです・・・」
「では、今のうちに城を取り返しましょう」とルイン。「今、ロームとレイがここにいないのであればミヨジネア兵の主戦力となっている者はここにいないという事ですね」
「ああ。今のうちにミヨジネア兵どもを潰しにかかるぞ」
トビはミナの横から立ち上がり、ユーガとルインを見て言った。ああ、とユーガは頷く。
「ミナ達はここで待機を。私達がミヨジネア兵をなんとかします」
ルインが牢の中にいる全員を見回して言った。全員が頷くのを確認して、ユーガ達は牢を出ようとする。ーと、不意にユーガが足を止めて振り返って、ミナにポーションの小袋を渡した。
「必ず戻ってくるから、それまで怪我が酷い人はこれで回復してやってくれるか?」
頼むよ、とユーガはミナが小袋を握って頷いたのを確認して、立ち上がって牢から出た。
「よし、とにかく城の中のミヨジネア兵を一掃しちまうぞ」
トビが腕を組んでそう言った。ええ、とルインも同意する。そして、ミヨジネア城を取り返すのは大した時間はかからなかった。ロームとレイが主戦力だった、というルインの言葉は本当だったようで、ほとんどが雑兵だった。ふぅ、と息を吐き、ユーガは剣を鞘にしまった。トビも銃を収め、腕を組む。
「よし、皆を牢から出してあげようぜ」
ユーガの言葉に、トビもルインも同意したように頷いた。
「・・・その方。ユーガ殿と言ったか。我等の救出、共にミヨジネア城を取り返してくれた事、感謝している。本当にありがとう」
ミヨジネア王ー、ヘルトゥスはユーガに頭を下げた。ユーガは慌てて、
「い、いえ!どうか頭をお上げ下さい!お・・・私は当然の事をしたまでです!」
と答えた。自分に、ただの元貴族の使用人でしかない自分に頭を下げるなど、勿体なさすぎる。
「いいや。我等を助けていただいた事、驚嘆に値する。トビ殿にルイン殿もだ。本当にありがとう」
ふん、とトビは鼻を鳴らし、ルインは少し顔を赤らめた。トビはいつも通りだな、とユーガは少し苦笑いをした。
「その礼、と言っては何だが・・・貴公らは世界に起こる地震調査を行っている、とこちらのミナから聞いた。そこで、このミナを貴公らの旅に連れて行くと良い。ミナは中々優秀だ。役に立つだろう」
げ、とトビが明らかに嫌そうな顔をしてミナを見た。
「マジかよ・・・こいつ、信用できんのかよ」
「トビ、何でも疑うのはやめましょう。・・・わかりました。では、ミナ殿の力をありがたくお借りいたします」
ルインが膝をついて頭を下げる。ユーガ、トビも同様にートビは少し気怠そうにしていたがーした。
「・・・よろしくお願いします、皆さん」
ミナが恭しく頭を下げる。ヘルトゥスがすぅ、と立ち上がって、よく通る声をユーガ達に向けた。
「今日はこの街に泊まると良い。宿の代もこちらが負担させてもらう。ゆっくり休むと良い」
ありがとうございます、とユーガは頭を下げた。ミヨジネアの兵がヘルトゥスの前に立ち、手に持った槍を斜めに交差させた。
「・・・どうやら、これで謁見は終わりっつー事みたいだな・・・行くぞ」
そう言って、トビは一人さっさと踵を返して歩き出した。三人ーユーガとルインとミナーは顔を見合わせて、少し笑ってトビの後を追った。宿に到着したユーガは一息付き、ぽふ、とベッドに横たわった。
「なぁ、あのロームとレイ・・・死んじまったかな・・・?」
「生きてるだろうな。あれくらいで死ぬようなら、四大幻将の名が廃るぜ」
トビは既に風呂に入り、体から湯気が昇っていた。ええ、とルインも頷く。
「ロームとレイの元素は消えずに残っていましたから・・・恐らく生きているでしょう」
そっか、とユーガは呟いた。彼らは敵で、倒すべき敵なのは分かっているが、命を落としていたら、と少し気になってしまう。それが本音だった。
「明日は」とトビ。「この街で四大幻将の目的、そして元素の不安定の原因を調べるぞ。異様な元素を使われてるのがこの街なら、放っておくわけにもいかねぇ」
わかった、とユーガは頷いた。
(元素が大量に、か・・・何が原因なんだろう・・・)
ユーガは考えを巡らせたが、当然のようにその答えは出なかった。ユーガはしばらくそうしていたが、疲れが溜まっていた事もあってベッドに顔を埋めた瞬間、眠りについていた。そして、ふ、と意識が少し戻り、時計を見る。四時。流石にまだ早いか、ともう一度眠りにつこうとしたその時。ハッとユーガの耳に悲鳴が微かに聞こえ、トビ達を起こさないようにそっと部屋を出て悲鳴が聞こえた方へ向かった。そこは開けた広場で、男性が魔物に襲われていた。ユーガは剣を引き抜いて、魔物に突っ込んだ。
「大丈夫ですか!」
「あ、ああ・・・!」
男性は脚を怪我しているようで、脚から血が流れ出ている。魔物に剣を構え直し、長く息を吐いた。魔物は口から涎を垂らし、威嚇をしている。
「・・・瞬烈火!」
ユーガの剣が火を纏い、魔物を襲う。しかし、それをふわっと魔物は躱す。ーが、ユーガはそれも理解していた。さらにそこから、技を派生させる。
「・・・烈牙墜斬っ!」
既に飛んでいた魔物は、それを躱す事ができず悲鳴を上げて吹き飛んだ。ふぅ、と一息吐こうとしたその時。ユーガの周囲から先程の魔物がー八体はいるー現れた。
(まさか、群れだったのか・・・⁉︎)
ユーガは唇を噛み、少しずつ後ろへ下がるが、後ろから飛び掛かってきた魔物を避けれずに腕を噛みつかれる。
「・・・っ!」
何とかそれを弾き飛ばすが、脚、手と至る所を噛まれる。やられるー、そう思ったその時。
「大地のざわめき・・・汝に罰を与えよ・・・」
「踊れ、駆け抜ける疾風よ・・・」
聞き覚えのある声が聞こえ、ユーガは顔を上げる。
「・・・ロックヒューム!」
「・・・ウィンドダンス!」
「・・・トビ・・・ルイン・・・!」
すると、痛んでいた傷がほわ、と光と共に塞がるのを感じた。トビがユーガに回復魔法をかけていた。
「馬鹿が・・・だから考えて行動しろって言ったろ」
トビが苛立ちを隠そうともせず、乱暴な口調でユーガに視線を向けた。ちっ、と舌打ちをし、銃を何発か放つ。ルインも魔法を詠唱し、ミナは手に持ったナイフで次々と魔物を斬り、あっという間に次々と魔物は倒れていった。はぁ、と息を吐いて、ユーガは剣を収めた。おい、と声がして、振り向くとトビがユーガを切れ長な眼で睨んでいた。
「お前、本当に命を落としたいのか?」
不意にそんな事を言われてユーガは、え、とトビを見た。
「そんな事は・・・」
「ちっとは頭を使えって言っただろうが。馬鹿が」
トビはつ、と顔を逸らし、踵を返した。ぽん、と肩に手を置かれ、横を見ると隣にルインがいて肩に手を置いていた。
「ユーガ。トビはあれでもかなりあなたのことを心配していたんですよ」
「そうなのか?」
「ええ。『後先考えずに行動する大馬鹿野郎』と言ってましたよ」
それは心配してくれてるのかな、とユーガは苦笑いをしたが、ルインが言うのだ。本当の事なのだろう。
「ユーガ、あなたの一人で突っ込もうとするそれはあなたの良いところでもあり、悪いところでもある。もっと仲間を頼っても良いのではないでしょうか」
ふっ、と穏やかな顔をユーガに向け、ルインも踵を返す。それに伴い、ミナも。
(仲間を信じる、か・・・)
ユーガは自嘲するような笑みを浮かべて、少し俯いた。
「・・・その通りだよな、ホントにさ・・・」
「元素を大量に使用している、か・・・」
翌日、朝食を取り終えたユーガはそう呟き、トビ達を見回した。
「もしかして、元素機械とかが原因だったりするのかな・・・」
たしかに、とルインが飲んでいたアップルティーの入ったコップを机に置いて答える。
「この街の元素は異様な流れを感じます。恐らく、ユーガの言う通り元素機械が原因かもしれませんね」
それを聞いて、トビが腕を組んで脚を交差させ、ルインを見た。
「ルイン。お前の固有能力でその元素が異常に消費されてる場所は特定できねぇのか?」
「え?まぁ、ある程度ならできない事はありませんが・・・」
「じゃあ、さっさとそれを特定するぞ」
そう言って、トビはすっくと椅子から立ち上がった。
「うん、そうしよう」
ユーガも頷いて、椅子から立ち上がる。トビに睨まれている気がしたが、顔をトビに向けると腕を組んでそっぽを向いていた。ただの気のせいだったのかもしれないし、それをトビに聞くのも変な気がする。ユーガ達はそれぞれ準備をし、ルインの固有能力、『元素感知』で異常な元素の流れを感知して、辿り着いたのは一つの家だった。それは何の変哲もない古びた民家で、人の気配はなかった。
「・・・ルイン、ホントにここなのか?」
「ええ・・・しかし、本当にこんなところに・・・?」
とにかく入りましょう、とミナが全員に言い、ユーガ達は頷く。トビは小さく舌打ちをしたが。中に入ると、むわ、と埃が舞い、ユーガはくしゃみを何度もした。トビも顔を顰めて腕で鼻と口を押さえている。なぁ、とユーガは鼻声で全員を見回した。
「・・・ここじゃないんじゃないか?埃がこんなにあるんだし・・・」
「・・・いや、あるな」
トビがユーガの言葉を遮ってそう呟く。ユーガは何でだ?とトビに視線を向けた。
「・・・ここに靴の跡がある。ここ最近のものだ」
トビが指を差したところには、確かに靴跡がある。
「なるほど・・・となれば・・・」
ミナがそう呟き、部屋を壁沿いに歩く。しばらく歩いているミナを見ていると、あ、と声を上げた。
「どうしたんだ?」
「ここに・・・」
ミナが触れている壁には、何やら取手のような物が付いていた。
「なるほど、隠し扉か」
トビが納得したように頷き、その取手を迷いなく開いた。びゅ、と風がトビの髪を揺らす。
「この中に、元素を大量消費する原因があるのかな・・・」
ユーガがそう呟くと、ルインが行きましょう、と言って扉の中へ慎重に進んだ。ユーガ達もルインの後ろをゆっくりと歩いた。そこは人が三人ほどは通れそうな通路だった。そこには魔物もいたが、さほど苦戦をせず倒す事ができた。さらに奥へ歩くと、突然開けた部屋へと出る。ユーガは、うわ、と声をあげ、機械の作動音のような音が聞こえて自分の背後を見上げて、息を呑んだ。ルインも気付き、声を上げる。
「これはー・・・!」
「何だ?これ・・・」
ユーガは見覚えのない「それ」を前に、呆然と立ち尽くした。
「・・・ここまで巨大な物だったとはな・・・」
トビは珍しく動揺を見せ、腕を組む。そこに、威風堂々と聳えていたのはー。
「巨大な・・・元素機械・・・⁉︎」
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