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最終章

第313話 里帰り

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 冒険者ギルドでパーティの登録を済ませた後、一度解散──というかアドレアとマリーの二人は久しぶりに戻ってきたのだから、早いうちに実家や孤児院に顔を出しておいた方がいいという話になった。

 今日宿屋に泊まるかそれとも家に泊まってくるか、アドレアはまだ決められないらしいが、いつも宿屋はガラガラなので素泊まりならたとえ夜になってからでもできる。

 エミル、ジャン、俺の三人はギルドのテーブルに座ってカードゲームで遊ぶことにした。遠出するならと思って、持ってきておいたのだ。

「おっ、揃った! これで一抜け……っと。あ、コルネ──そういえば前にマンドラゴラ倒したって言ってたよね? 食べたの?」

 俺のカードを引いて揃ったらしいエミルが一番に上がる。そこで思い出したようにマンドラゴラを食べたのか訊いてくる。そういやラムハで会ったときにマンドラゴラの話もしたな。

「いや、あれ粉に挽いて薬にするやつじゃん」
「だいたいはそうだけど、料理に使うこともあるってどこかで聞いたよ」
「あの高級品を!? あれ美味しいのかな……」
「どうなんだろう──僕も食べたことないし」

 益体のない話をしながらこうやってパーティメンバーとの遊びに興じるのは、冒険者の醍醐味の一つだ。普段師匠たちとやるのも楽しいけど、たまには他の面子とやるのもまたいい。

この後あたりが暗くなり始めてきたらギルドの外で魔法剣を見せる約束もしているし、楽しい冒険者生活になりそうだ。

 * * *

 思えば、アクスウィルに入学してからミャクーに戻ってくるのは初めてで。ボクが何年も過ごした孤児院だというのに妙な行きづらさを感じる。

 コルネは孤児院はあの頃と変わっていないと言っていたが、コルネと違って冒険者になってからほとんど顔を出していないボクのことを覚えている子は、きっともういないだろう。もし知っているとしたら、独り歩きしている名前とSランク冒険者という肩書きだけ。

 足を進めていくと、懐かしい建物が見えてくる。今はちょうど外で遊ぶ時間で子どもたちの元気な声が聞こえる。

 彼らに近づくボクに一人の女の子が気付いて、キラキラした目でボクを見上げながら訊ねる。

「もしかして、アドレアお姉ちゃん?」
「……! そうだよ」
「やっぱり! コルネお兄ちゃんが言ってたから。すっごい魔法が使えるんでしょ?」

 いきなり自分の名前が少女の口から飛び出して驚いたが、コルネから事前にボクがここに来ると聞いていたようだ。「Sランク冒険者のアドレア」として出迎えられなくて少しホッとした。

「アドレア、久しぶりねぇ。元気にしてたかい?」

 少女と話していたのを見てシスターがこちらに呼びかける。シスターもほんの少し老けた気がするが、ボクがいた頃とほとんど変わっていない。

「はい。シスターも変わらず元気そうで何より──です」
「あなたが来ると聞いて、子どもたちも私も楽しみにしてたのよ。今夜はたくさん魔法を見せてくれるかしら?」
「もちろんです! 今夜──ということは今日はここに泊まれるということですか?」
「ここはアドレアの家でしょう。家に泊まれないわけがないじゃない」

 微笑みながら答えるシスターは記憶にある表情そのままだった。新しい肩書きを得ても、ここに何年も来ていなくても、昔と同じようにボクを出迎えてくれたことがとても嬉しかった。
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