上 下
288 / 328
最終章

第279話 謎の少女

しおりを挟む
 どうやってかは分からないが巨大なケルベロスを出した女の子を捕まえると、街の人が後ろ手に縛り上げる。見れば戦意を喪失しているようで、ボクと目が合うとガタガタと震えだす。

 ケルベロスの巨躯を一瞬で骨だけに変えてしまう魔法、「ゲヘナ」。ボクがサラさんから教えてもらった魔法──そして現存する炎系統の魔法の中ではおそらく最も威力の高い魔法。

 まだ形になっただけでサラさんのように使いこなせてはいないが、それでも他に比べれば威力は桁違いだ。初めて見たら驚くのも無理はない。

 サラさんには人前では使わないように言われていたが、今回ばかりは仕方ないだろう。ゲヘナじゃなかったらきっと被害が出ていた。

 縛ったのはいいがどうしたものかと街の人と話しているとサラさんがやってくる。

 事情を説明するとサラさんがテキパキとそこにいた人や一緒にきた道場のみんなに指示を出していき、あっという間にさきほどの子はどこかに連れていかれた。

「いいかい? みんなアドレアの使った魔法については他言無用だよ。魔法の情報は魔法使いの命だからね、ケルベロスを倒した彼女に感謝の気持ちが少しでもあるなら守ってほしいさね」

 最後に街の人々にサラさんはそう言って釘を刺していた。

 ボクは何事もなかったかのようにその後道場でサラさんとゲヘナの練習をして、魔法学校へと戻った。



 ボクがケルベロスを倒した次の日、学校は噂で持ち切りだった。

「昨日Sランク冒険者のいる三つの街に巨大なモンスターがいきなり出たんだって」
「聞いた聞いた。特にラムハではあのオーガが巨大化したのが出たんだってな。しかも倒したのはあのコルネ! Aランク昇格といい大活躍だよな」
「えっ、そうなの!? なんだかもう遠い人みたいだね……今年も来てくれるのかな」

 ボクは聞こえてきた会話に驚く。それぞれの街でモンスターが出たのは知っていたが、倒したのがコルネだったとは。コルネは大活躍だなあ──今回はボクもちょっとだけ負けてないけど。

 水筒の蓋を開け、気にしていない素振りを見せながら隣で行われている会話に耳を立てる。

「そっちもすごいけど、やっぱり今回一番の目玉は謎の少女! サラ様のところに出た巨大ケルベロスを一瞬で葬ったんだって、それもたった一人で!」

 それを聞いた途端、ボクは飲んでいた水で咽てしまう。知らないところでボクのことがすごい噂になっている。謎の少女って……!

 ゲホゲホと咳き込んでいると、話していた二人が心配してくれる。

「アドレア、大丈夫? あ、そういえばアドレアは前にサラ様の道場行ったことあるよね。謎の少女って、きっとあそこの道場の誰かだろうけど──もしかして誰だか目星がついてたりして?」
「いや、全然。女子はたくさんいたし、みんな強かったからさ」
「たしかに……それもそっか。あそこに入れるってことは強力な魔法を使えて当然よね」

 うまく誤魔化せたようだ。それにしても謎の少女って……ちょっとかっこいいかも。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが

Rohdea
恋愛
結婚式の当日、花婿となる人は式には来ませんでした─── 伯爵家の次女のセアラは、結婚式を控えて幸せな気持ちで過ごしていた。 しかし結婚式当日、夫になるはずの婚約者マイルズは式には現れず、 さらに同時にセアラの二歳年上の姉、シビルも行方知れずに。 どうやら、二人は駆け落ちをしたらしい。 そんな婚約者と姉の二人に裏切られ惨めに捨てられたセアラの前に現れたのは、 シビルの婚約者で、冷酷だの薄情だのと聞かされていた侯爵令息ジョエル。 身勝手に消えた姉の代わりとして、 セアラはジョエルと新たに婚約を結ぶことになってしまう。 そして一方、駆け落ちしたというマイルズとシビル。 二人の思惑は───……

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

騎士さま、むっつりユニコーンに襲われる

雲丹はち
BL
ユニコーンの角を採取しにいったらゴブリンに襲われかけ、むっつりすけべなユニコーンに処女を奪われてしまう騎士団長のお話。

婚約破棄された公爵令嬢は、真実の愛を証明したい

香月文香
恋愛
「リリィ、僕は真実の愛を見つけたんだ!」 王太子エリックの婚約者であるリリアーナ・ミュラーは、舞踏会で婚約破棄される。エリックは男爵令嬢を愛してしまい、彼女以外考えられないというのだ。 リリアーナの脳裏をよぎったのは、十年前、借金のかたに商人に嫁いだ姉の言葉。 『リリィ、私は真実の愛を見つけたわ。どんなことがあったって大丈夫よ』 そう笑って消えた姉は、五年前、首なし死体となって娼館で見つかった。 真実の愛に浮かれる王太子と男爵令嬢を前に、リリアーナは決意する。 ——私はこの二人を利用する。 ありとあらゆる苦難を与え、そして、二人が愛によって結ばれるハッピーエンドを見届けてやる。 ——それこそが真実の愛の証明になるから。 これは、婚約破棄された公爵令嬢が真実の愛を見つけるお話。 ※6/15 20:37に一部改稿しました。

【完結】聖女が世界を呪う時

リオール
恋愛
【聖女が世界を呪う時】 国にいいように使われている聖女が、突如いわれなき罪で処刑を言い渡される その時聖女は終わりを与える神に感謝し、自分に冷たい世界を呪う ※約一万文字のショートショートです ※他サイトでも掲載中

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

【完結】11私は愛されていなかったの?

華蓮
恋愛
アリシアはアルキロードの家に嫁ぐ予定だったけど、ある会話を聞いて、アルキロードを支える自信がなくなった。

処理中です...