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最終章
第272話 対オーガ 其の三
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「──ッ!」
右、一度後ろに大きく跳んで次は左。息つく暇もなくオーガの攻撃をひたすら避けつづける。
オーガと対峙してからどれほどの時間が経っただろうか。魔力操作を使いつつ体力を温存していても、さすがに体がそろそろ疲れてきたのを感じる。
「オオオオオオッ……!」
オーガの方もちょこまかと避ける俺に苛立っているのか、叫びながらこちらを抉るように拳を放ってくる。
オーガの攻撃は大きく分けて三つ──殴る、蹴る、それに爪での攻撃だ。師匠からは爪を使った攻撃をしてくるとは聞いていなかったので、初めて見たときは驚いた。
手を少し広げて爪を使う分、殴るときよりもリーチが伸びるのだが、未知の相手ということで余裕を持って避けていたことが功を奏した。
他の攻撃と同様に速いうえに爪を使った攻撃もきっと重いはず。もしたまたま初撃を避けられていなかったら確実に死んでいただろう。
こうしてオーガの相手をしている間に、街は静かになっていた。ときどき誰かの泣き声や瓦礫をどけるときの掛け声は聞こえるが、ほとんどの人はすでにどこかへと避難していることが窺える。
避難が進んでいることを確認し、少し安堵しているとドドドドという激しく地面を蹴る音がどこかから聞こえた気がした。幻聴だろうかと思ったが、耳を澄ますとドドドドという走る音が確かに少しずつ近づいてきている。
騎士団の増援……ではないな。集団で移動するならこんな移動の仕方はしない。冒険者……でもないな。音が大きくなってから分かったが、そもそも走っているのは一人だけだ。ならばこの音はもしかして──
「コルネくぅぅぅぅん!」
やはり師匠だった。
「ここは僕にまかせて。サクッと片付けるから」
「息が上がってますが、大丈夫ですか。俺が持たせるので師匠は少し休んでから──」
「いや、大丈夫。早いとこ倒して救助の方に向かいたいから」
師匠はオーガを下からキッと睨め付ける。普段の師匠からはかけ離れた鋭い眼差しに俺は気圧される。
オーガに視線を固定したまま素早く息を整え、師匠は走りだす。オーガの攻撃を見切っては避けながら確実に間合いを詰めていく。
攻撃から次の攻撃までの短い間に素早く地面を蹴り、オーガとの距離を縮めていくその速さ、度胸──さすがとしか言いようがない。。
もう少しでオーガに届く、というところで俺はあることに気付く。あのオーガの右手の振りきった後の動き──あれは爪での攻撃を繰り出すためのものだ。
まずい。師匠はこのオーガが爪を使っての攻撃もすることを知らないはず──だからきっとただ拳を振るう前提で避ける。でもそれだと避けきれない。もしあの爪が掠りでもすれば……!
「下がって! 師匠──」
叫ぶと同時に俺は、後ろに跳んでいる師匠の魔力を魔力操作で後ろに引っ張るが──足りない。
俺は他人の魔力での魔力操作はできないに等しい。何かに引っ張られたと感じさせる程度で、体はピクリとも動かせないのだ。
ましてや、今師匠と俺との間にはかなりの距離がある。魔力が動いたという感覚ももっと微かなものになるはずだ。お願いだ、気付いてくれ。
師匠を凝視していると、後ろに跳んでいる軌道が少し変わる。俺の魔力操作を感じて何かあると汲み取ってくれたんだろう、着地するであろうポイントが後ろへとずれていくが──
「──ウッ」
オーガの爪は避けきれず、師匠の体から鮮血がほとばしる。
右、一度後ろに大きく跳んで次は左。息つく暇もなくオーガの攻撃をひたすら避けつづける。
オーガと対峙してからどれほどの時間が経っただろうか。魔力操作を使いつつ体力を温存していても、さすがに体がそろそろ疲れてきたのを感じる。
「オオオオオオッ……!」
オーガの方もちょこまかと避ける俺に苛立っているのか、叫びながらこちらを抉るように拳を放ってくる。
オーガの攻撃は大きく分けて三つ──殴る、蹴る、それに爪での攻撃だ。師匠からは爪を使った攻撃をしてくるとは聞いていなかったので、初めて見たときは驚いた。
手を少し広げて爪を使う分、殴るときよりもリーチが伸びるのだが、未知の相手ということで余裕を持って避けていたことが功を奏した。
他の攻撃と同様に速いうえに爪を使った攻撃もきっと重いはず。もしたまたま初撃を避けられていなかったら確実に死んでいただろう。
こうしてオーガの相手をしている間に、街は静かになっていた。ときどき誰かの泣き声や瓦礫をどけるときの掛け声は聞こえるが、ほとんどの人はすでにどこかへと避難していることが窺える。
避難が進んでいることを確認し、少し安堵しているとドドドドという激しく地面を蹴る音がどこかから聞こえた気がした。幻聴だろうかと思ったが、耳を澄ますとドドドドという走る音が確かに少しずつ近づいてきている。
騎士団の増援……ではないな。集団で移動するならこんな移動の仕方はしない。冒険者……でもないな。音が大きくなってから分かったが、そもそも走っているのは一人だけだ。ならばこの音はもしかして──
「コルネくぅぅぅぅん!」
やはり師匠だった。
「ここは僕にまかせて。サクッと片付けるから」
「息が上がってますが、大丈夫ですか。俺が持たせるので師匠は少し休んでから──」
「いや、大丈夫。早いとこ倒して救助の方に向かいたいから」
師匠はオーガを下からキッと睨め付ける。普段の師匠からはかけ離れた鋭い眼差しに俺は気圧される。
オーガに視線を固定したまま素早く息を整え、師匠は走りだす。オーガの攻撃を見切っては避けながら確実に間合いを詰めていく。
攻撃から次の攻撃までの短い間に素早く地面を蹴り、オーガとの距離を縮めていくその速さ、度胸──さすがとしか言いようがない。。
もう少しでオーガに届く、というところで俺はあることに気付く。あのオーガの右手の振りきった後の動き──あれは爪での攻撃を繰り出すためのものだ。
まずい。師匠はこのオーガが爪を使っての攻撃もすることを知らないはず──だからきっとただ拳を振るう前提で避ける。でもそれだと避けきれない。もしあの爪が掠りでもすれば……!
「下がって! 師匠──」
叫ぶと同時に俺は、後ろに跳んでいる師匠の魔力を魔力操作で後ろに引っ張るが──足りない。
俺は他人の魔力での魔力操作はできないに等しい。何かに引っ張られたと感じさせる程度で、体はピクリとも動かせないのだ。
ましてや、今師匠と俺との間にはかなりの距離がある。魔力が動いたという感覚ももっと微かなものになるはずだ。お願いだ、気付いてくれ。
師匠を凝視していると、後ろに跳んでいる軌道が少し変わる。俺の魔力操作を感じて何かあると汲み取ってくれたんだろう、着地するであろうポイントが後ろへとずれていくが──
「──ウッ」
オーガの爪は避けきれず、師匠の体から鮮血がほとばしる。
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