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最終章
第264話 使者
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どこに止まるのだろうと思っていると、馬車はうちの前で止まった。短い馬の嘶きとともに馬車のドアが開く音が聞こえ、カツカツという靴音が近づいてくる。
するとすぐに玄関の扉の音がする。どうやら呼び鈴が鳴る前にヘルガさんがこちらから扉を開け、用件を訊いているようだ。道場の裏に出ていた師匠もなんだなんだと裏手のドアから顔を突っ込んで耳を澄ましている。
「ロンド様、来てください」
ヘルガさんが大きな声で師匠を呼んだので、持っていた練習用の重い剣を置き師匠は玄関へと向かう。師匠が行ってしまってはやることがない俺も師匠と一緒についていく。
「ロンド様、手違いで書状が来てなかったようなのですが、今日は王都に行く日だとこちらの方が」
師匠に状況を説明するヘルガさんの肩越しに扉の向こう側を見ると、そこには見たことのない若い男とその奥には初めて見る馬車が止まっていた。目を凝らすと、馬車の側面には小さく「防衛省」と書かれているから、きっと防衛省の持っている馬車なのだろう。
防衛省の馬車などこれまで来たことはなかったが……他の馬車が出払っていて違う管轄から引っ張ってきたのだろうか。
「本日は冒険者会議がありまして──諸事情で日時が変更になり、こちらから書状をお送りしたはずなのですが、手違いで届いていないようですね。誠に申し訳ないのですが……よほどのご予定がなければこちらにお乗りいただいて、我々と王都までご一緒いただけると……」
「そうですか、予定は特にないのでこのまま向かいたいのですがその前に。なぜいつも迎えに来る方ではなくあなたが来たんですか? それに馬車や御者の方もいつもと違いますよね?」
たしかに冒険者会議は数日後の予定で、あり得ない話ではないが、師匠も俺と同じようにそこが気になっていたらしい。仮に手違いがあったとしても、迎えに来た人や馬車まで違うのは不自然だ。
目の前にいる男は何かの目的で使者を騙っている偽物なのでは──そう訝しむのは当然だ。
「何分、急な変更だったのでこちらもバタバタしていまして──馬車の都合がなかなかつかず、こうして防衛省の馬車になってしまった次第でございます。防衛省にいて門外漢の私がここにいるということは、そのいつも迎えにこちらに伺っている方もおそらく別の仕事に追われているのではないでしょうか」
「なるほど、そういうことでしたか。すぐに準備してきます。ちなみに冒険者会議はなぜ今日になったんですか?」
にこりと微笑み、ついでのように質問を投げかける師匠。偽の使者ならここで動揺したり答えに詰まったりするかもしれないということだろう。きっと行くという意思表示で油断させたところで尻尾を出させようという狙いなのだ。
「ドリュファス王国の使者の都合で」
少し胡散臭いような笑みを崩さずにさらっと答える使者に動揺した素振りはない。
結局、師匠は準備をするために一度戻った後、馬車に乗った。
突然冒険者会議が前倒しになり、書状も届いていないというのはかなり不自然な気もするが、急な変更であれば出した書状が届けられなかったというのもあり得なくはない。日程の変更も外交上の理由なら仕方ない部分があり、納得できるものだ。
それに馬車には防衛省と刻まれているし、使者の方は王宮の文官が着る服を着ていたため、ある程度信用が置けるだろうということらしい。
ドリュファスの使者は何の用だったのだろうなどと思いを馳せながら俺は一人、裏で修行を始めるのだった。
するとすぐに玄関の扉の音がする。どうやら呼び鈴が鳴る前にヘルガさんがこちらから扉を開け、用件を訊いているようだ。道場の裏に出ていた師匠もなんだなんだと裏手のドアから顔を突っ込んで耳を澄ましている。
「ロンド様、来てください」
ヘルガさんが大きな声で師匠を呼んだので、持っていた練習用の重い剣を置き師匠は玄関へと向かう。師匠が行ってしまってはやることがない俺も師匠と一緒についていく。
「ロンド様、手違いで書状が来てなかったようなのですが、今日は王都に行く日だとこちらの方が」
師匠に状況を説明するヘルガさんの肩越しに扉の向こう側を見ると、そこには見たことのない若い男とその奥には初めて見る馬車が止まっていた。目を凝らすと、馬車の側面には小さく「防衛省」と書かれているから、きっと防衛省の持っている馬車なのだろう。
防衛省の馬車などこれまで来たことはなかったが……他の馬車が出払っていて違う管轄から引っ張ってきたのだろうか。
「本日は冒険者会議がありまして──諸事情で日時が変更になり、こちらから書状をお送りしたはずなのですが、手違いで届いていないようですね。誠に申し訳ないのですが……よほどのご予定がなければこちらにお乗りいただいて、我々と王都までご一緒いただけると……」
「そうですか、予定は特にないのでこのまま向かいたいのですがその前に。なぜいつも迎えに来る方ではなくあなたが来たんですか? それに馬車や御者の方もいつもと違いますよね?」
たしかに冒険者会議は数日後の予定で、あり得ない話ではないが、師匠も俺と同じようにそこが気になっていたらしい。仮に手違いがあったとしても、迎えに来た人や馬車まで違うのは不自然だ。
目の前にいる男は何かの目的で使者を騙っている偽物なのでは──そう訝しむのは当然だ。
「何分、急な変更だったのでこちらもバタバタしていまして──馬車の都合がなかなかつかず、こうして防衛省の馬車になってしまった次第でございます。防衛省にいて門外漢の私がここにいるということは、そのいつも迎えにこちらに伺っている方もおそらく別の仕事に追われているのではないでしょうか」
「なるほど、そういうことでしたか。すぐに準備してきます。ちなみに冒険者会議はなぜ今日になったんですか?」
にこりと微笑み、ついでのように質問を投げかける師匠。偽の使者ならここで動揺したり答えに詰まったりするかもしれないということだろう。きっと行くという意思表示で油断させたところで尻尾を出させようという狙いなのだ。
「ドリュファス王国の使者の都合で」
少し胡散臭いような笑みを崩さずにさらっと答える使者に動揺した素振りはない。
結局、師匠は準備をするために一度戻った後、馬車に乗った。
突然冒険者会議が前倒しになり、書状も届いていないというのはかなり不自然な気もするが、急な変更であれば出した書状が届けられなかったというのもあり得なくはない。日程の変更も外交上の理由なら仕方ない部分があり、納得できるものだ。
それに馬車には防衛省と刻まれているし、使者の方は王宮の文官が着る服を着ていたため、ある程度信用が置けるだろうということらしい。
ドリュファスの使者は何の用だったのだろうなどと思いを馳せながら俺は一人、裏で修行を始めるのだった。
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