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第十一章 サラの魔法道場編

第259話 サラの魔法道場 其の十六

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 出発日の朝、朝食の直後に少しだけ中身の減った小さな鞄を手に寮を出る。窓から見える空はからっと晴れていて道行きにはちょうどいい天気だ。

 寮の階段を下りていくと、いつもは聞こえるはずの喧騒が全くしなかった。俺が荷物の確認をしていた間にみんなもう練習場に向かったのだろうか。

 ひっそりとした寮を後にして門へ向かうと、そこにはルカやエリック、それにサラさん──おそらく道場の全員が門前に集まっていた。俺の見送りに来てくれたんだと思うと嬉しかった。

「コルネ、びっくりした?」
「てっきりみんな練習場に行ったんだと思って」

 悪戯が成功した子どものような顔でルカが訊いてくる。

「コルネ、短い間だったけどありがとう。いろんな魔法のヒントが得られたし、何より楽しかった」
「俺もコルネのおかげですごい魔法が使えるようになった。感謝してもしきれないよ」

 ルカとエリックがそう言うと、続くように今まで魔法の研究に付き合った人たちが口々に「ありがとう、ありがとう」と感謝の言葉をかけてくれる。

 滞在した期間はそんなに長くはなかったはずだが、その間にたくさんの人と関わってきたことをしみじみと感じた。

 俺にお礼を伝え終わった人は他の人の邪魔にならないようにサッと後ろに引いていき、全員が後ろに引いたのを確認して最後にサラさんが出てくる。

「コルネくん、うちに来てくれて本当にありがとう。たくさんの弟子たちが新しい魔法が使えるようになったり、手がかりを掴めたりした──道場主として礼を言うさね」

 深々と頭を下げるサラさん。Sランク冒険者であるサラさんが頭を下げることなど滅多にないだろう──その行為からとても弟子想いなのが伝わってくる。

「これは食堂で作ってもらった昼食、こっちはロンドへのお土産だよ。お土産は帰ってからみんなで食べるといいさね。それと──例の人探しの件は何か分かったらまた手紙で知らせるからね」

 手に持っていた小さな木箱を手渡してくる。蓋に書いてある文字から察するに中身は師匠の大好きな甘味だろう。サラさんは師匠のことをよく分かっているな。

「お客さん、そろそろ」

 ひととおり挨拶が終わった空気になって、静観していた御者さんが口を開く。俺は荷物を落とさないように気を付けながら馬車へと乗り込む。

 空いている席に弁当とお土産を置き、扉を閉めようとすると、ドアの前にルカが立っていた。

「コルネがくれたアレ、大切に使うから。それと……また手紙書くからさ、元気でね」

 他の人には聞こえないように小声でそう告げてからルカがドアを閉めてくれると、鞭の音と馬の嘶きが聞こえ、馬車が動きだす。

「またいつでも来ていいからね」

 お弟子さんたちと一緒に手を振りながらそう言うサラさんにまた来ますと短く答え、手を振り返す。そのままみんなの姿が見えなくなるまで俺は手を振りつづけていた。
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