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第十一章 サラの魔法道場編

第246話 サラの魔法道場 其の十一

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 ルカは練習場の隅の方で一人、紫色の球を浮かべていた。俺に気付くと制御を保ったまま、おーいと手を振ってくれる。寝ている間に無意識に魔法を使ったって聞いたけど、大丈夫なんだろうか。

「ルカ、大丈夫なの? 寝ている間に魔法を使ったって聞いたけど、相当参ってるんじゃ……」
「ちがうよ、コルネ──あれだよ、あれ。夜中にこっそり魔力結晶を試しただけなんだ。で、思ったより魔法の威力が出ちゃって染みが消しきれなかったのさ。他の人には内緒ね」

 周りに聞かれないように声を潜めて答えるルカ。そういうことだったのか、たしかに魔力結晶のことは言えないし、突然魔法が使いたくなったと言っても不審がられるだろうからな──ともかく、夢遊病や神経症じゃなかったようで安心した。

「──にしても、あれはすごいね。魔法を使うのが息をするみたいに自然にできた。威力五割増しっていう噂も嘘じゃなかったんだって思ったね。それはともかく、コルネには俺のオリジナル魔法を開発する手伝いをしてもらいたくて……なんというか相談があるというか……」

 目を輝かせて魔力結晶を使った感想を口にしていたルカがだんだんと歯切れが悪くなっていく。相談の内容が言いづらいものなんだろうか。少し視線を彷徨わせた後、ルカは覚悟を決めたように言葉を紡ぎだす。

「……俺、毒魔法が使えるだろ? ここのみんなは珍しい系統が使えて羨ましいって言ってくれるし、実際珍しい魔法は重宝されることがあるらしいけど、俺自身はあんまり好きじゃないんだ。威力の高い魔法は練習する度に薬飲まなくちゃいけないし、うっかり誰かが俺の毒に触れないように練習はいつも隅っこでしなくちゃいけないから──」

 俯いたまま続けるルカ。重たい前髪で表情は隠れて見えない。

「でももっと嫌なのは俺の魔法で誰かが傷付くこと。俺の魔法はどう使っても誰かを不幸にしてしまう。希少さは価値だ──言ってることは分かるんだけどさ、どうしても俺の魔法で誰かを幸せにできる気がしないんだ」

 声が震え、だんだんとルカの言葉が弱々しくなっていく。

「だからきっと俺は魔法を使わない方がいいんだ。でも、サラさんに拾ってもらってここで暮らして──せっかくできた唯一の居場所を俺は失いたくない。だから……誰かを笑顔にできるような魔法を──俺でも魔法を使ってもいいんだって思えるような魔法を、コルネならもしかしたら見つけてくれるんじゃないかと思って……」

 ちらりと髪の隙間から見えたルカの目は潤んでいた。
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