248 / 328
第十一章 サラの魔法道場編
第241話 サラの魔法道場 其の六
しおりを挟む
食堂に行くために男子寮を出て、サラさんの部屋がある棟へとまた戻る。
サラさんに魔法を見てもらって遅れることが多々あるため、食事の時間は正確には決まっていないらしいのだが、ほとんどの人は食堂が開くのと同時に向かうという。修行終わりでお腹が減っているのと、夜集まって遊ぶなら早く食べた方が都合がいいからだとルカは言っていた。
食堂の近くまで来ると賑やかな声がドア越しに聞こえてくる。他の部屋や廊下は静まり返っていて少し怖かったので、俺とルカの他に人がいることにホッとする。
ドアを開けるとうちの道場にもあるような長机がいくつか並んでいて、そこに所狭しと人が座っていて和気あいあいと食事を摂っている。
俺たちも厨房の人から各々の分を受け取り、人がいる隣の席に着く。いつものように食前のお祈りをし、さあ食べようとしたところでルカくんに止められる。
「リサ、いつもの頼める?」
「はいよ──ファイア」
ルカの隣の隣に座っているリサと呼ばれた快活な少女はもぐもぐと口を動かしながら右手をルカのお皿に向ける。すると、料理の少し上に拳ほどの大きさの火の玉が現れる。
安定した綺麗な炎に見入っていると、スッと火の玉は下に移動する。それ以上移動したらルカくんの料理が黒焦げに──と思ったが、その前に火の玉は止まる。
そこから料理と一定の距離を保ちながら火の玉はパン、スープ、お肉──全ての料理の上を横に移動していく。これはもしかして料理を温めている……?
「あ、コルネのもお願い」
ルカがそう言うと、口の中が空っぽになったリサが「へいへい」と返しながら俺の料理の上に火の玉を移す。そしてまた同じように料理の上を一周すると、火の玉は消えた。
「こうやって少し温めると美味しくなるから、いつもやってもらってるんだ。ありがと、リサ」
「ありがとうございます」
喧騒の中でも俺たちの声は聞こえたようで、リサさんがパンを頬張りながらグッと親指を立てる。
「じゃあ食べよっか」
ルカくんがスープを掬うのを見て俺もスープを一口飲む。さきほどの炎でほどよく温まっており、ちょうどいい温度になっている。
加減は慣れればできるようになるが、俺がすごいと思ったのは火の玉は揺れることなく滑らかに動き、料理に近づきすぎることがなく正確にコントロールされていた点だ。食べながらしていたとは思えないほどの精度の魔法──よほど熟練していると見える。
感覚としてはきっと俺が串焼きを温めるようなものだったのだろうが、そこから垣間見える異卓越した制御……すごいな。これがサラさんの魔法道場の門下生か。
サラさんに魔法を見てもらって遅れることが多々あるため、食事の時間は正確には決まっていないらしいのだが、ほとんどの人は食堂が開くのと同時に向かうという。修行終わりでお腹が減っているのと、夜集まって遊ぶなら早く食べた方が都合がいいからだとルカは言っていた。
食堂の近くまで来ると賑やかな声がドア越しに聞こえてくる。他の部屋や廊下は静まり返っていて少し怖かったので、俺とルカの他に人がいることにホッとする。
ドアを開けるとうちの道場にもあるような長机がいくつか並んでいて、そこに所狭しと人が座っていて和気あいあいと食事を摂っている。
俺たちも厨房の人から各々の分を受け取り、人がいる隣の席に着く。いつものように食前のお祈りをし、さあ食べようとしたところでルカくんに止められる。
「リサ、いつもの頼める?」
「はいよ──ファイア」
ルカの隣の隣に座っているリサと呼ばれた快活な少女はもぐもぐと口を動かしながら右手をルカのお皿に向ける。すると、料理の少し上に拳ほどの大きさの火の玉が現れる。
安定した綺麗な炎に見入っていると、スッと火の玉は下に移動する。それ以上移動したらルカくんの料理が黒焦げに──と思ったが、その前に火の玉は止まる。
そこから料理と一定の距離を保ちながら火の玉はパン、スープ、お肉──全ての料理の上を横に移動していく。これはもしかして料理を温めている……?
「あ、コルネのもお願い」
ルカがそう言うと、口の中が空っぽになったリサが「へいへい」と返しながら俺の料理の上に火の玉を移す。そしてまた同じように料理の上を一周すると、火の玉は消えた。
「こうやって少し温めると美味しくなるから、いつもやってもらってるんだ。ありがと、リサ」
「ありがとうございます」
喧騒の中でも俺たちの声は聞こえたようで、リサさんがパンを頬張りながらグッと親指を立てる。
「じゃあ食べよっか」
ルカくんがスープを掬うのを見て俺もスープを一口飲む。さきほどの炎でほどよく温まっており、ちょうどいい温度になっている。
加減は慣れればできるようになるが、俺がすごいと思ったのは火の玉は揺れることなく滑らかに動き、料理に近づきすぎることがなく正確にコントロールされていた点だ。食べながらしていたとは思えないほどの精度の魔法──よほど熟練していると見える。
感覚としてはきっと俺が串焼きを温めるようなものだったのだろうが、そこから垣間見える異卓越した制御……すごいな。これがサラさんの魔法道場の門下生か。
0
お気に入りに追加
230
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
王太子さま、側室さまがご懐妊です
家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。
愛する彼女を妃としたい王太子。
本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。
そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。
あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる