217 / 328
第十章 Aランク昇格編
第211話 Aランク昇格への挑戦 其の五
しおりを挟む
二十四日目。もう三日連続で討伐に行っていない。今日こそは行かないとという気持ちもあったが、三日前に二体倒せてるからいいかという言い訳で、今日も宿屋でぼーっとしたり街をふらふらと歩いたりしていた。
日が落ちきって、街の灯りが次々と燈りだすのを宿屋の窓から眺める。通りの向かいにある飲食店には特にたくさんの人が吸い込まれていく。きっと繁盛しているのだろう。
そうだ、夏は日の入りが遅いから、外は暗くなったばかりでもそれなりの時刻のはずだ。そろそろご飯を食べに行かなくちゃ。明日こそはギルドに行くために早く寝るって決めたじゃないか。
座っていたベッドから立ち上がり、階段を下りていくと突然声をかけられる。この声は──いや、こんなところにいるはずは……
「コルネくん!」
「……ヘルガ、さん?」
俺のことを知っているということは他人の空似というわけでもなさそうだ。
「どうしてここに?」
「少し様子を見にきました。『元気』にやっていますか?」
「……ッ!」
──しまった。俺がしてしまった反応は、そうではないと言っているようなものだ。本当に元気ならさらりと答えるだろう。
実際、俺は『元気』ではないだろう。なんとなくギルドに行く気が起きなくて三日連続でクエストを受けてすらいないのは、明らかに元気とは言えない。
なんで隠していたのかと責められるんだろうかと考えていると、ぐぅ、という音がヘルガさんのお腹から聞こえてくる。
ちょうど他のお客さんも静かなタイミングだったので、今の音は全員に聞こえてしまっただろう。
「……ご飯を食べながらゆっくり話しましょうか」
そう切りだしたヘルガさんの顔は少し赤い気がした。
「──というわけで、私はここに来ました」
ご飯を食べながら、まずはヘルガさんが来た経緯を聞く。手紙からそれが書かれたときの俺の状態を推測する──嘘みたいな話だ。
俺は何も気にせず手紙を書いただけなのに……いや、たしか二通目を書くときは「元気」と書いていいのか逡巡はした。それが字に現れてしまったのかもしれないが、出す前に気付かないほどの微妙なものなはず。
たったそれだけから俺の状態に気付くなんてヘルガさんは本当に何者なんだろうか。
「それで、このまま続けますか?」
説明を終えて、ヘルガさんはいきなり本題に入ってくる。
「……ここまで来てやめたくはありません。せっかく師匠と長い間準備してきましたし、今までのペースなら三ヶ月に間に合うと思います。でも……」
「──気が滅入ってしまってペースが落ちてきている、のではありませんか?」
俺が言おうとしたことが先にヘルガさんの口から出てくる。まるで俺が今どんな状態なのかを全て知っているかのようだ。
「……はい。だからこのままではいずれ予定よりも遅くなってしまうのは明らかで……」
「──なら、一度ラムハまで帰ってみてはどうでしょう」
「え?」
「コルネくんなら移動は速いですし、戻って何日かは序盤のペースで討伐できるのならば、十分に帰る余裕はあると思います」
ラムハに帰る──か。そんな選択肢は思いつきもしなかった。ここからならラムハまで二日くらいだろうか──行って戻るのに四日なら、取り戻せる範囲だ。
正直ずっと帰りたかった。でも今までは早く帰るためにはさっさと全部のモンスターを倒さないといけなくと思ってて……でも途中で帰っても大丈夫なら、今すぐ帰ろう。
どうせこのまま続けてもどんどんペースが落ちていくだけだ。
日が落ちきって、街の灯りが次々と燈りだすのを宿屋の窓から眺める。通りの向かいにある飲食店には特にたくさんの人が吸い込まれていく。きっと繁盛しているのだろう。
そうだ、夏は日の入りが遅いから、外は暗くなったばかりでもそれなりの時刻のはずだ。そろそろご飯を食べに行かなくちゃ。明日こそはギルドに行くために早く寝るって決めたじゃないか。
座っていたベッドから立ち上がり、階段を下りていくと突然声をかけられる。この声は──いや、こんなところにいるはずは……
「コルネくん!」
「……ヘルガ、さん?」
俺のことを知っているということは他人の空似というわけでもなさそうだ。
「どうしてここに?」
「少し様子を見にきました。『元気』にやっていますか?」
「……ッ!」
──しまった。俺がしてしまった反応は、そうではないと言っているようなものだ。本当に元気ならさらりと答えるだろう。
実際、俺は『元気』ではないだろう。なんとなくギルドに行く気が起きなくて三日連続でクエストを受けてすらいないのは、明らかに元気とは言えない。
なんで隠していたのかと責められるんだろうかと考えていると、ぐぅ、という音がヘルガさんのお腹から聞こえてくる。
ちょうど他のお客さんも静かなタイミングだったので、今の音は全員に聞こえてしまっただろう。
「……ご飯を食べながらゆっくり話しましょうか」
そう切りだしたヘルガさんの顔は少し赤い気がした。
「──というわけで、私はここに来ました」
ご飯を食べながら、まずはヘルガさんが来た経緯を聞く。手紙からそれが書かれたときの俺の状態を推測する──嘘みたいな話だ。
俺は何も気にせず手紙を書いただけなのに……いや、たしか二通目を書くときは「元気」と書いていいのか逡巡はした。それが字に現れてしまったのかもしれないが、出す前に気付かないほどの微妙なものなはず。
たったそれだけから俺の状態に気付くなんてヘルガさんは本当に何者なんだろうか。
「それで、このまま続けますか?」
説明を終えて、ヘルガさんはいきなり本題に入ってくる。
「……ここまで来てやめたくはありません。せっかく師匠と長い間準備してきましたし、今までのペースなら三ヶ月に間に合うと思います。でも……」
「──気が滅入ってしまってペースが落ちてきている、のではありませんか?」
俺が言おうとしたことが先にヘルガさんの口から出てくる。まるで俺が今どんな状態なのかを全て知っているかのようだ。
「……はい。だからこのままではいずれ予定よりも遅くなってしまうのは明らかで……」
「──なら、一度ラムハまで帰ってみてはどうでしょう」
「え?」
「コルネくんなら移動は速いですし、戻って何日かは序盤のペースで討伐できるのならば、十分に帰る余裕はあると思います」
ラムハに帰る──か。そんな選択肢は思いつきもしなかった。ここからならラムハまで二日くらいだろうか──行って戻るのに四日なら、取り戻せる範囲だ。
正直ずっと帰りたかった。でも今までは早く帰るためにはさっさと全部のモンスターを倒さないといけなくと思ってて……でも途中で帰っても大丈夫なら、今すぐ帰ろう。
どうせこのまま続けてもどんどんペースが落ちていくだけだ。
0
お気に入りに追加
230
あなたにおすすめの小説
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが
Rohdea
恋愛
結婚式の当日、花婿となる人は式には来ませんでした───
伯爵家の次女のセアラは、結婚式を控えて幸せな気持ちで過ごしていた。
しかし結婚式当日、夫になるはずの婚約者マイルズは式には現れず、
さらに同時にセアラの二歳年上の姉、シビルも行方知れずに。
どうやら、二人は駆け落ちをしたらしい。
そんな婚約者と姉の二人に裏切られ惨めに捨てられたセアラの前に現れたのは、
シビルの婚約者で、冷酷だの薄情だのと聞かされていた侯爵令息ジョエル。
身勝手に消えた姉の代わりとして、
セアラはジョエルと新たに婚約を結ぶことになってしまう。
そして一方、駆け落ちしたというマイルズとシビル。
二人の思惑は───……
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
婚約破棄された公爵令嬢は、真実の愛を証明したい
香月文香
恋愛
「リリィ、僕は真実の愛を見つけたんだ!」
王太子エリックの婚約者であるリリアーナ・ミュラーは、舞踏会で婚約破棄される。エリックは男爵令嬢を愛してしまい、彼女以外考えられないというのだ。
リリアーナの脳裏をよぎったのは、十年前、借金のかたに商人に嫁いだ姉の言葉。
『リリィ、私は真実の愛を見つけたわ。どんなことがあったって大丈夫よ』
そう笑って消えた姉は、五年前、首なし死体となって娼館で見つかった。
真実の愛に浮かれる王太子と男爵令嬢を前に、リリアーナは決意する。
——私はこの二人を利用する。
ありとあらゆる苦難を与え、そして、二人が愛によって結ばれるハッピーエンドを見届けてやる。
——それこそが真実の愛の証明になるから。
これは、婚約破棄された公爵令嬢が真実の愛を見つけるお話。
※6/15 20:37に一部改稿しました。
【完結】聖女が世界を呪う時
リオール
恋愛
【聖女が世界を呪う時】
国にいいように使われている聖女が、突如いわれなき罪で処刑を言い渡される
その時聖女は終わりを与える神に感謝し、自分に冷たい世界を呪う
※約一万文字のショートショートです
※他サイトでも掲載中
虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~
日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。
十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。
さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。
異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる