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第十章 Aランク昇格編

第199話 覚悟

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「いいんですか? せっかく何年か遅らせることができそうだったのに」

 早起きをしたコルネが倒れるように眠った後、夕食の後片付けを終えた私は、仄かな灯だけが照らす食堂でロンド様と話していた。

「これがコルネくんにとっては最善だと思ったんだ。ここで暮らしている以上、一人で旅をするにしても限度があるだろう?」
「たしかにこの挑戦で彼の実力は一段と伸びるでしょうけど……もしAランクに上がってしまえば、かもしれないんですよ」

 Aランク相当のモンスターは国内でも限られた場所でしか生息が確認できておらず、その対応にあたるために多くのAランクパーティは最寄りのギルドを拠点としている。

 もちろんその分討伐クエストの報酬はいいのだが、その度に危険もついてくる上に、しばらくその土地を離れるのも難しくなる。モンスターが下りてきたときに誰かがいる必要があるからだ。

 Aランクともなると一体の討伐報酬がそれなりの額になるため、あまり積極的にクエストを受けなくてもよくなるらしいが、自由は利かなくなると聞いている。

 現在ではパーティの数は各Aランクモンスターの生息地に間に合っているようで、いくつかのパーティは旅をしながら活動しているらしいのだが、もしどこかのパーティが欠ければ招集がかかる。

 もし招集に応じる者がいなければ、国がパーティを指名し、そのパーティはそこを守るという役目に就くことになる。

 僻地のギルドだと募集をかけても集まらず、指名されるということは過去にも何回かあった。もちろんこの国で暮らす以上、それに逆らうという選択肢はない。

 例えば、メンバーの誰かが腕を失ったり、病気にかかったり、歳を取り討伐に耐えられない体になってしまったり──人員の補充もAランクにまでなると不可能に近く、そういった理由で解散していくパーティは多い。

 つまりコルネくんがAランクに昇格したとして、どこか遠いギルドへ派遣される可能性はそれなりにある。昇格したてですぐに、という可能性は低いが、一気にいくつかのパーティが解散するなんてことも十分にあり得る。

 それを覚悟した上でロンド様は決断なさったのだ。

「それでもコルネくんが上を目指したいのなら、僕は止められないよ。レオンさんやサラさんのところだって、みんないつかは巣立っていくだろう? 弟子っていうのはそういうものなんだよ、きっと」

 寂し気な遠い目をして微笑むロンド様は、これでいいんだと自分に言い聞かせているようだった。

「寂しくないと言ったら嘘になるけど、僕はこうすべきだと思うんだ」

 月の光を反射しているロンド様の眼は潤んでいた。
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